青年編 第44話 帰宅

「ふぅ……今日は一日疲れたなぁ……」


 俺は路地裏で敦子の姿から篤樹の姿へと変身して、家へと向かっている。

 俺は氷堂時雨先輩を敦子という女に変身することによって、氷堂時雨こと『氷姫』を手籠にすることを可能にした。

 氷堂先輩に正体がバレる可能性があったものの、そこはうまく頭を使ってなんとか氷堂先輩の疑惑の網から抜け出すことができたし、さらに氷堂先輩と一から仲良くする手段も手に入れた。

 まぁもうスキルの欄にはしっかりと氷堂時雨の名前は入っているから、俺に惚れてしまっているのは確かだ。

 愛情表現がどうなるのかはわからないが……

 ナツみたいに暴力的だけにはなって欲しくないのだが……

 そして攻略した夜は氷堂先輩と熱い夜を一緒に過ごした。

 俺の体は敦子としてではあったものの、氷堂先輩のあんな顔を見ることができただけ、収穫と言えるだろう。

 絵面的には100%百合物なのだから、ここは許されてもいいのではないか……と俺は思うが……

 その後、長い一夜を過ごしたせいで二人とも起きたのが昼に差し掛かった11時だったので、朝と昼を兼用するような料理を食べて!近くの森を探検した後、来た道を辿るようにして帰っていった。

 敦子は幽霊設定にしてしまったので、氷堂先輩に別れを済ませて、その場から師匠の力を使ってステルス化をして目の前から消え去った。

 スーツケースは家に持って帰ってもまた面倒事が起こるために、電車に爆弾を設置するかのように放置をして置いた。

 駅員さんには申し訳ないが、中身は女の子のパンツだったりするのだから、それを献上してあげる代わりに許して欲しいものだ。

 まぁ、そのパンツは俺が履いたものだから……ある意味爆弾なんだけども。


 そのあとは氷堂先輩がさったあと、ステルス化をしたまま、女の子を襲ってみるなんてことはせずに、路地裏で篤樹に変身したあと、ステルス化を解いた。

 その後は前述の通り、家へとまっすぐ向かっていった。

 旅行の最終はアドレナリンが出て興奮状態にあったものの、それでもやはり旅疲れのせいで重くなった足を懸命に動かしながらも家へと向かった。


 いつもより時間が多くかかってしまったが、途中で更なるハプニングもなく無事に家に着くことができた。

 この時俺は疲れのせいか昨日の朝の出来事を完全に忘却してしまっていた。

 俺は何事もなかったように、家の扉を開けて、


「ただいまーー」


 ダダダダダダダ。

 二階から轟音が家中に鳴り響く。

 その音は徐々に俺の耳に大きな振動を与えるようになり……


「にいざまぁぁああ!」


 小さな女の子が俺の後ろから鬼ような形相をして俺の名前を大きな声で叫ぶ。


「にいざまぁぁああ!」


 俺が反応しないからか、もう一度大きな声で俺の名前を叫ぶ少女。


「どうしたんだよ? 希」


 俺は旅の疲労を感じていたのだが、雷が落ちるような轟音に妹の叫びを聞いたらさすがの俺でも昨日の出来事のことを思い出した。

 キスをしてこいつ妹の希を眠らせたこと。


「どうしたんだよ……じゃあありません!」


「じゃあ……なんだよ?」


「にいさま! 今までどこに行ってたのですか?」


「母さんに旅行に行くって伝えただけど?」


 さすがに帰らないことを連絡しておかないと母さんも心配しちゃうだろうからね……


「そんなことは知っていますよ……でも、兄さま肝心な場所までは教えてくれなかったじゃないですか?」


「それは……教えたらあの調子だとお前追いかけて来ただろ?」


「うぐっ! そ、そんなことないデスヨ」


「うぐっ! って言っちゃってるし、語尾片言になってるぞ?」


「もう、そんなことはどうだっていいです……にいさまこっちに来てください!」


「な、なんだよ。もう……」


 俺は仕方ないので靴を脱いで妹のそばに寄ってやる。


 くんくんくんくん。

 妹の希が俺の胸元に鼻を近づけて犬みたいに匂いをくんくんと嗅ぐ。


 くんくんくんくん。

 鼻先が先っぽに当たって少しだけ刺激が……


 臭いは嗅いでいる希はというと、


「あれ〜〜おかしいです……兄さまの良い匂いしかしません……絶対女の人の匂いをつけて帰ってくると思ったのですが……」


 それはそうだよ。お前の轟音を聞いた瞬間に師匠の力を使って体を消臭したからな。

 一手遅かったらかなり危なかったのかもな。まぁ、ここは俺が一歩上手だったところだな。


「なんだよ……兄ちゃんを疑ってたのか?」


「はい! バッチリ疑ってました! 兄さまがピンクのスーツケースを強引に持って行こうとした時点でかなり怪しかったですし、それにモジモジ……」


「あれの中身は大事な仕事のものだったんだよ……妹であっても見せられなかったんだ……ごめんな……」


 もうそのスーツケースはここにはないんだ……今頃、電車の授業員が不審物だと思って持ち出し、検査して宝物を見つけたような顔をしているのだろう……

 残念だがそれは爆弾であるのだが……

 無いものを詮索することは希の力ではできまい。


「ぅぅぅぅぅぅぅぅ!」


 妹の希も打つ手が無くなったのか、犬のように唸っているだけで何も言えないようだ……

 ジト目をして俺を見ているだけの希。

 やっぱり母さんの娘だけあってとても可愛らしい。

 そんな可愛い妹に熱い眼差しを向けられ根負けした俺は可愛い妹にある提案をした。


「なぁ。希……兄ちゃんと久しぶりに一緒にお風呂に入るか?」


 希には一日寂しい思いをさせてしまったし、最近は仕事もあったり、なつとふゆとあきと美幸とデートすることで休日を潰してしまっていたから、希と遊ぶ機会もなくなってしまっていた。

 だから、たまには可愛い妹と一緒にお風呂に入るくらいならいいだろう。

 まだまだ小学4年生なんだし、お兄ちゃんと入ってもおかしくはないだろう。

 さすがの俺も小学生、さらに肉親には欲情なんかはしないだろうし。

 そう思って、希を一緒にお風呂に入るよう誘ってみたのだが……


「に、に、にいさま! 何を急に言ってるんですか……も、もぉ、兄さまの馬鹿ぁぁあ!」


 と希は顔を真っ赤にして、叫びながら階段を駆け上がっていった。


「え!? 前までは自分から俺とお風呂に入ろうとしていたのに……ここに来て……」



 希は前までは俺が風呂に入っている時は勝手にスッポンポンなまま風呂に突撃をかまして来たのであるが、彼女にも来てしまったのであろうか……

 思春期が……

 それともただ自分でなら攻められるけど、相手に攻められると引いてしまうようなギャップをもつ少女というわけなのだろうか……


 まぁ、そんなことはどうでも良いとして。

 俺は玄関から移動して、リビングへと向かった。リビングの扉を開けると。


「あら。あっくん。お帰りなさい。旅行は楽しめた?」


「あぁ。母さんただいま。温泉に行ってきたんだけど、ゆっくりできてよかったよ。今度母さんも連れて行くよ」


「あら。ほんと? 母さんとっても嬉しいわ! それはそうとして、あっくん。久しぶりに母さんと一緒にお風呂に入らない?」


「え!?」


 母さん!? 何言っちゃってんの? 俺の歳はもう17歳だよ。あそこもすっごく立派になっちゃってるんだよ? それに母さんは肉親とはいえすっごくエロい体してるし、正直にボーイが反応してしまったらどうするの?

 それにお父さんにそんなところが見つかったら……

 息子としてすごく気まずいよ……


「今日は父さんは仕事の宴会があるみたいで帰ってくるのは遅いらしいわ」


 いや。いなきゃ良いって問題じゃないよ……

 それに家には希もいるんだからね……

 希に見つかったら本当にまずいよ?


 と俺が解答に困っていると後ろから、

 ダダダダダダ。

 と轟音を出しながら近づいて、


「だめぇぇぇぇええ!」


 妹の希が俺と母さんの会話を聴いていたのか階段から勢いよく降りてきた。


「あらあら。のんちゃん。母さんはあっくんとお風呂に入ろうと思うんだけど、いいかしら?」


 いや、良くないよ……母さん……

 氷堂先輩みたいに二人きりの時ならいいよ。

 俺の気持ちを代弁してくれるかのごとく、妹の希が


「そんなのだめぇぇぇ。だって、わたしがにいさまと入るもんっ! にいさまに入ろ! って誘われたもん!」


 妹は母さんに対して、プンスカプンスカと怒った顔を見せて、俺と一緒にお風呂に入ることを強く主張した。

 先程の照れが嘘みたいだ……

 母さんはそんな希の様子にうっすらと目を細めて、


「なら、しょうがないわね……今日はのんちゃんに譲ってあげるわよ!」


 と、微笑んでいた。


 なるほど……そういうことだったのか……

 希のことを焚きつけるためにさっきのようなことを言ったのか……やっぱり母さんは母さんなんだな……と感心していたところ……


「あっくん。今度父さんがいない時は母さんと一緒に入ってくれるわよね?」


 はい。やっぱり母さんは母さんでした。

 美人で巨乳でエッチな母さん。

 エッチな部分が徐々に出始めているのは少しばかり問題があるのだが……

 まぁ、たまには一緒に入るくらい……


「わかったよ。また今度な母さん」


「あら。嬉しいわ。どうやって父さんを追い出すか考えておくわ」


 流石にそれは父さんがかわいそうだからやめてあげてね……

 父さんはああ見えていい人なんだよ?

 母さんが一度は愛した人なんだからね?



「じゃあ、にいさま! お風呂に行きましょう! はやくはやく!」


 俺は妹に腕を力強く引っ張られ、そのまま脱衣所へと連行された。

 と、脱衣所に俺を連行したはいいものの。

 肝心の妹はというと……


「……にいさま……にいさまが先に脱いでください……」


 か細い声で赤を真っ赤にして照れたようにそんなことをいう妹。

 どうしたんだよ……そんなモジモジして……

 そんな風にされると俺もドキドキしてくるんだが……

 まぁ、ここで俺が怖気付いても余計希を緊張させてしまうだろうから、ささっと俺は自分の衣服を剥いでスッポンポンになって見せる。


「ほら……脱いだぞ!」


「…………」


 バタン。

 希は俺の裸をみて一瞬顔を真っ赤にして体を硬直させ、そのまま誰かに意識を刈り取られてしまったのか、白目をむいて気絶してしまった。


 俺は倒れゆく希の体をそっと抱き寄せて。


「はぁ……希ももう性に意識をしだす年頃なのか……」


 と、物思いにふけりながら脱いだパンツをもう一度履いて、気絶した希を俺の部屋のベッドへと連れて行く。

 希が起きるのはもう少し後だろうと思った俺はささっとシャワーを浴びに行った。


 シャワーを浴びて、頭の髪を乾かした後、希の様子を見に行くために自室に戻った。

 希はまだ目を覚ましていないようで、俺は眠っている希の隣に寄り添った。

 希の睫毛は母さんみたいに長くて、整っている。髪も母さんに似て、いや若さ故かそれ以上に整っていて、艶がある。肌も赤ちゃんみたいにもちもちですべすべしている。通った鼻筋に薄い唇。そんな可愛らしい眠っている妹の頭をそっと優しく撫でてやる。

 俺が撫でるたびに希は気持ちよさそうな顔をしている。

 俺もそんなぐっすりと寝ている希を見ると、旅の疲労感が眠気へと移り変わっていった。俺は部屋の電気を消して、眠っている希の隣に入り込み、妹を抱いて、抱き枕にした。


「おやすみ……のぞみ……」

 ともう一度だけ、希の頭を撫でて、俺は目蓋を閉じた。

 妹も俺の言葉に反応したのか。

 ギュッと俺の体を抱きしめて、頭を俺の胸元へと埋めてきた。

 俺も何の抵抗もすることもなく、それを受け止めて、今日は仲良く二人寄り添って一晩を過ごした。

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