221 子魔狼の体調を調べよう

 シロがご飯を食べ終わるのとほぼ同時に、子魔狼たちもご飯を食べ終わる。

 すぐに俺の足に両前足を乗せて甘えはじめた。


『くろも!』「ぁぅ」『おなかいっぱい』

「クロも教えて欲しいのか。それはもう少し大きくなったらだな」


 どの魔獣も小さい頃は魔力による身体強化は使えないものだ。

 力加減もわからないのに、身体強化を覚えたら、大きな事故につながりかねない。

 母乳を飲むときに強く噛みすぎたり、兄弟でじゃれあっているときに殺したりしてしまうかもしれない


『あそぼ』「ゎぅ」『みずのむ』

「ああ、そうか、水も飲もうな」

 お皿に水を入れると、子魔狼たちはピチャピチャ音を立てて飲み始める。

 飲み終わると、俺は食事を中断して、ロロをを抱き上げた。


「どれどれ、ロロのお腹はどうかな」

 ロロをひざの上に仰向けで寝っ転がらせる。

 そして、お腹を優しく撫でて調べた。


「うん。いつも通りかな」

「ぁぅ」

「トイレに行きたくなったらすぐいうんだよ」

「ゎぅ」

『くろもくろも!』

 どうやら、クロもロロみたいに、チェックして欲しいらしい。


「わかったよ」

 ロロを床に降ろして、代わりにクロをひざの上に乗せる。

 仰向けにひっくり返して、お腹を撫でる。

 嬉しいらしく、クロは尻尾を勢いよく振った。


「クロも問題なさそうだぞ」

「ぴぃ~」

 クロは甘えて鼻を鳴らした。


『るるもるるも』

 そんなクロを見て、ルルもうらやましくなったらしい。


「そっか、ルルもだな」

 俺はクロを降ろして、ルルをひざの上に乗せる。

 そして仰向けにして、お腹を撫でた。

 ルルも嬉しいのか尻尾を勢いよく振っている。


「うん、ルルも問題なさそうだぞ」

「きゅーん」

 ルルも甘えて鳴いている。


 そんなルルも床に降ろした後、俺は食事を再開する。

 足には子魔狼たちが前足を掛けて「きゅんきゅん」鳴いていた。

 食事の合間に子魔狼たちを順番に撫でることを忘れてはいけない。

 途中でご飯を食べ終わったヒッポリアスも子魔狼たちに加わった。


「ソレで、シュウカクデキタ、エンバクのリョウは――」


「危険な魔物の気配、痕跡は見つかりませんでしたね」

「土壌的に特筆すべき点といえば――」

「冬はは風が強い可能性が高いです。ええ、陸から海に向かって吹く風ですね――」


 俺がご飯を食べながら子魔狼たちの相手をしている間に、イジェが燕麦収穫について語っていた。

 イジェの説明の途中、ヴィクトルや地質学者と気候学者も補足している。

 俺はそれを聞きながら、ご飯を食べて、子魔狼を撫でる。


 話の途中でヤギの話になった。

 当然ヤギとの交渉をになった俺に説明を求められる。


「ただのヤギではなく魔獣のヤギだった。正確は温厚で友好的だ。イジェの一族との関係が――」

 俺が説明すると、拠点に残った者だけではなく、一緒に収穫していた冒険者たちも興味深そうに聞いていた。


 拠点に残った組と収穫組で、互いに情報共有をし終わると、イジェが言う。


「テオさん、エンバクをホシタイ。ダカラ、ホスダイをツクッテホシい」

「了解。大きさはどのくらいがいい?」

「エット……」


 イジェと一緒に干す台について打ち合わせをする。


「以前洗濯物を干すために作ったものがあるから、それと同じでいいかな」

「ウン」


 今では洗濯担当の臣下スライムが乾燥までやってくれるので全く使われていない。

 再利用できるなら、無駄にならないのでとても良い。


「拠点の中庭では広さが足りないな」

 収穫してきた燕麦はかなりの量がある。

 それこそ、拠点に住む全員が毎日食べても、一年で食べきれないほどだ。

 もちろん、ボアボアやヒッポリアスが本気を出せば、すぐに無くなるだろうが、人だけなら充分だ。


「ボアボアのイエのチカクにツクル?」

「畑の予定地にならべようか?」

「ソレがヨサソウ」

 そんなことを話していると、冒険者の一人が言う。


「鳥を防ぐ方法はないかな」

「鳥か。食べに来るよな、当然。ケリー良い案はないか?」


 俺が尋ねても、ケリーは無言のままだった。

 ご飯も途中で食べるのをやめたらしく、皿にはたくさんご飯が残っていた。


「ケリー?」

「ん? ああ。なんだ?」

「どうした、体調が悪いのか?」


 俺が尋ねると、ケリーは怪訝そうに首をかしげ、たくさん残っている自分の皿に目をやった。

「あ、すまない。ご飯は美味しいんだが。気になることがあって考え事をしていた」

 そして、ケリ-は食事を再開した。

 そんなケリーに俺は改め尋ねた。

「ケリー、鳥の害を防ぐ方法はないか?」

「……まさにそれが問題なんだ」

「お、鳥害を防ぐ方法を真剣に考えてくれていたのか。さすがケリー」


 収穫組の話を聞いて、鳥害が問題になると思いつき、食事を忘れるほど真剣に考えてくれたらしい。

 俺はそう思ったのだが、

「そうじゃない。そもそもだ。なぜ鳥害が起きていないんだ?」

 再び食事の手を止めたケリーは、真剣な表情でそう言った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る