料理番組
夢美瑠瑠
料理番組
掌編小説・『料理番組』
「『減点クッキングパパ』司会の三波春助です。(拍手)どうも。お客様は神様です。(笑)
・・・さて今日のゲストは新芥川賞作家で、シングルファーザーの、
八茂目 仁成(やもめ・ひとなり)さん、そして長男の寛仁くんです。よろしくお願いします。」
「こんにちは。よろしく」
「芥川賞受賞おめでとうございます。今忙しいですか?」
「ありがとうございます。人生で一番忙しいかもですね。
てんてこ舞いで・・・今はお手伝いさんを頼んで何とかやってます」
「今二人暮らしで・・・普段は家事全般お父さんが担当なんですね?」
「そうです。居職なんでまあ・・・主婦作家というのもあるんで、
二足の草鞋といって、珍しくないパターンかもですね。大変ですけど。(笑)」
「で、お父さんの得意料理は「タラコとマッシュルームとピーマンのパスタ」と。
これは寛仁君の好物ですか?」
「そうなんです。私は料理の創作が趣味で、レシピは200くらいあります。
特に寛仁に好評だったのがこのパスタで・・・週に一度はリクエストがあるんです」
「なるほど。それでは作っていただきましょうか。厨房へどうぞ」
・・・ ・・・
「私は45歳ですけど「シンパパ」生活が長くて、料理の本も出しています。
腕に覚えアリ、といいますか、料理の味には自信ありますね。
・・・まずパスタを茹でたら、こうやって、焼きタラコをほぐしてパスタに絡めます。
・・・茹でたマッシュルームとゴマ油で炒めたニンニクと玉ねぎとピーマンとトマトを和えますね。
で、仕上げに青のりとチーズとパセリの刻んだのをたくさん振りかけて・・・出来上がりです。
パスタはうちは柔らかめが好きです。塩加減は適当ですが。」
「美味しそうですねえ。では皆で試食しましょう」
・・・ ・・・
「本当に美味しかったです。寛仁くんも満足そうですね。(笑)
では最後は「減点パパ」のコーナーです。
まず第一問。寛仁くんは、お父さんに「これだけはやめてほしいこと」が
あるそうです。なんでしょうか?」
「うーん。日常生活でですか?」
「へへへ。まあそうですね。台所近くですね」
「食事の時に新聞を読むこと、かな?会話がなくなりますからね」
「ペケ!(ボードの、お父さんの似顔絵の上にペケ印を貼る)(場内笑)
これは「酔っ払ってお母さんの思い出話をすること」だそうです。
寛仁君は今でもお母さんを思い出して布団の中で泣くことがあって・・・
出来たらお母さんを忘れたいのに・・・ということだそうですね。」
(場内しんみりする)
(少しほろっとした表情になり)「寛仁、ごめんな。
お父さんも淋しいんだ。でもお前も強くなれよ。お母さんがいなくても頑張ろうよ」
「うーん、素晴らしい!寛仁くん、お父さんもまた新しいお嫁さんをきっと見つけてくれますよ。」
・・・ ・・・
では最後に寛仁君に「お父さんに」という作文を読んでもらいます。書いてきてくれたんだよね。」
「うん」
「ありがとう。ではどうぞ。」
「『僕のお父さん』 やもめ ひろひと。
ぼくのおとうさんは作家です。作家というのは人間の人生のことをさまざまに考えて、
物語にする仕事だそうです。ぼくは生きるだけで精いっぱいなのに、家の仕事をしながら、
そういう生きるということを机に向かってひとりで考えて、みんなが読んでくれそうな物語を作る、
というのはずいぶん大変だなあ、と思います。でもそんなことを言うと生意気だから、
いつもじっとお父さんの背中を“そんけいのまなざし”で見つめるだけにしています。
お父さんはお母さんと離婚してから、ずっと一人ぼっちで、でも一生懸命僕や犬の太郎の世話をしてくれます。
照れくさいから言わないけど、僕はいつも心の中で「お父さんありがとう」とつぶやいています。
こんどお父さんが日本で一番有名な小説の賞をもらったそうです。
お父さんはみんなの前では笑っていたけど、一人になると泣いていました。
僕はお父さんが泣くところを初めて見たのでびっくりしました。
お父さん、ほんとうにおめでとう。
ふたりでがんばってきてよかったね。
どうかこれからも素晴らしい物語をたくさん書いてみんなを感動させてください。
僕もお父さんの小説をはやく読めるようになって、
それから勉強していつかお父さんみたいな作家になれたらいいな。
おわり。」
「素晴らしい!満点だ!お父さんは満点!」
(ちょっと涙ぐんでいる三波氏がお父さんの似顔絵の周りに
ベタベタベタ、と丸のマークを貼り付ける。場内大拍手)
「これからも本当に頑張ってください。八茂目さん親子でした!」
感動で目を赤くしている八茂目氏が寛仁の肩に手を置き、
一礼して退場する。
拍手はいつまでも鳴りやまなかった・・・
<了>
料理番組 夢美瑠瑠 @joeyasushi
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