魔族の襲来①

 みんな疑問に思ってると思う。孤児院に居るときは、お金とは無縁の生活を送っていたから、宿に泊まるお金はどうしたのか。

 それは、昨日のお昼に狩った鹿のような魔物の毛皮を売ったのだ。その毛皮は上質で傷も無かったので、結構な額で売れた。確か、30万シェルだった。

(1S=1円)

 それでも、全部は売っていない。全部買い取ると100万S以上の価値がありそんなに払えないと言われたので、5分の一を切り取って買い取ってもらった。

 宿は、小さな村だった事もあってか3人一部屋で2000Sだった。


「さて、どうする?」


 荷物を置いて、部屋の中にある机の周りに集まって会議を開いていた。


「どうするって?」

「このまま、街に着くまで馬車で移動しても良いんだけど、それだと辺境の地にある遺跡とかを見つけられないと思うんだよ」

「はいはい!!」

「どうしたのカリーナ」

「だったら、その村、街の人たちにそういう場所が無いか聞けばいいんじゃない?」

「良いじゃんそれ」

「えー、めんどくさいよ」

「その場所付近のことを何も知らない僕たちじゃなくて、知っている人に聞くのが一番だと思うよ」

「あー、まぁ、そうだな」

「よっしゃ!! それじゃ、早速行こっか」


 村だったら、色んな人が知ってそうだけど、この村の村長に聞くのが一番だと、満場一致で決まったので、宿屋の主人にこの村の村長の家を聞いて村長の村に向かった。


「あのー、村長さんは居ますか?」

「はーい、ちょっと待って下さいね」


 女性の声が聞こえ、そのまま待つこと数分。


「お待たせしました。すみません。父が起きなくて」

「そうなんですか」

「えっと、この村の方では無いですよね?」

「僕たち旅してまして、あるものを探しているんです」

「えっと、そうですね。あー、父さん!?」


 その子が少し考えた後家の中にいる人を呼んできた。


「んぁ? なんだよクリーナ。って、誰だこいつら?」

「この人たち、何か探してるんだって」

「はぁ? 何を探してるんだ?」

「僕たちは、魔王と勇者に付いて調べながら旅をしています。遺跡の場所か、文献などを持っていたら教えて欲しいんです」


 その時の、村長の顔は驚きに満ちていた。

 自分の娘と同じぐらいの少年少女が、大人が同行せずに旅をしているのだ。

 異世界だとしても、それはあり得ない。


「子供、だけでか?」

「そうです」

「そうか。うん、気を付けろよ」

「ありがとうございます。それで、遺跡とか……」

「そうだな、準備があるから、明日来てくれ。ほら、帰った帰った」


 村長に追い払われる形で僕たちは宿に戻った。


「あいつ、ぶん殴ってやろうかな」


 宿に着いた瞬間、リュクスはそう言って再び村長の家に行こうとした。

 最後の一言が、後からどんどんイラついてきたらしい。


「いやいや、ちょっと待って。行くな行くな。明日になったら、教えてもらえるんだから」

「……」

「ちょちょ、無言で行こうとするな」


 何とか、リュクスを宥めてその日を過ごした。


 情報と言うものはどれだけ制御していても、何処か分からない場所から必ず漏れて行く。


 村が寝静まる少し前、村近くの高台の上。黒い翼を広げ2本の角と長く鋭い爪を生やした何者かが村を見下ろしていた。


「ここに、魔王が居るのか。……俺様が魔王になるのも時間の問題だな。ケケケ」


 魔族。本来魔王が従えるべき存在だが、魔族は自分の目で力を見ないと魔王には従わない。

 そして今、1人の魔族が魔王と勇者。そして、2人を止められる唯一の存在の前に立ち塞がった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る