リナ・ゲーシーの冒険譚

@Pampham

第1話

 タウ・リーヨはひどく疲弊していた。

 ヴォクシーニの平原はどこを見渡しても建物ひとつなく、その気になって見上げれば満天の夜空にいくつもの星が煌めいていることだろう。しかし、今のタウには顎をほんの少し上げるだけのその動作ですらひどく厄介で億劫なものだった。


 ワキリィ魔導院の師タンケからタウに言い渡された課題は、ヴォクシーニの向こうにある港の街オキュタまである男を導くことであった。

 ヴォクシーニの平原はたしかに広大で、どれほど速く駆ける馬であってもオキュタに辿り着くまで10日は見なければならない。しかし、ただそれだけだ。この時期のヴォクシーニは完全な乾季に入っていて、不意の雨に足止めされる恐れはほとんどない。すなわち十分な水さえ用意してあれば、横断の難度はほかのどの季節よりも易いと言えるのである。残る心配といえば道中で出くわしうる獣の類いだが、これも恐るるに足らぬものだ。ここに生きる肉食の獣はどれも小型で、人を襲うことなど滅多になく、仮にあったところで未熟なタウの魔力ですら容易に一蹴できる微力なものばかりである。ましてや、今回タウが案内するという相手であれば尚更…。

「地図さえ渡せばそれで事足りる、と思ったかね」

タウの心を透かし見るように、タンケはふわりと微笑んだ。

「…そのように思いました。未熟な末弟子の考えと言われれば返す言葉もありませんが…」

優しくも厳しい師の表情を窺いながら答えるタウの成長を心奥深くに満たしながら、タンケは答えた。

「結構。タウ、お前の気持ちもわかっておるつもりよ。しかし存外、此度の修めがお前の指針をも決めかねんと、

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