243 小屋の建築

 フィオは、陸ザメたちを指さした。


「りくざめたちは、てんさいをじめんにうめてたよ」

「めえ~」「ちゅちゅ」


 ヤギたちとカヤネズミたちは言う。

 それは考えないこともなかった。


 だが、ヤギたちの主食の草は、地面に埋めたら腐るのだ。

 カヤネズミたちの夏の主食である虫も腐る。


 だから、雪の下にある草をほじくり返して食べるしかない。


「そかー。くさうめたら、くさるかー」

「めえ~」「ちちゅ」「ほほほぅ」


 ストラスたち、フクロウも一緒に考えているようだ。


「すとらすは? ふゆのごはんだいじょぶ?」

「ほっほう」


 やはり、冬の間、フクロウたちの餌も少なくなるのだという。


「ほうほほう?」

「うん。まろうもおなじ。ごはんすくない!」


 そして、フィオはケリーを見る。


「けりー。ひとはどやて、ためるの?」

「ん? 人のご飯か? それは小麦とか……」

「やぎとかのごはん」

「ああ、そっちか。牧草を溜めておくんだ」

「ふむふむ。くさらない?」

「こうなんといえばいいか、塔みたいな場所に……」


 ケリーは地面に枝で図を描いていく。


「サイロっていうんだが、こういう塔に牧草を入れるんだ」

「ふむふむ」

「めえめえ」「ちちゅ」「ほっほう」

「そうすると、説明するのが難しいが、そうすると発酵して腐らないんだ。発酵は腐るににた現象ではあるんだが……」

「ふむ?」「めえ?」「ちゅ?」「ほっほ?」


 発酵が難しかったようだ。

 フィオもヤギたちも、カヤネズミたちも、フクロウたちも、首をかしげている。


「ておさん、つくれる?」

「ん? ああ、サイロなら作れるぞ、だが……」

「そうだね。今からだと冬までには間に合わないかな」


 サイロに入れた牧草が発酵するまで三か月程度かかる。


「そもそもだ、新大陸の草が、旧大陸の牧草と同じように発酵するとは限らない」

「むずかしいね!」

「試しにサイロを作ってみるか? うまく発酵させることができるかはわからないが」

「それも面白そうだね」

「うん!」「めえめえ」「ちゅちゅ」「ほう」


 フィオたちも賛同してくれた。


「ボアボア、いいかい?」

「ぶい!」


 ボアボアも建てていいと言ってくれる。


「じゃあ、小屋の近くに作ることにするよ。さて……」


 ケリーとフィオたちが話し合っている間に、小屋の基本設計は終わった。


「作業に入るぞ」

「ぴい!」


 肩に乗ったピイが任せろと言ってくれる。


「頼んだ、ピイ」


 俺は建設予定の地面に鑑定スキルを発動する。

 地中の構造を把握することは大切だ。


 近くに建てるサイロの建築予定地もついでに調べる。

 上水と下水を通すので、近くの配管とそれをつなぐ経路も鑑定で導き出した。


「うん。地盤は問題ない。配管もそう難しくないな」

「ぴい」


 鑑定スキルを使うと、ピイがマッサージしてくれる。

 すると、凝りがほぐれて、疲れにくくなるのだ。


「次は建材だな」


 魔法の鞄マジック・バッグから木材と石材を取り出していく。

 金属のインゴットも忘れてはいけない。

 蝶番など要所要所に金属を使えると便利なのだ。

 それに、上水と下水にも金属を使う。

 ガラスの窓を作るために砂も取り出しておく。


「さて、次は建材の鑑定だ」


 ヤギたちやカヤネズミたち、フクロウたちに説明するために口に出す。


 建材にも鑑定スキルをかけて、その特性を把握していった。

 金属インゴットはなんでも鑑定しているし、そもそもインゴット精製時に均一に作ってある。

 だから、特性把握は一瞬だ。


 石材も比較的簡単に鑑定は終わる。

 これまで何度も鑑定しているし、同じ場所からとった石材は、特性も似ているからだ。

 ガラス窓の材料である砂も特性は似ているので、特性把握は簡単である。


 だが、木材の方はやはり個性がある。

 近い場所で育った樹齢も近い、同じ種の木なのに、やはり個性があった。


「ふう。……鑑定が終わったら建築だ。イメージを固めたら一気に行くよ」


 特性を把握した建材を使って、どのような建物を作るのか。

 それを精密に頭の中で描いていく。


 髪の毛一本分の隙間も、全て計算し尽くす。


「…………」


 これまで、拠点でたくさんの建物を建てた。

 ヒッポリアスの家、食堂、冒険者たちの宿舎、病舎にトイレ、お風呂。


 それにボアボアの家とボアボア用のお風呂、農具倉庫。


 新大陸に来てから、建物をたくさん建てたものだと思う。


 旧大陸にいた頃、製作スキルは武器防具の補修のために使っていた。

 他には戦闘時のサポートだ。

 敵の攻撃を防ぐ為に咄嗟に土壁を作ったり、落とし穴を作ったり。


 咄嗟に判断して即座に作る。それがほとんどだったのだ。

 精度より速さを求められることが多かった。


 武器防具の補修も、戦闘中に行なうことも多かった。

 何より速さが大事だった。


 だが、新大陸に来てからは精度を求められることが多くなった。


「スローライフか」


 速さを求められない製作。

 遅くても誰も死なない製作。

 そんな製作をしているときこそ、俺はスローライフをしている気になるのだ。

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