第15話 不安定な感情と記憶

「あら、カエデちゃん」

 医務室で出迎えてくれたルモカ。出迎えてすぐ怪我をしているカエデを見るなり全身を凝視している

「傷を……」

「そこに座ってて」

 指差す先にいたのは、他の医師から怪我の手当てを受けているミオリ。その隣に座るとルモカに手当てをしてもらっていても、ミオリとカエデは話すことなく、黙々と治療を受けていく

「二人とも最近、怪我が多いわね。無理はダメよ」

「はい……。ごめんなさい」


「カエデちゃん、ツミキちゃんは?」

「部屋にいます」

 急にツミキの名前が出てきて、嫌そうなミオリ。ここにいることに不満そうな雰囲気

「そう。ツミキちゃんがここに慣れるまでは、一緒の部屋になるらしいから。よろしくね」

 ミオリの態度に気付いていても、カエデとの会話を続けていく

「どうして、急にツミキを?それにあのシキって子も……」

「それは、これから調べてくから、ねっ」

 ニコニコ笑い質問をはぐらかすルモカ。また質問をしようとしても、言葉が詰まって話せずにいると、ルモカが目を背けているミオリに話しかけた

「ところで、ミオリちゃん。そんな不機嫌そうな顔しないで」

 結局、カエデ達が話している最中、ルモカの言う通り、ずっと不機嫌そうな顔になっていた。カエデもミオリの雰囲気に気づいて、心配そうに顔を覗いている


「……先に失礼する」

 カエデの顔を一瞬見たあと、医務室を出ていった。ミオリの態度に、うつ向くカエデと、ため息つくルモカ。二人、何も言わずに、しばらくいたがルモカが治療の片づけを始めると、うつ向いたままのカエデに話しかける

「カエデちゃんも、もう治療も終わりだから早く部屋に戻りなさい。ツミキちゃんが待ってるでしょ?」




「歌っちゃダメ……か」

 カエデ達が医務室で騒いでいる頃、一人カエデの部屋で帰りを待つツミキ。部屋にあったウサギのぬいぐるみを抱きしめ、ベットに横になってカエデから言われたことを思い出していた

「そう言えば小さい頃、誰かが言ってた気がする」

 誰に言われたかと思い出してみても、なかなか思い出せずに、やきもきして、ぬいぐるみを抱きしめる力も強くなってく。ふと、時計を見るとカエデが出てから、もう大分時間がたっていた。少し体を起こして、入り口を見ても帰ってくる様子はまだなさそう。またベットに横になると、ちょっと寂しくなって一人言を呟いた

「カエデちゃん、遅いけど大丈夫かな?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る