02 送別会
新大陸に行くことを決めた日から俺は素早く動いた。
仲間である勇者たちに伝えて、引っ越す準備をする。
新大陸は遠い。
陸路と海路合わせて十数日かけて魔族領の港へ行き、そこからさらに数十日の海路だ。
陸路はともかく船旅には大荷物は持っていけない。
だが、俺は元々私物が少ない。
勇者パーティーの荷物持ちだった俺は大量に物が入る「
余裕のある「魔法の鞄」には水や薬、食料などを詰め込んでおく。
船が遭難した時の備えだ。
それに新大陸でも何があるかわからない。色々用意しておくにも越したことは無い。
王都から出発する前日、勇者たちは送別会を開いてくれた。
みな忙しいというのに、わざわざ集まってくれたのだ。とてもありがたい。
送別会が始まると戦士が言う。
「テオが新大陸に行ってしまうのか。寂しくなるな」
戦士は長身かつ筋肉量が凄い。横幅が二人分ぐらいある。
そんな戦士が俺の肩をバシバシ叩いてきた。
「痛い痛い。本当に馬鹿力だな」
「おお、すまねーな」
戦士は見た目の印象通り、性格も
その様子を魔導師が真剣な表情でじっと見ていた。
「……テオが居なくなると、今後が不安」
いつも小柄で無口な魔導師が、ぼそりとつぶやくように言う。
「そんなことは無いだろう。平和だし」
「……今平和でも将来はわからない」
「もし何かあっても、みんながいるから大丈夫だろう。俺はただの荷物持ちだぞ」
「……ナイスジョーク。テオは面白い」
魔導師はクスリともせず無表情で、言葉だけで面白いなどと言う。
付き合いは長いのだが、魔導師の笑っているところを見たことはほとんどない。
「うんうん。テオが居なければ、ぼくたちは何度全滅してたかわからないよ」
勇者まで大真面目にそんなことを言い始めた。
「そんなことないだろう。みんなの方がずっと強い」
「異種族との折衝、未知の経路のナビゲート、装備の手入れ。テオの役割は大きいですよ」
治癒術師もそんなことを言ってくれる。お世辞でも嬉しい。
「うんうん。魔王と和解できたのも、テオの交渉力のおかげだよ」
「……竜と争わずに済んだのも大きい」
魔王はともかく、竜と争わずに済んだのは、それは俺のテイムスキルの効果だ。
完全にテイムできなくとも、高度な魔物とならば意思疎通ができる。
その技能でなるべく強敵とは争わず戦力を温存できたというのはあるだろう。
それに関しては自分でも、頑張ったと思う。
「ぼくもテオと一緒に新大陸いこうかなー」
「勇者の業務があるだろう?」
勇者だけではく、戦士も魔導師も治癒術師も忙しくしている。
みな実力者ゆえに引く手数多なのだ。
「忙しいのは忙しいけど、別にぼくじゃなくてもいい仕事ばかりだしー」
「そんなことはねーだろう?」
「そんなことあるよ……」
そこからは勇者の愚痴が始まった。
愚痴をまとめると、勇者としての肩書を求められているだけで能力は求められていない。
「ぼくそっくりの人がいたら、その人でもできることしかやってないよ!」
貴族にパーティーに呼ばれたり、何かの会の名誉総裁に就任したりとか。
そういう華やかな仕事ばかりらしい。
「ぼくは剣を振りたいの!」
勇者は、自分しか勝てない強大な魔物と戦ったりとかしたいのだろう。
気持ちはわからなくもない。
「……我慢」
「民は勇者の姿を見て安心しているというのもありますから」
魔導師と治癒術師が勇者をなだめる。
「わかる、わかるぞ!」
戦士は勇者の肩をバシバシ叩いた。
「わかる?」
「うむ。まあ俺は騎士団に稽古つけたり魔物退治したり剣振ってばっかりだがな!」
「え? なんで? ずるい!」
「ただの戦士より勇者の方がやっぱり知名度が違うからじゃねーの?」
「ずるい!」
「がはははは!」
どうやら戦士は勇者をからかっているらしい。
俺は鼻息荒く怒っている勇者をなだめることにした。
「勇者の業務に疲れて、もう限界となったら、新大陸にくればいいさ」
「いいの?」
「ま。すぐには無理だろうが、いつか疲れたらな」
「うん!」
そんなふうに送別会の夜は更けていった。
そして次の日、俺は王都から出立したのだった。
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