第17話 心配

 東風一家は、揃って夕食を摂っていた。

「ああ、美雪。転校の件だが」

 勝が言うと、美雪がキョトンとした顔を向けた。

「その話は終わったんじゃないの?」

「終わってない」

「あら。どうしてかしら、あなた」

 留美も首を傾ける。

 勝は落ち着きなく箸を置いたり持ったりしながら、目を合わせないようにして喋り出す。

「それはやっぱり、同じ学校に深海――君がいると気を使うだろうと思ってだな」

「そんなわけないじゃないの」

「そうですよ。だって、お付き合いしてるんだもの。ねえー」

「恥ずかしい。えへへ」

 留美と美雪がニコニコするが、それを見て、勝はイラッとした。

「やつは貧乏人だぞ」

「倒産させられたからね」

「うっ。

 しょ、将来も不安定なやつじゃないか」

「あら。まだ高校生よ。高校生に安定した将来の子がいるわけないわ。それに今は、安定した職業とかってあるのかしら」

「それは、あれだ。大きい会社のトップとかだな」

「あなた。そんな甘い考えはあまりにも現代にそぐわないわよ」

 留美にも心配そうな顔を向けられ、勝は言葉に詰まった。

 明彦は小さく嘆息した。

「公立の学校よりも、同じような家庭環境の子が通う学校の方がいいんじゃないか?話も合うだろうし」

「私、友達は多いわよ?学校は楽しいし、成績もここが合うと思うし、問題ないわ、お兄ちゃん」

「しかし、家の格というか」

「明彦。あなた何時代に生まれたの?そんな考えじゃ、いい出会いも期待できないわね」

 留美にかわいそうな子を見るような目で見られ、明彦も黙った。

 そして勝と明彦は、もそもそと食事を再開したのだった。


 食後、勝と明彦は書斎で唸っていた。

「悪いやつとは言わん。言わんが……」

「うん。美雪はそれなりの所に嫁いだ方が幸せだよな。経済的にも苦労しないような所」

「そう!そうだとも!」

「友人の家が病院を経営してるんだけど、そこの弟が今医大生なんだ。まあ、将来病院長は兄貴の方が継ぐにしても、待遇は間違いないよ。ルックスだって悪くないし、薬物とか賭け事とかには手を出さないみたいだし」

 勝が前のめりになる。

「女は?」

「もてるのはもてるらしいね。詳しく知らないけど」

「まあ、それだけいいやつなんじゃないのか?見合いさせるか」

 幾分、2人は声をひそめた。

「まずは上手く2人を引き合わせてみようか」

「できるか?」

「できると思う」

「よし。頼んだぞ。深海の倅は、どうもな……」

 気を使うのは美雪ではなく自分達の方だと、気付いていない勝だった。


 崇範と佐原が事務所に戻った時、まだプロデューサーもいたが、今起こった話をすると、新見と同じく、呆れ、憤慨し、そして心配した。

「警察に行った方がいいよ。それ、立派な恐喝罪だから」

「ですよね。それにしても、頭の悪いやつらだな。どうやったらこういう発想になるんだ?」

「自分勝手、ここに極まれりですね」

「崇範、しばらくうちに来るか?狭いが、お前の所は、もしあいつらが来たら、キック1発でドアが開くぞ」

 佐原が心から心配そうに言った。

「そうですか?」

「あのアパートはセキュリティに問題がありすぎだろ。引っ越しも考えた方がいいぞ」

「でも、安いし、僕1人だからあれで十分だし、仕事がいつまでもあるとは限らないし」

「どこまでも心配症だな、崇範は」

 新見と佐原が呆れかえり、プロデューサーは笑いを堪えていた。








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