2人の感覚

 次の日。再びギルドに来た僕たちはギルドの前で待っていた受付嬢にギルドマスターの部屋に通された。


「あの、なんで僕たちこんな部屋に通されたんですか?」

「いやはや、まさか君たちのようの子供に負けてしまうとは、私も落ちぶれたね」


 副ギルドマスターはそう言って、大きな声で笑った。

 けれど、僕たちは一緒に笑っていられる程、この現状は許せるものでは無かった。


「「「……」」」

「そんな怖い顔で睨まないでくれ。何も君たちに手を出そうなんて考えていないさ。ただただ疑問なんだよ。何故君たちのような子供がそんなに強いのか」


 僕は笑みを浮かべて人差し指を口元に持ってきて答えた。


「いやー、すみません。秘密です」

「おじさん。力尽くではどうしようもないと思うよ。この中で一番弱いの、昨日戦ったこいつだから」

「ちょっと! 辞めてよ。弱いのは認めるけど……いいもん。フォレスが守ってくれるから」

「カリーナ?! ちょっと、抱きつくなって」


 僕たちのやりとりを見て、副ギルドマスターは乾いた笑みを浮かべている。


「ほら、早く外の人たちどうにかしてよ」


 リュクスがそういうと、驚いたように目を見開いて、けれど、納得したように口を開いた。


「みんな。帰ってくれ」


 天井や外からドタドタと何人もの足音が部屋の中に響いた。


「気付いていたのか?」

「まぁな。お昼頃だからって人が少ないのかもしれないが、全く人が居なかったからな」

「ハハハ、最初っから気付いていたのか」

「なぁ、なんであんな事したんだ?」


 ソファの後ろに立っていた受付嬢に確認をとって僕たちに話し始めた。


「そんな強さを持ってる謎の少年少女達。そんな3人が悪意を持って迫って来た人達にどんな行動を起こすのか気になったんだ。もし、その力を無闇矢鱈に振るうのであればこちらでどんな被害を出そうとも君たちを拘束していた」

「あはは、そんなことは大丈夫ですよ。フォレスがいるならどんな事があっても大丈夫ですよ」


 カリーナの言葉に受付嬢もギルドマスターも頭の上にハテナマークを浮かべていた。そして、僕たちの審査は行われずに終わった。なんでも、さっきのやり取りで本当に強いのが分かったかららしい。うん。良く分からない。


「はぁ、まさかあんな強さの少年少女が居るとはな。恐ろしい」

「まさか、あの3人が魔王か勇者だったり……」

「まさか。そんな訳ない……よな?」

「ま、今はそれよりも魔物の凶暴化です。10年前より始まった凶暴化に冒険者も国も苦労しています。そのせいで冒険者の数も徐々に減っています。それに、凶暴化した魔物も数が増えています。何か手を打たないといけません」

「分かってる。けど、上に報告しても何も起きてないんだから手を打てないと言ってるんだ。起きる前に手を打たないと行けないのに。はぁ」

「あの方が居たら、もうちょっと現状は変わっていたでしょうに」

「そうだな。ギルドマスター。早く戻って来て下さいよ」


 このギルドのギルドマスターは10年前。とある事件を期に何処かに消えてしまった。どの冒険者にもこの国の王様にも慕われていた。本当に良いギルドマスターだった。


「よし。今はできる事をやるしかないな。冒険者にも受付嬢にも今までよりも魔物の変な動きや数の上下。なんでも良いから教えてくれ」

「はい。分かりました」


 ギルドマスターの部屋から出た僕たちは、初めてのクエストを受けていた。


「なぁ、本当にこれやるのか?」

「私もやだー」

「だったら、2人ともやらなくて良いから僕が監視出来る場所に居てよ」

「「はーい」」


 2人とも戦闘狂な所があり、今回受けたクエスト薬草採取は嫌なようだ。僕はこういった同じ作業の繰り返しは好きだし、力を使わなくて良いので魔王も勇者もバレない。これでお金が貰えるので良い事づくしだ。2人はつまんなそうだけどね。


「なぁ、カリーナ」

「何?」

「なんかこの森変な感じしないか?」

「うーん。そうだね。あの森しか知らないけど、この森なんか殺伐としてるよね」

「うん。一応ギルドに報告しておく?」

「そうだな。フォレスのあれが終わったら話すか」


 クエストを終え薬草を渡す時、リュクスとカリーナが何か受付嬢に話していたが、僕は別の受付嬢の所にいたので何を話しているのか聞こえなかった。


「何言ってたの?」

「何でもないよ」

「??? カリーナ?」

「……な、何でもないよ」

「嘘じゃん。絶対嘘じゃん。嘘つくの下手かお前」

「う、うるさい。フォレスに嘘つくの嫌なんだよ」

「お前……はぁ。あれだよ、あの森の雰囲気なんか変だったってだけだよ」

「へー、そうだったんだ。全然気付かなかった」


 やっぱり2人は物凄い感覚を持っているんだと、僕は数日後に改めて感じる事が出来た。

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