08 拠点づくり 木材集め

 宿舎について相談している間に、冒険者たちが上陸してくる。

 ヴィクトルがさっそく冒険者たちに木を切るように指示を出す。


「急がないと、今夜は野宿かまた船で寝ることになりますよ」

「それは嫌だな!」「ああ。急ぐぞ」


 冒険者たちは張り切って木を切り倒していく。

 本職のきこりではないのに、中々皆手際がいい。

 とはいえ、六軒の小屋を建てるのに充分な木材を一日で確保するのは難しいだろう。


「ヴィクトル。土で仮小屋をつくろうか?」

「土で、ですか?」

「ああ。日没までに六軒分の木を集め、小屋を建てるのは難しいだろう」

「一、二軒作れれば、そこで雑魚寝すればいいと思っていましたが……」


 ヴィクトルの言う通り、それでもいいだろう。


「土ならこの場のものをそのまま使える。木よりも快適性は下がるが……」


 土は通気性が悪い。窓も作りにくい。雨にも弱い。

 だが、俺の製作魔法で作るのならば、魔力強化された土の小屋だ。

 突然崩れたりはしない。


「そうですね……」


 ヴィクトルが真剣に考えていると、ヒッポリアスが俺に頭をこすりつける。

「どうした? ヒッポリアス」


 ヒッポリアスは甘えたいんだと判断して、俺は頭を撫でてやる。


『ておどーる。ひっぽりあすもてつだう?』

「ヒッポリアスも木の伐採を手伝ってくれるのか?」

『うん。きをたおせばいいの?』

「いや。木材にするからな。へし折ってバキバキにしたらダメなんだ」

『そっかー。わかったー』


 ヒッポリアスは近くにある太い木の根元に歩いていった。

 それを見送りながらヴィクトルが言う。


「そうですね、土の小屋を作れば、撤去する手間がかかりますし……」

「それはそうだな。最初から長く使える小屋を建てた方がいいのは間違いないが……」


 この伐採ペースなら、遅くとも三日あれば六軒分の木材を集めることができるだろう。

 頑張れば、二日でいけるかもしれない。


 一、二泊のすし詰め雑魚寝を防ぐために土で仮小屋を建てるのは非効率なのは確かだ。


 そのとき、ヒッポリアスがこっちを見ながら、大きな声で鳴いた。


「きゅううううう!」

「どした? ヒッポリアス」

『ひっぽりあすが、きをたおすとこみてて』


 ヒッポリアスは、何かにつけて、俺に見てもらいたがるのだ。


「わかった見ていよう」

「きゅ」


 一声鳴くと、ヒッポリアスは角を木の根もとに差し入れる。

 そして、頭で木の幹をおしながら、てこの原理で根もとから木を倒した。


 それをみてヴィクトルは驚いて固まっていた。

 だから俺はヴィクトルに説明する。


「ヒッポリアスは魔法も同時に使って木を倒したみたいだな」

「それはどういう仕組みなのですか?」

「角の先から魔法を撃ちこんで木の根を切断したんだ」


 太い木の根さえ切断できれば、ヒッポリアスの膂力があれば大木を倒すことも難しくない。


「きゅ?」

「ヒッポリアスすごいぞ!」


 俺が褒めると、ヒッポリアスは大きくて長い尻尾をブンブンと振った。

 そして、十人がかりでも運搬が大変そうな大木を口で咥えて走ってくる。


「ありがとう、助かるよ」


 褒めて撫でると、ヒッポリアスはすごく嬉しそうに喉を鳴らす。


『もっときってくるね!』

「頼む」


 元気に走っていくヒッポリアスを見てヴィクトルが言う。


「ヒッポリアスは、というか海カバという種族は何なのでしょうか……」

「わからん」


 ヴィクトルが疑問に思うのもわかる。魔法を使える魔獣などそうそういないのだ。


「海カバというのはだな。新種の竜なのだ」


 いつの間にか隣に来ていたケリーが解説を始めた。


「竜なのか。そうかもしれないな」

「なに? 竜と聞いてもテオは驚かないのか?」

「ヒッポリアスをテイムしたとき、高位の竜種並みに魔力を持っていかれたからな」


 その時点で、ヒッポリアスの魔物としての格は高位竜種と同格なのだ。


「なんと! そういうことは早く教えろ!」

「それはすまなかった」


 その後、ケリーの観察結果を教えてもらう。

 鱗のない地竜の一種だとケリーは考えているらしい。


「海にいたのに海竜ではなくて地竜なのか?」

「海竜は足ではなくひれがある竜だ。ちなみに地竜ってのは足があって翼がない竜だ」


 魔獣学者はそう分類しているらしい。

 どう分類されようが、ヒッポリアスはヒッポリアスだ。

 好きに分類すればいいと思う。


 そんなことを話している間にヒッポリアスは木を倒して持ってくる。

 冒険者たちが三本倒している間に十本ぐらい倒していた。

 しかも冒険者たちの倒した木もヒッポリアスが運んでくれる。


「ありがとう、ヒッポリアス、助かるよ!」

「きゅきゅ」


 冒険者にお礼を言われて、ヒッポリアスはご機嫌に尻尾を振っている。

 ヒッポリアスは働き者のカバらしい。


 そして俺は集まった木材で小屋を作りはじめることにした。

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