121 ボアボアの巣に戻ろう

 俺は少し考えて、ヴィクトルに言う。


「ヴィクトル。俺は今夜はボアボアのところに泊まろうと思う」

「……そうですね。治療したとは言え重傷だったんですものね。それがいいかも知れません」


 拠点に戻ってきたのは、食中毒で苦しんでいるジゼラを運ぶためだ。

 定期連絡の意味もあるが、それはメインではない。


「ジゼラは元気そうだし、毒赤苺の治療は、治癒術師も慣れているし。薬を渡しておけば大丈夫だろう」

「そうですね」

「ジゼラも大丈夫か?」

「うん、大丈夫。ありがと」



 俺はイジェとフィオとシロの頭を撫でる。

「ジゼラを頼む」

「わかた!」

「マカセテ」

「わふ」

「子魔狼のことも頼んだ」

「こまろ、だいじょぶ」

「ウン」

「わふわふ」


 イジェもフィオも、シロも心強い。


「ヒッポリアスとピイは付き合ってくれ」

『わかった』

「ぴいい」


 そして、俺は毒赤苺の解毒薬を多めに作って、ジゼラの魔法の鞄に入れる。


 その作業中に声をかけられた。

「テオさん」

「どうした、ケリー」

「私も行こう」

「ケリーも来てくれるのか」

「うむ。重傷のボアボアの治療ならば、私の知識が役に立つかも知れないからな」

「それはありがたいが……。いいのか? 洞穴の中で泊まることになるぞ」

「それがどうした。それは私の日常だ」

「魔獣学者ならそうかもな」

「屋根があるだけ、上等だよ」


 魔獣学者は冒険者に似ているのかもしれない。


「それじゃあ、ケリーも来てくれ」

「うむ。少し準備をしてくる!」


 そういって、ケリーは走って出て行った。

 色々と道具が在るのだろう。


 五分足らずでケリーは戻ってきたので、俺達も出発する。

 ヒッポリアスの家を出ると、俺はケリーとピイと一緒にヒッポリアスの背に乗った。


「ふむ。ヒッポリアスの背の乗り心地は悪くないな」


 そんなことを言いながら、ケリーはヒッポリアスの背を撫でまくる。


「きゅお?」

「うん、出発してくれ」


 ヒッポリアスは勢いよく洞穴へ向けて走りだした。


「きゅおきゅおきゅお!」

「ヒッポリアス、ゆっくりでもいいんだからな」


 ヒッポリアスが、元気に勢いよく走るので、首を優しく叩いてなだめておく。


『ひっぽりあすはだいじょうぶ! つおいから』

「そうかそうか。ヒッポリアスは強いものな」

『うん!』


 ヒッポリアスが張り切ってくれたおかげで、あっという間に洞穴前に到着した。


「この洞穴がボアボアの巣か」

「そうだ。ちょっと待ってくれ」


 俺は洞穴の中に入る前に呼びかける。


「ボアボア! テオドールだ。中に入るぞ」

「……ぶぼ」


 入っていいと中から返事があった。


「ケリーとヒッポリアスはここで待っていてくれ。ボアボアに話しを通してくる」

「わかった。任せる」

「きゅおきゅお」


 俺はピイだけ連れて、洞穴の中へと入っていく。

 魔道具の明かりを付けるのを忘れない。

 少し奥に入って曲がると、広くなっており、ボアボアが横になっていた。

 そのボアボアの近くに子供と飛竜が寄り添っている。


「ボアボア。具合はどうだ?」

「ぶぼ」


 ボアボアは大丈夫と言っている。

 だが、怪我人の大丈夫はあまりあてにできない。


 俺の肩からピイが降りて、ボアボアの身体に触れる。

 そして腰の辺りを覆った。


「ぴいっ!」

「ぶぼ」


 どうやらマッサージをして、怪我の治りを早くしようとしてくれているらしい。

 ボアボアも気持ちがいいとお礼を言っている。


「ボアボア。痛みはどうだ?」

「ぼぼぼ」

「ましになったか。それならいいんだが」

「ぼ」

「ああ、気付いたか。実は俺の仲間であるケリーという魔物に詳しい奴とヒッポリアスという子供の竜も来ているんだ」

「ぶっぼ」


 中に入ってもらってくれと、ボアボアは言う。


「ありがとう。少し待っていてくれ」


 俺は一度外に出て、ケリーとヒッポリアスを呼びに行く。

 そして、小さくなったヒッポリアスを抱いて、ケリーと一緒に中へと入る。


「ボアボア。飛竜、そして、ボアボアの子供」

「ぶぼ」

「があ」「ぶぼぼぉ」

「この人がケリーだ。魔物に詳しい。怪我の具合を見て貰うために来て貰った」


 飛竜とボアボアの子供は、ケリーの匂いを嗅ぎにいく。


「ケリーだ。よろしく頼む」


 ケリーも匂いを思う存分臭いを嗅がせている。


「ぶぼぼ」


 一方、怪我で動けないボアボアは礼儀正しく、よろしくと言っていた。


「そして、この子がヒッポリアス、竜の子供だ」

「きゅお!」


 俺に抱かれているヒッポリアスは尻尾をぶんぶんと元気に振る。

 ヒッポリアスがボアボアたちの匂いを嗅ぎたそうにしているので、地面に下ろした。


「きゅおきゅお」

「ぶぼぼぼ」「があ」「ぼぼ」


 ヒッポリアスは臆することなくボアボアたちと挨拶していた。 


「ケリー。ボアボアの怪我の具合を見てやってくれ」

「ああ、わかっている。ボアボア。怪我を見せてくれ」

「ぶぼぉ」


 ボアボアはお腹の怪我をケリーに見せるために身体を動かす。


「ありがとう……。うん、血は止まっているな」

「ぼぼ」


 ボアボアは俺の薬のおかげだと言ってくれてた。

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