106 農作業の後のおふろ

 俺はヒッポリアスとシロとピイ、そしてヴィクトルたち男性冒険者と一緒に風呂へと入る。

 子魔狼たちはフィオとイジェと一緒にお留守番だ。


 浴場にはいると、シロとヒッポリアスは期待のこもった目でこっちを見る。

 ちなみにピイは俺の頭の上に登って、もう汚れを取り始めてくれていた。


「シロの方が汚れているから、まずはシロから洗ってやろう」

「わふ!」

「ヒッポリアス。少し待っていてくれ」

『わかった!』


 俺はシロを丁寧に洗っていく。


「泥が凄いな」

「わふ」

「シロ、目をつぶって、顔の泥をとるからな」

「ぁぅ」


 シロの身体の隅々まで洗っていった。

 爪に入り込んだ泥も忘れてはいけない。


「よし、綺麗になったな。次はヒッポリアスだ」

「きゅうお!」


 俺はヒッポリアスを抱きかかえて、綺麗に洗う。

 ヒッポリアスも汚れてはいる。

 だが、毛がないので、汚れを落とすのは簡単だ。


「よし、綺麗になったな」

「…………」


 ヒッポリアスはじっとこっちを見ている。


「どうした?」

『もっと』

「もっと洗って欲しいのか?」

『そう』


 シロより洗う時間が短かったのが、ご不満らしい。


「綺麗なんだが、もう一回洗うか」

「きゅお」


 もう一度、ヒッポリアスを綺麗に洗う。


「よし、綺麗になったから風呂に入っていなさい」

『ておどーる、おふろはいろ!』「わふ!」

「先に入っていていいんだぞ」

『まってる』「わふわふ!」

「そうか、じゃあ、少し待っていてくれ」


 俺は自分も洗う。

 だが、自分を洗う頃には、ピイのおかげで汚れはほぼ綺麗になっていた。


「ピイ、いつもありがとうな」

「ぴぃぴぃ!」


 おかげで軽く洗うだけでいい感じになっていく。

 身体を綺麗に洗った後、ヒッポリアスたちと一緒に湯船へと入る。


 湯船には既に冒険者たちが入っていた。

 ヴィクトルも入っている。


「ヴィクトル大丈夫か?」

「おかげさまで。久しぶりのお風呂は気持ちがいいですよ」


 ヴィクトルは食中毒でしばらく床に伏せっていた。

 だから風呂に入るのが久しぶりなのだ。


「病み上がりなんだから、あまりのぼせないようにな」

「はい。気をつけますよ」


 俺は湯船の中で手足を伸ばす。


「ふぅ~。やっぱり動いた後の風呂は気持ちがいいな」


 農作業で疲れた身体が回復していく感じがする。

 きっと気のせいだが、気持ちがいいのは間違いない。


 そんな俺の周りをいつものようにピイが楽しそうに泳いでいた。

 いまも俺の周りの水を飲んで浄化しているのだろう。


 ピイは本当に自由に振る舞っている。

 寝たいときに眠って、食べたいときに俺の周りの汚れを食べてくれる。

 それだけで、ものすごく役立ってくれているのだ。


「きゅぅぅお~」

「わふぅ~」


 俺の近くをヒッポリアスがぷかぷか浮いている。

 シロも気持ちよさそうだ。


「ヒッポリアスもシロも、お風呂が好きなんだな」

『あったかくてきもちいい』「……わふ」

「そうか。流石は竜と魔狼だな」


 ヒッポリアスは口から炎を吐くことができる。

 シロは炎をまだはけないが、群れの成狼たちは炎を吐くことができたらしい。

 炎を吐けるぐらいなら、熱にも強いはずだ。

 温泉の熱が身体に悪いということはないだろう。



 お風呂でゆっくりした後、ヒッポリアスとシロとピイと一緒にあがる。

 ピイは別に身体を拭かなくていいので凄く楽だ。

 だが、ヒッポリアスとシロはちゃんと身体を乾かしてやらなければならない。


「シロはモフモフだから乾かすのが大変だな」

「わふ!」


 俺がそういうと、シロは身体をブルブルさせる。

 それを真似してヒッポリアスもブルブルしていた。


 俺は自分の身体ををさっと拭く。

 その間に、ヒッポリアスとシロは、俺の荷物からタオルを口で引っ張り出して床に落とす。

 そして、その上に自分で寝っ転がって、ゴロゴロしながら拭いていた。


「器用だな」

「きゅきゅ!」「わふぅ」


 自分の身体を拭き終わったので、俺はヒッポリアスとシロの体を拭いていく。

「きゅおぉ~」

「ヒッポリアスは毛がないから拭くのが楽だな」

「わふ」

「シロはしっかり拭かないとな」


 右手でヒッポリアスを、左手でシロを拭いていく。

 すると、ピイがぴょんとシロの背の上に飛び降りる。

 そして、毛を濡らしている水分をどんどん吸い上げていった。


 洗濯担当スライムたちは、洗濯した後、乾燥までしてくれていた。

 その能力をピイも使ってくれたようだ。


「おお、ピイありがとうな」

「ぴい!」

「わふう!」


 シロもありがとうと言っていた。


 身体をちゃんと乾かした後、俺たちはヒッポリアスの家に戻る。

 そして、風呂に行くフィオとイジェを見送って、俺は毛布の上でゴロゴロした。

 シロとヒッポリアス、子魔狼たちも毛布の上で楽しそうに遊ぶ。


 しばらく遊ぶと、急にこてんと子魔狼たちが眠り始めた。

 ヒッポリアスも仰向けの体勢で眠り始める。


「いっぱい眠りなさい」


 子魔狼たちは赤ちゃんなので、沢山の睡眠が必要なのだ。


 そんな子魔狼たちを俺は撫でる。

 シロも子魔狼とヒッポリアスを舐めている。


「シロも子供なんだから、沢山眠りなさい」

「ぁぅ」


 俺はシロを撫でまくる。

 胸からお腹、頭までもふもふもふもふ、撫でまくった。


 そんなことをしていると、シロも眠そうにし始めた。

 そして、ピイが俺の肩や腰、頭を揉んでくれる。

 とても気持ちがいい。


「……ピイ、……ありがとう。気持ちがいいよ」

「ぴっぴぃ」


 農作業や製作スキルで疲れていたので、とても心地が良い。

 ピイは筋肉の凝りだけでなく、魔力の凝りまでほぐしてくれるのだ。


「……王都の一流マッサージ師より……気持ちいいかもしれない」

「ぴぃ」


 そして、シロを撫でながら、ピイにマッサージしてもらっていると、俺も眠くなってくる。

 イジェたちを待っているつもりだったのに、いつの間にか俺は眠りに落ちていた。

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