33 手洗い

 冒険者の一人が、帰って来た俺たちに気づいて近づいて来る。


「おかえり、もう少しで昼飯の準備が終わるところだ」

「何か手伝うことは?」

「テオさんは休んでいてくれよ。午後からも仕事があるんだろう?」

「ありがとう。助かる」


 冒険者たちの好意に甘えることにした。


 一方、ケリーは、

「私が手伝おうではないか」

 そんなことを言いながら、かまどの方へと歩いていく。


「おお、あり……って、なんだそれは」


 お礼を言いかけた冒険者が、ケリーが手に持っているミミズをみてびくりとした。


「ん? こいつはミミズだ。さっきそこで見つけたやつだ」

「おい、ケリー。まさか、それを食うってのか?」

「いや、食わないぞ」

「そうか、それなら良かった」


 冒険者たちはホッとした表情を見せる。

 冒険者たちにとっても、ケリーは何をするかわからない人物だと思われているようだ。


「とりあえず、ケリーも休んでいてくれ」

「ん? 手伝うが」

「いや、本当に必要ない」

「遠慮するな」

「遠慮なんかしてねーよ。どうしても手伝いたいならそのミミズを何とかしてくれ」

「ああ、そうか」

「それから手をしっかり洗ってこい」

「それもそうだな。寄生虫とかいる可能性もあるからな」


 寄生虫と聞いて、冒険者たちは嫌そうな顔をする。

 野外生活を頻繁に行う冒険者にとって、寄生虫は恐ろしい存在なのだ。 


「本当に頼むぞ……。手洗いはしっかりな」

「ああ、わかってる」


 ケリーはミミズを瓶に入れると、川の方へと歩き出す。

 手を洗いに行くのだろう。


「フィオ。シロ。手を洗いに行くぞ」

「「……わふぅ」」


 フィオとシロは嫌そうだが、ケリーにしぶしぶついていく。


「テオも手を洗ったほうがいい」

「それはそうだな」


 俺も一緒に川へと向かう。


「夕食時までには井戸を完成させるから、川に手を洗いに行くのはこれが最後かもな」

「そうだな、井戸は生活レベルを向上させる」


 川に到着すると、ケリーはフィオに手洗い指導を行ってくれていた。

 それが終わると、ケリーはシロの前足などを洗っていく。


「はい、右前足をだして」

「わうう」

「次は左前足」

「わう」

「後ろ足も右から洗おう」

「わぅ……」

「最後に左後ろ足」

「ゎぅ……」


 シロは素直にケリーの言うことを聞いてはいた。

 だが、明らかにどんどんテンションが落ちていっている。


 手洗いが終わったころ、川の上流から

「きゅおおおきゅおおお」

 と鳴きながら、ヒッポリアスが走って来た。


 水深が浅いので、泳げないから走っているのだ。


「ヒッポリアス。もういいのか?」

『いい!』


 そして、口に咥えた大きな魚を

『あげる!』

 と言いながら、河原に置いた。ビチビチとはね始める。


「おお、ありがとう」

「きゅおー」


 魚は体長一メトル近くある。

 俺はその魚を締めて、手早く血抜きなどの加工をする。


「こんな立派な魚、ヒッポリアスが食べた方がいいんじゃないのか?」


 ヒッポリアスは身体が大きい。食事量も多くなる。

 成長した竜種は、体重の割に食事量は非常に少ない。だがヒッポリアスは幼体だ。

 身体を成長させるために結構食べなければならない。

 それでも、他の動物や魔獣に比べたら体重の割には食事量はとても少なくはあるのだが。


『ひっぽりあす、たべた!』

「魚を?」

『うん!』


 単独行動を開始してから、自分で獲って食べていたのだろう。

 横からケリーが尋ねてくる。


「テオ、ヒッポリアスは何て言っているんだ?」

「魚を食べてきたって」

「ほほう。どのくらい食べたんだ?」

『さんぐらい!』

「三匹ぐらい食べたそうだ」

「ほほう? 竜種の例にもれず意外と少食だな」


 そういいながら、ケリーはノートに書き留めている。


「そのぐらいの量なら、魚も猪も枯渇することはあるまい」


 昨日はもっと食べていた気もする。

 ヒッポリアスは竜なので、毎日食べなくてもいいのかもしれない。

 テイムしているので、ヒッポリアスは俺の魔力を定期的に食べている。

 だから、あまり食べなくても大丈夫というのもあるのだろう。


「ヒッポリアスは少食なのに、働き者で偉いな」

「きゅお」


 俺が褒めると、ヒッポリアスは嬉しそうに尻尾を揺らす。


「これでよしと」

 ヒッポリアスから貰った魚の処理を済ませて魔法の鞄に入れる。


「さて、そろそろ戻ろうか」

「うん!」「わふ」


 そして、俺たちは拠点へと戻る。

 ヴィクトルたちも昼ご飯を食べるために戻ってきていた。


 全員が集まると、ヴィクトルは点呼をする。

 二十人以上いると、「あれ? あいつどこいった?」っていう事態もありうる。

 だから定期的に集まって居なくなった者がいないか確認しているのだ。


 点呼の間に、ヒッポリアスが獲ってきてくれた魚を焼く。

 冒険者たちにその魚はどうしたのだと聞かれたので、きちんと説明した。


「さすが、ヒッポリアス。偉いなぁ」

「きゅお!」


 冒険者たちに褒められて、ヒッポリアスは満更でもなさそうだ。


 点呼が終わり、皆に魚と肉を配りおえると昼食が始まった。

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