104 たい肥とヒッポリアスの糞
「きゅ!」
「えらいぞ!」
ヒッポリアスは他の人の数十倍の働きをしている。
だから、ヒッポリアスのモチベーションを上げることは大切な仕事なのだ。
とはいえ、俺は見守っているだけではない。
ヒッポリアスが木を伐採してくれている間に、他の冒険者たちと一緒に草を刈る。
「カッタクサは、コッチにマトメテホシイ」
「了解だ。肥料にするのか?」
「ソウ。コッチにアナをホッテ、クサをイレルノ」
そういって、イジェはスコップで畑から離れた場所に穴を掘っている。
それをヴィクトルが手伝おうとして、冒険者たちに病み上がりだからやめろと止められていた。
「ヴィクトル。しばらくは安静にしていてくれ」
「……そうですね。わかりました」
ヴィクトルは少し残念そうだ。
働きたいという気持ちと身体を動かしたい気持ちの両方があるのだろう。
草を肥料にすることは旧大陸でもしていた。
草に鶏や牛の糞を混ぜたりして、発酵させて肥料にするのだ。
「ウシもニワトリもイナイケド……クサだけでもヒリョウにデキル」
「そうか」
すると、穴掘りを手伝っていたケリーがいう。
「ヒッポリアスの糞で代用すればいいんやないか?」
「きゅお?」
木を順調に引っこ抜いていたヒッポリアスが、驚いてこっちを見る。
「いやいや、ヒッポリアスは肉や魚も食べるだろう。草しか食べない牛の糞とは違うんじゃないか?」
「まあ、大丈夫じゃないか? 竜の糞を発酵させれば良質な肥料になるからな」
「……そうなのか」
「きゅぅお~」
最近のヒッポリアスは、散歩のとき以外は、俺たちと一緒にトイレに用を足している。
小さくなってトイレに入れるようになってからは基本的にはそうだ。
「それに、ヒッポリアスの糞には魔物よけ、動物除けの効果もあるからな」
「あー、それはそうだな」
自然界において、竜は絶対王者、食物連鎖の頂点である。
竜の臭いがする場所には、魔物も動物も基本的に近づかない。
「魔物よけなら、シロの糞でも効果はあるだろうがな」
「わふ?」
シロがこちらを見て首をかしげる。
ちなみにシロは、寝ている子魔狼たちをフィオに任せて、穴掘りに参加していた。
イジェたちを手伝おうとしているのだろう。
それに、穴掘り自体も楽しいに違いない。
「シロ、こっちの会話は気にしなくていいぞ」
「わふ!」
そしてシロは元気に穴掘りを再開した。
楽しそうに、結構なペースで穴を掘っている。
シロが楽しそうだと俺も嬉しい。
たい肥のことは後で考えるとして、みんなで草をどんどん刈っていく。
それなりに広い畑予定地だと言うのに、木も草もあっという間に伐採された。
みんなも頑張ったが、やはりヒッポリアスの活躍が大きいだろう。
ヒッポリアスがいなければ、数日かかったかもしれない。
冒険者の一人が言う。
「木は後で拠点に運ぼう。ヒッポリアスまた頼むな」
「きゅお! きゅお! 『まかせて』」
「任せてだそうだ」
「ヒッポリアス、本当にありがとうな」
ヒッポリアスはみんなに褒められ撫でられ、嬉しそうにしていた。
俺たちが刈った草も相当な量だ。
小山のようになっている。
イジェたちも一生懸命穴を掘ったが、全部を入れるのはまだ無理だ。
俺も穴を掘るのを手伝おうと思って、スコップを手に取ったが、
「犂で耕すのは、休憩してからにしましょうか」
ヴィクトルがそう言って休憩になる。
冒険者たちもそこらに座って水筒から水を飲んでいる。
「そうだ。シロ」
「わふ?」
「散歩に行くか?」
「わぅ!」
「疲れてたら、後にしていてもいいぞ」
「わうわぅ!」
散歩に行きたいらしい。
あれほどすごい勢いで穴を掘っていたというのに、散歩は特別なようだ。
「じゃあ、散歩に行くか」
「わーう」
「きゅうお!」
「ヒッポリアスも行くのか? ヒッポリアスは大活躍だったし疲れてないか」
『つかれてない!』
「そうか、無理はするなよ」
「きゅお!」
子魔狼たちを見たら、起きてフィオに楽しそうにじゃれついていた。
「フィオ、ケリー。子魔狼たちのことを頼む」
「わかた!」
「任せておけ」
一応、ヴィクトルと他の冒険者たちにも声をかける。
「シロの散歩に行ってくるよ」
「ああ、そうか。狼だもんな、散歩は大切だよな」
「気をつけろよ」
「わふ」
シロは冒険者たちに頭を撫でられ、尻尾を振っている。
「テオさん、お気をつけて」
「ああ、気を付ける」
そして、俺はシロとヒッポリアスと一緒に走った。
もちろんピイは肩の上に乗ったままだ。
「シロ、好きなペースで走っていいぞ。ヒッポリアスも好きなペースでな」
「わふ!」
「きゅお!」
シロはいつもよりはゆっくり走る。
ときどき、立ちどまっては用を足していた。
シロがいたるところに用を足してくれるおかげで、魔物が近寄ってこないのだ。
とても助けられている。
一方、ヒッポリアスは、いつものように、自由に走る。
ものすごい勢いでどこかに走っていき、また戻ってくるのだ。
木を何本も伐採したというのに、少しも疲れた様子がなかった。
そして、俺たちは三十分ほど走って、散歩を終えて畑に戻った。
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