第25話 テスト

 女の子と向かい合って、目と目を合わせる。

「私の事、どう思ってるの?」

「え、その、大事だと……」

 崇範はしどろもどろだ。

 対して彼女は視線を外さず、グイグイと距離を詰めて行く。

「本当に?」

 崇範は逃げ腰になるのをどうにか堪え、視線だけでどこかに助けはないかと探し、諦め、根性を据えて彼女の目を見、頷いた。

「本当に」

 そのままにらめっこの如くじいーっと見つめ合ったところで、声がかかった。

「はい、いいですよ」

 途端に彼女は笑顔を浮かべて離れ、崇範は肩の力を抜いた。

 審査員席の監督達は手元の紙に何か書き込みながら、概ねにこにこしていた。

「何だ。心配してるとか聞いてたからどんなものかと思ってたんだけど、いけるね」

「はあ。ありがとうございます」

 答えながら、冷や汗が止まらない。

 今日はドラマのテストの日で、渡されたプリント1枚に書かれた台本に沿って演じるように言われたのだ。

 幼馴染の女の子に詰め寄られて、焦り、狼狽え、誤魔化すというシーンだったので、崇範としては素に近い。部屋に入ってすぐに渡されたこの台本の内容は、ラッキーだったとしか言いようがない。

「アクションは大丈夫だし、いいよね」

「そうですね」

 決まってしまう雰囲気に、崇範が罪悪感にさいなまれて白状した。

「あのぅ、今のは狼狽える所だったからたまたま良かったのかも……」

 先程向かい合っていた、幼馴染役の女優が吹き出す。

「そんな申告する人、初めて見たわ」

「ええっと、すみません」

 小さくなる崇範に、監督とプロデューサーも笑いを浮かべる。

「最初は特に、無口で不愛想だから。だんだん慣れて行くから、その間に深海君も慣れて行って」

 そんな事ができるのかと不安がよぎるが、

「はい。努力します」

と返事をした。

「じゃあ、これでOKと。

 スケジュールとかはまた事務所に連絡するから、よろしくね」

「はい!よろしくお願いします!」

 こうして、テストは終了した。

(東風さんに、連絡しよう)

 崇範は、美雪の顔を思い浮かべた。


 その頃美雪は、自室をうろうろと歩き回ったり立ったり座ったりとしていたが、留美に

「落ち着きなさい。あなたがうろうろしてても仕方ないでしょう?」

と留美に呆れられた。

「そうだけど……」

「テストの結果はいつわかるのかしら。

 ん?そう言えばオーディションじゃないの?」

「ちゃんと演技できそうかのテストなんだって。深海君が自信がないって言うし、演技の経験がないから」

「練習してたんでしょ?社長さんとかと」

「うん……」

「アスクルーとかは大丈夫じゃない」

「あれ、セリフは女優さんが吹き込んでるし、深海君はマスクで顔が見えないから表情を作る事もないから」

 美雪はどんよりとした表情で答えた。

「そんなに気になるなら、そこに行くか?送ってやるぞ?」

 明彦が言うが、美雪は警戒心丸出しで明彦を見ており、明彦は苦笑した。

「この前は悪かったよ。ごめん。浜坂には謝って断っておいたから。もうあんなことはしないから」

「絶対に?」

「絶対」

 神妙な明彦の様子に、美雪は許してやる事にした。

 と、電話が鳴り出す。

「わ!深海君!」

「で、出て見なさいよ、美雪」

「う、うん。もしもし?」

 恐る恐る電話に出た美雪は、

「え、合格?やったーっ!おめでとう、深海君!」

と電話口で大騒ぎし始め、明彦が、

(不意打ちで引き合わせはしないけど、まだ賛成するとは言ってない)

と思っていた事は、知らないでいた。





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