第26話 囲み取材

 崇範は新見に車で送ってもらいながら、今後の事について話していた。

「まずは監督も言う通り、慣れる事だな」

「はい」

「東風さんは、どうしたもんかなあ」

 新見は唸った。

「新人ですでに恋人がいるってのは、売れる気がしないんだがなあ」

「でも、隠すとかは不誠実ですよ」

「そりゃそうだけどな。一応、人気商売だぞ?

 まあ、ネットのアレで、東風さんの事も込みで応援してくれる人も多いのは多いからな。まあ、よくある『いいお付き合いをさせていただいています』って言っとけばいいかなあ」

「はい」

「うちもあれだな。広報的な仕事もできるマネージャーを入れるか」

 新見が言うと、途端に崇範は心配そうになる。

「僕のためだったら、勿体ないですよ。どうせそんなに続くとは思えませんから、この騒ぎが」

「……いい加減、もう少しは自信を持てよ……」

 新見が呆れた時、車はアパートの近くに着いた。

「引っ越しも考えとけよ。あと、先生に言われた進路」

「はい。

 ありがとうございました。お休みなさい」

「ん、お疲れさん」

 崇範が新見に頭を下げ、アパートに向かって歩き出す。

 そして角を曲がって、アパートの前の一方通行の道に入ったら、いきなりライトが正面から浴びせられて目が眩んだ。

「え!?何!?」

「お帰りなさい、深海君」

「ちょっとだけいいですか」

 取材の人達だった。

 と分かった時には、囲まれて逃げ場がなかった。

「崇範!?」

 背後で事態を察した新見が焦った声を上げる。

「お父様を殺害した主犯の少年Aを含む4人に脅されたという事ですが、それについて何か仰りたい事はありますか」

 質問にどう答えるか、全員が耳を凝らし、一挙手一投足に注目している。

「今、警察が調べていますし、僕からは特には。

 ああ、1つだけ。今後はもう来ないで欲しいです」

「じゃあ、少年Dが少年Eを殺害した事についてはどう思われますか」

「それは……僕が何か言う立場にはないと思いますので……」

「では、東風重工の社長のお嬢さんとのお付き合いについては」

 ググッと、包囲するマイクが寄った。


 美雪はおめでとうを直に言いたくて崇範の家に行こうとし、暗いので明彦に車で送ってもらう事になった。

「良かったぁ。ふふ」

 膝の上には、途中で買ったケーキの箱が乗っている。

 と、やけに車がたくさんアパートの周りにとまっている事に気付いた。カメラやマイクを持った人もたくさんいるので、報道陣だとわかる。

「どうかしたのかしら。深海君がテストに合格したの、もう知ってるの?」

「それはないだろ。本の事とか、あの事件の犯人グループのDがEを殺した事とかじゃないか?」

 それを聞いて、美雪のケーキの箱を持つ手にキュッと力が入った。

「深海君に、そのことの何を訊きたいのかしら」

「あ、あれ、新見さんの車じゃないか」

「あ」

 一方通行に入る手前で止まり、崇範が降りて来る。

「ど、どうしよう、お兄ちゃん。今帰ったらマスコミに囲まれるって教えた方がいい?」

「え、でも、もう見付かったんじゃ――」

 兄妹が狼狽しているうちに、崇範はあっさりと報道陣に囲まれてしまった。

「ああ……」

 2人はなすすべもなく、取材を見るしか無かった。

 事件の事などを訊かれ、それに落ち着いて崇範が答えて行く。

 そして質問は美雪の事になり、美雪の心臓が跳ね上がった。


「父の事や母の事は、東風さんに責任の無い事です。それに、東風重工さんのした事に違法性は無かったと聞いていますので」

「東風さんのお嬢さんは、深海君にとってどういう方でしょうか」

 崇範はついさっき新見と車の中で話していた事を思い出した。思い出したが、それは違うと思った。

「好きです。とても、大切な人です。クラスが代わっても、進路が違っても、変わりません。僕は東風さんが好きです」

 囲んでいる報道陣から、

「おお……」

と声が漏れた。

 その後ろで入り込もうと頑張っていた新見が見えたが、頭を抱えている。

 が、意外と報道陣の皆は笑顔で、新見も苦笑を浮かべるのみだ。

(あれ?怒られないみたい?)

 怒られるなら怒られるでいい、と思っていたが、どうもいいらしい。

「あ。勿論、まだ高校生ですから、高校生らしい付き合い方ですよ?」

 慌てて付け加える。

「例えば?」

「お弁当を一緒に食べてます!それから、時々図書館にも一緒に行きました。あと、もうすぐ春休みなので、どこかに行きたいです」

「旅行とか?」

 1人が訊く。

「プラネタリウムとか、東風さんは動物が好きだから動物園とか」

 崇範は赤面しながら答え、皆は心の中で、

(スキャンダルには程遠いな)

と思っていた。

 美雪は

「嬉しい!お弁当作らなくちゃ!」

と張り切る。

 そして明彦は、

「お前ら、小学生か」

と呆れ、

(仕方ないなあ、もう)

と、苦笑を浮かべた。



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