第9話 狙われてる俺たち

 魔星の谷に向かう出立は、第一王子マドリアスに変身した俺と王女アイネイアス姫のたった二人で従者はいない。城に仕える多くの家臣と噂を聞きつけた国民に見送られた。


 俺たちを見送るユーネイア姫の後ろには、マドリアス王子が姫付きの官女に変装して立っていた。すらりと背が高過ぎるが、金髪を黒髪に染め化粧がやたらに映えて美女なのが目立つ。


 その近くには第二王子ググランデが、ユーネイア姫に近寄ろうとしていたが、すぐ後ろのマドリアス王子の女装にも魅了されてキョロキョロと戸惑っている様子だった。


 鼻の下を伸ばして、スケベを象ったようなマヌケな王子だ。ユーネイア姫もあの王子に言い寄られて迷惑してるのも頷ける。


「ググランデ王子はいつ魔星の谷に向かうのか? 」


「あぁ、アレは、多分、私たちの十日後に出立と聞いている。私たちを暗殺してからのんびりとだろうな。私たちが戻って来なければ、そのまま王位継承権を得られるかも知れないし」


「汚い話だな……」


 馬に跨りしばらくすると草原の向こうに城壁が見えなくなり、左右に連なる山脈が現れる。このまま街道を通り草原を抜けいくつかの山を越えると精霊の森、そして魔星の谷だ。長い旅路だ。


「魔剣の事はいつから知ってたんだ? 」


 サイはアーネスに尋ねた。


「先代を知っている」


 ——なんだ、剣術学校あの二年間ずっとアーネスに俺は監視されてたということか。先代はアーネスと出会う前に亡くなっている。


「俺からすれば竜王の牙は、誰の手にも渡らなければ助かるんだけどな」


「……魔剣の素材に使えるから。先代からはもう一刀分の量しかないと聞いていた。これが最後か? 」


 アーネスが確認する。


「……最後だ」


 アーネスが左腰から下げたそれを抜いた。俺も懐から手刀を掴む。アーネスが感知した殺気に魔剣を一振り魔力を発し、俺は逆側の気配に手刀を放った。


 ズガ——ン!


 どちらからも短い悲鳴が上がると、生き絶えたのか静かになった。二人で馬を降りて確認すると、草叢に隠れていたググランデの刺客だった。アーネスの放った魔力で地面がえぐれ熱を帯びている。桁違いの威力……これはマズイ。


「随分と気が早い。凶悪な魔物も現れないこんなところで……まだまだこの先も潜んでいそうだな」


「めんどくさい旅だな」


 草原の風に合わせる様に前髪を手ぐしでかいて、アーネスがやっとこの旅の流れを話し始める。


「精霊の森で私たちの味方と合流する。刺客に追われる危険な旅だ。向かってくる敵は容赦無く打ち棄てる」


 ——容赦無くとか徹底するって、好きだよなこいつ……


「……めんどくさいな。で、味方というそいつらってのは、この三年間で見つけたのか? 」


「……」


 アーネスは返事をしない。はぁ……と、俺は溜息をついた。あの二年、剣術学校での目星い実力者は……アーネスを基準にすると限られる。


 ブラコンも随分と大変なんだなと、感心してみた。迷惑なんだが。あの第二王子が国王になるのは嫌だなぁ……とは思う。

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