7丁目の美人

仮墓地ヤン

1. 7丁目

 ぼくは毎日同じ通りを歩く。

真っ青な空と眩しい光でクラクラする朝も、薄曇りの朝も、今日みたいにうっすら景色にベールがかかったような霧がいっぱいの朝も。

 そして必ず左側を気にする。あと三つ角が来たら、あの店がある。

もうすぐ、7丁目と書かれた電信柱がやってくる。

この通りも昔はそれは大きな商店街だったらしい。ほとんどの店が廃業したようななかでも7丁目だけは少し店が残っている。

 八百屋だったらしい錆びたシャッターの降りた店。古くて小さいクリーニング店。よくわからない季節の饅頭を売る黒く煤けた和菓子店。背中の曲がったマダムのいる、なぜだか小洒落た惣菜屋。その次の角、自動販売機の横に小さな窓からやり取りするタイプの煙草屋。


 さて今日は。と覗いてみると、彼女はそこにいた。


 窓のすぐそばに彼女の髪が揺れている。彼女は腕を折りたたんで枕にして、少し横向きに今日も眠っているようだ。

窓は閉まっているので彼女に触れることはできないだろう、とぼくは思う。

窓を開ければ、きっと彼女は目覚めてしまう。

窓のすぐそば、机の上での微睡を邪魔したいわけでも、彼女に触れたいわけでもないのにぼくは毎日思う。

 どうしたいかって言うと、彼女の顔が見てみたい。

眠る彼女の顔を見ようと毎日毎日覗くのだけれど、彼女の(きっと)肩くらいまでの髪は絶妙に頬や目や鼻にかかっていて、見えない。

 彼女の白い指や髪の色はいつもいつも細かく目に焼き付いてしまう。


 それにしても毎日この時間は眠っている。同じ場所で。

 今日は少し動いた。髪が揺れた。それで満足した気になってぼくは駅まで歩いていく。

 ぼくはこっそり彼女を美人だと思っている。

目覚めた彼女の目は澄んでいて、濡れた黒曜石のように光っているんだろうな。

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