戦業主婦ヴァルキュリア(36歳)

ちびまるフォイ

魔物退治はボランティア

「先輩、本当にやめちゃうんですか」


「ええ、もともと結婚を気に仕事は引退するつもりだったの」


「これからはどうするんですか?」


「戦業主婦になるつもりよ」


それからしばらくして、街に巨大な魔物が襲ってきた。


「佐藤さん、右に! 私は足を止めるわ!」

「はい!」


戦業主婦たちは区画ごとにチームを組んで天災のごとく現れる魔物を倒していく。

街の平和は主婦によって保たれているのだ。


「今日はわりと楽だったわね」

「これからランチでもいく?」

「私子供を迎えに行かなくちゃ」


血で血を洗う戦闘が終わるや戦業主婦はアマゾネスから

一瞬にして家庭の顔に戻る。


「佐藤さん、そろそろ武器変えたほうがいいんじゃない?」


「うん。夫に相談してみる」


その夜、妻は食事の席で夫に話をもちかけた。


「……ということでね、新しいパルチザンがほしいの」


「え? こないだ買ったばかりじゃないか」


「そうだけど……最近、魔物が多くなっているじゃない?

 武器は消耗品だからどうしても攻撃するたびに劣化するのよ」


「……別にまだ戦えないわけじゃないだろ?」


「それはそうだけど……。魔物討伐はチームで動かなくちゃいけないの。

 仮に私の武器が壊れてしまったらチームのみんなにも……」


「うるさいな。武器だって安くないんだぞ。

 それをブンブン振り回せばすぐに壊れるに決まってる!

 もっと賢く戦えよ! 戦い方が悪いから武器が摩耗するんだろ!」


仕事でイラだっていた夫は逆ギレする。

その剣幕に妻もカチンとくる。


「なによ! 私だって必死に魔物と戦ってるのよ!

 家事をこなしながら魔物を倒す大変さもわからないくせに!」


「毎日同じことをしているだけに偉そうなことをいうな!

 いったい誰が家に金を入れてやってると思ってる!」


「パルチザンくらいいいじゃない!」

「だったら俺だってゴルフクラブくらい買わせろ!!」


口論はヒートアップしたまま終わってしまった。

翌日、戦業主婦「ヴァルキュリアの会」でぽつりと話した。


「ああ、やっぱり? うちもそうだったわ。

 旦那って自分のこと以外になるとやたらケチ臭いことをいうのよ」


「私も旦那に防具買ってもらうの苦労したわ」

「私なんかいちいち頼むのも嫌だから自分で稼ぐようにしたわ」


「そうよね……」


妻は刃こぼれしている戦斧を見ながらため息をついた。

空から魔物が現れると戦業主婦たちは立ち上がった。


「いくわよ、みんな!!」


破壊のかぎりを尽くす魔物に戦業主婦が襲いかかる。


 ・

 ・

 ・


夫が病院にたどり着くと、妻はベッドで寝ていた。

体にはいくつもの包帯が巻かれている。


「あなた……」


「おい、いったいどうしたんだ!?」


「実は……魔物は倒したんだけど、怪我しちゃって……」


病室の横には刃が欠けた戦斧が立て掛けてあった。


「まさか、これが魔物との戦いのときに壊れたから

 作戦がうまくいかなくなって怪我したのか?」


「でも、あなたのいうとおりかもしれない。

 もう少しうまく立ち回れたら怪我しなかったのかも」


夫は妻を抱きしめた。


「すまない……俺がしょうもない貧乏性を出したばっかりに……!」


「いいのよ。それに魔物は倒せたわけだし」


「お前が無事じゃなかったらなんの意味もない!」

「あなた……///」


病室に愛情のバラ畑が広がる。


「君が欲しがっていたパルチザンを買おう。最高級品のものだ」


「いいの……?」


「もちろんだ。君が無事で居てくれるためなら金は惜しまないとも!!」


「それじゃほしかった盾があるの!」

「買おう!」


「最新のビキニアーマーもほしいと思ってたの!」

「もちろんだ!」


「呪い封じの指輪もあったら便利だと思ってたのよ!」

「買うとも!」


「毒を無効化するハイヒールもほしい!!」

「なんでも言ってくれ!!!」


サンタでも逃げ出すほどの注文をひとしきり叶えると、

二人の愛情と信頼はいっそう深まった。


「あなた、でもどうしてこんなに気前よく買えたの?

 普段こんなに出費したら生活できなくなるじゃない」


「安心しろ、金ならたくさんある」


「あなた、それじゃ普段ケチケチしていたのは私のための貯金を!?」


夫はニコリと笑って答えた。



「魔物が会社をぶっ壊したから、臨時の退職金がたくさん出たんだ!」

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