第19話 蹴り1発
家に帰り、予習でもと教科書を広げた時、玄関で物凄い音がして崇範は何事かと玄関の方を見た。見ていると、ドアがゆっくりとこちら側へ倒れかかって来る。
(あれ?おかしいな。うちのドア、あんな開け方じゃなかったのに)
そう思っているうちに、ドアはバターンと大きな音を立てて床の上に倒れ、その向こうに、少年Aこと井伏利也が見えた。
ドアに足型がついている。
「え。蹴ったのか?うわあ。本当にキック1発で開いたよ、うちのドア」
崇範は呑気にそう感心して言った。
いくらボロアパートでも、まさかキック1発でドアを蹴破れるとは思っていなかった。
しかし、井伏はそんな呑気な気分ではなかった。
「おい。どういう事だ、ああ?」
凄みながら、ズカズカと上がり込んで来る。
「靴、脱いでもらえますか」
「どうでもいいんだよ、んな事はぁ!」
(いや、掃除をするのは僕だから、どうでも良くはないよな)
考えているうちに、狭いアパートの事なので、すぐ目の前に井伏が来る。
「金はどうしたんだよ。慰謝料」
仲間の男女3人も玄関に入っている。
「慰謝料の意味がわかりません。
大体それ以前に、裁判であなたが僕に慰謝料を払う事になっているのは覚えていますか?」
「ああ?知るか、そんなもん。俺は悪くねえ」
誰か近所の人があまりの音に驚いて出て来たらしいが、玄関の所の3人が睨んで追い払った。
「僕はあなたに謝る事など何もありません」
「いいのか、そんな事言って。どうなるかわかってるんだろうな、ああ?」
井伏が凄み、玄関の3人に合図を送ると、3人はニヤニヤしながら中に入って来た。
「撮影会だな。大麻吸ってこいつとヤッてるとこを撮ってやる。それとも、彼女の撮影会がいいか?」
「だったら相手は俺が!」
「俺だって!俺!」
「俺に決まってるだろ」
揉めだした3人には、軽蔑の念しか湧いてこない。
「3人で順番にすればぁ?」
女が面倒臭そうに言い、それで彼らは納得したらしい。
「ふざけるなよ。あんたら、自分のした事を少しも反省してないんだな」
崇範が言うと、井伏はキョトンとしたように崇範を見て、笑い出した。
「反省?何で?簡単に死ぬのが悪いんだろ。そのせいで、矯正施設には入れられるし、出て来ても名前や居所をばらされるし、とんだ迷惑だぜ」
そう吐き捨て、いきなり殴りつけて来た。
それを、軽く少しだけ身を引いて受け、崇範は後ろに手をついた。
「顔は殴んないでよ」
女が文句を言って座卓の天板に座り、足を組む。
「おしゃべりはここまでだ。本気だと思ってなかったのか?後悔するんだな」
井伏が言い、男2人が抑え込みにかかる。
と、玄関から声がかかった。
「動くな!」
近所の交番の警察官3人がいた。近所の誰かが通報してくれたらしい。
「くそう!」
窓を乱暴に開け、開けた拍子に外して落下させ、もの凄い音がした。ついでにパトカーのサイレンも聞こえて来る。
「ああ。ドアだけでなく窓まで……」
崇範は修理費を考えて頭が痛くなった。
「待て!!」
我先に窓から逃げようとした井伏達は易々と警察官達に捕まり、パトカーに詰め込まれる。しかしそれでも、
「何でだよ!俺は悪くないからな!」
と喚いている。
「ドアと窓を壊されましたね。それに、ああ。殴られてますね。腫れないかな。冷やした方がいいんだけど」
勢いはかなり殺したので、派手な割に大したことはない。しかしそうは言わない。
「はい。
恐喝で、刑事課には被害届を出していたんですが」
「確認します」
その後崇範は新見に連絡を入れ、警察に行って事情を話し、調書を作り、佐原が留守番に来てくれていた自宅へ帰りついた時には朝方になっていた。
そしてドアと窓の修理をするまでは出掛ける事ができず、学校は休む事になったのだった。
佐原と新見に、
「やっぱり蹴り1発だったか」
「引っ越ししろ。な」
と言い聞かされた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます