07 上陸
戻って来たヒッポリアスは船尾に前足をかける。
ヒッポリアスは重いので、船自体が傾いた。
「ヒッポリアス、船に体重をかけたらダメだよ」
『わかった』
ヒッポリアスは素直に少し距離を取る。
「ヒッポリアス、ご飯はもういいのか?」
『だいじょうぶ』
そういうと、ヒッポリアスは船尾に大きな魚を一匹乗せた。
一般的な成人男性よりも大きな魚だ。ビタビタと派手に跳ねている。
『ておどーるたべて』
「いいのか? ヒッポリアスのご飯じゃないのか?」
『ひっぽりあす、おなかいっぱい。ておどーる、たべて』
「ありがとう。一人では食べきれないからみんなで食べさせてもらおう」
「きゅる」
ヒッポリアスは嬉しそうに鳴く。
魚はみんなで手分けして解体していると、魔物学者のケリーがやってくる。
「ケリー、この魚は新種か?」
「いや、この魚は知っている。生で食べるとうまい」
「生で?」
「そう、生で。ただし寄生虫には気をつけろ。見えるから避けて食べればいい」
ケリーは魔物だけでなく魚にも詳しいようだ。
ケリーの言う通り生で食べると、とてもうまかった。
余った分は魔法の鞄に入れておく。
食料に余裕があるわけではないのですごく助かる。
ヒッポリアスが仲間になってから航海は順調に進んだ。
朝から夕方まで、休憩をはさみながらも、ヒッポリアスは船を押してくれる。
そして食事した後は、魚を持ってきてくれるのだ。
凪の海域を抜け、風が吹くようになってからも、ヒッポリアスは船を押してくれた。
そして、俺は毎日ヒッポリアスが押している姿を見る仕事に従事する。
ヒッポリアスは定期的に撫でろとねだるので、撫でたりもした。
おかげで、予定よりも早く到着することができた。
ちなみにケリーは一日の大半を船尾で過ごしてヒッポリアスを観察していた。
カリアリを出港してから二十五日後。
見張りに立っていた冒険者の大きな声が船に響いた。
「陸地が見えたぞおおおぉぉ!」
全員が船首の方へと走っていく。
さらにしばらく進むと俺たちの目にも大陸が見えるようになった。
木々が豊富に生えている。鳥が飛んでいるのも見えた。
遥か遠くには標高の高い冠雪した山も見える。
「かなり大きな大陸のような印象を受けますね」
「そうだな。山が高いからな」
小さな島の山は低いことが多いのだ。
さらに数時間進み、新大陸の近くまで来た。
まだ上陸はしない。拠点に適した場所を探すためだ。
飲み水確保のために川が欲しい。
できれば、海底が深く船を近づけやすいといい。
ヴィクトルと地質学者が相談して、拠点を作る場所を探す。
そして、二時間後、やっと拠点を作る場所が決まった。
とても大きな川を少しだけさかのぼったほとりである。
その川は、底も深く、流れも緩やかで、当初海峡ではないかと思ったぐらいだ。
場所が決まれば全員が上陸する。
本当は船に数人残るべきなのかもしれないが、みんな陸が恋しかったのだ。
全員が上陸するには小舟で何度も往復する必要がある。
だからかなり時間がかかる。
俺とヴィクトルは真っ先に上陸させてもらったので、先に周辺を軽く偵察した。
「拠点はどのあたりに?」
「川から少し離れた場所、あの丘辺りを考えています」
「あまり川に近くても氾濫が怖いからな」
畑を作るのならば、もっと奥地の方になるだろう。
もし、開拓がうまくいけば、この場所は港町になるかもしれない。
そうなれば、川の近くには荷揚げのためのスペースが必要になる。
それに倉庫なども建てられることになるだろう。
「まあ、うまくいったときのことを考えるのは、気が早すぎるかもしれませんが」
「いや、将来のことを考えるのは大切だ」
将来を踏まえて、拠点をどう作るか考えなければならない。
「まず全員の宿舎が欲しいですね」
「一人一軒か?」
「さすがにそれは……手間がかかりすぎますし、資材も」
「それなら大きめの家を五軒ぐらい建てて、四人ずつで暮らす形がいいか」
「そうですね」
そんなことを相談していると、
「きゅうきゅう」
当たり前のように俺の真横にいたヒッポリアスが鳴く。
上陸したヒッポリアスは、やっぱりカバに似ていた。
大人のカバよりも、子供のカバにそっくりだ。
子供に似ていると言っても、頭の先から尻尾の先までの体長は十メトルほどあるのだが。
手足は短めで、頭が大きい。
カバとの違いは尻尾が太くて長いことと、頭部の角ぐらいだ。
「脂肪で体温を保持しているのか?」
そんなことを言いながら、魔獣学者のケリーが調べまくっている。
ヒッポリアスはケリーのことをほとんど気にしていないようだ。
「きゅきゅきゅ」
「どうした? ヒッポリアス」
『ひっぽりあすのいえは?』
「ヒッポリアスも家欲しいの?」
『ほしい』
ヒッポリアスは航海成功の立役者だ。
欲しいというのならば、作ってあげるべきだろう。
「ヴィクトル。ヒッポリアスの家も建てていいだろうか?」
「もちろんです。ヒッポリアスが居なければ全滅もあり得ましたからね」
そして、建物を六軒建てることに決まった。
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