第98話

「アンタ……」


 ハルカの言葉にアケミは目を吊り上げる。


「誰にモノを言っているんだい!!」


 ハルカが頭を守る様に縮こまり必死にアケミの折檻を耐えている。

 そして、俺の方を見て叫ぶ。


「オカ逃げて!!」


 ハルカの声に、アケミが反応する。


「逃すわけ無いだろ? ソラタ! 捕まえなさい!」

「ウン、オレ、アイツツカマエル!」


 ソラタはオカの方に向かって走る。


(よし、上手くいったな……)


 オカは、ソラタから逃げ出す前に一度ハルカを見る。

 そこには、必死に目を瞑って耐えている姿が映る。


(俺が間違っていた。ハルカは俺達の為に……)


 改めて、認識を変えたオカは両足に力を込めて走り出す。


「オラッ! 追い掛けて来いや!」

「マテ、ニゲルナ!」


 そして、オカとソラタの鬼ごっこが始まった。

 全て、作戦通りだとオカもハルカも思っていただろう……


「オカ……逃げ切って……」


 ハルカは必死に丸まりアケミからのお仕置きから自分の身を守っているが、ある事に気がつく。


「痛くない……?」


 先程まで扇子で叩かれた痛みが、いつの間にか感じられ無くなった。


「なんで?」


 少しだけ顔を上げて覗き込む様に様子を見るがアケミは確かにそこに居た……


「しまった!?」


 ハルカは慌てて立ち上がるが既に遅かった。


「アハハ、やっと気が付いたのかい?」

「もしかして、分身……?」

「そうさ。アンタは本当に馬鹿だね! 何企んでいるか分からないけど、あの子を捕まえてお前の目の前で殺してやるさ、あははははは」


 すると、アケミの分身が煙の様にハルカの目の前から消えてしまう。


「オカ!」


 追い付ける筈が無いがハルカは必死にオカ達を追いかける。





「はぁはぁ」

「マテ、クワセロ」


 オカとソラタは山を駆け上りながら鬼ごっこをしている。


「クソ……やっぱり足腰がキツい」


 オカは必死に足を動かしているが徐々にソラタに追い付かれている。

 そして、更にオカにとって不運な出来事が起きた。


「アハハ、坊や、やっと追いついたよ?」

「なぁ!?」


 なんと、アケミが目の前から現れてオカに向かって来る。


(挟まれた!?) 


 後ろにはソラタ、前にはアケミがいる為逃げ道を奪われる形になったオカ。


(いや、だけど確かにあの時アケミはハルカの所に……)


 止め様とした足をオカは動かし続ける。そして、地面に落ちていた小石を拾い前に投げ出す。


「よし」


 石はアケミの身体を擦り抜ける様に通過して地面に落ちる。


「ッチ! 随分と冷静じゃ無いかい」


 アケミの分身が消えると、背後から声がした。


(良かった……)


 オカは安堵ついでにアケミに話し掛ける。


「ハルカはどうした!」

「アハハ、何やら企んでいそうだったから、お仕置きの為にアンタを目の前で殺す事にしたよ」

「オレモ、ハルカ、オシオキスル」


 物騒な事を言い、アケミとソラタが追い掛けて来る。


「はぁはぁ、あそこか……」


 オカは目線を上げて場所を確認する。


(アケミが居るから、普通に向かったらバレるか……?)


 本来なら、ソラタだけを連れて最短ルートを駆け上る予定だったが、それだとアケミに作戦がバレてしまうだろう……


「遠回りするしか無いか……? いや、そんな事したら確実に追い付かれる。やっぱり最短ルートに掛けるしか無い……」


 オカは更に足の回転を上げる。


「アハハ、本当に逃げ足は早いね……」


 ニヤニヤとオカの後ろ姿を見ながらアケミは追いかける。


「はぁはぁ……!?」


 必死に走っているとオカの顔の横を物凄いスピードで何かが通り過ぎた。


「ハズレタ」

「アハハ、惜しいわねソラタ」

「ツギハ、アテル」


 すると、ソラタはまた石を広いどんどんと投げて来る。


(これじゃ、マサオさんの時と同じだ!)


 唯一、オカにとって良かった事はソラタ自身はマサオさんよりかは上手く石を投られないのか、オカに当たらずにいた。


「はぁはぁ……あと少し」


 いつ当たるか分からない恐怖感を必死に押し殺しオカは前だけを見て走る。


「パパ、スゴイ、ヨクアイツ二、アテタ」

「そうね……あの人なんだかんだ器用に何でも出来たのね……」


 それからオカはやっとの思いでヒューズ達が隠れている場所に辿り着く。


「マテ、ニゲルナ!」


 オカを追ってどんどん進んでいくソラタ。

 だがアケミは山の頂上に着いた時にある事に気づく。


「ん? ここは……」


 一度止まり周囲を確認する。


「そうかい……あの時と同じ事をしようとしているのかい!」


 オカ達の作戦に気付いたアケミはソラタを止め様とする。


「ソラタ止まりなさい!」


 だが、オカに夢中になっているソラタの足は止まらない。


 それを見たアケミも走り出す。


「はぁはぁ……」

「マテ!」


 オカは大きな木の場所まで行く。


「はぁはぁ……着いた……」


 ソラタさんはオカを追い掛けて木を通り過ぎようとすると、何処からか声が聞こえた。


「ダルマ君、飛ぶんだ!!」


 茂みに隠れていたヒューズが木の上に登っていたダルマに合図を送る。


「二度目だ! こ、怖くない!」


 木の上に居たダルマは目を瞑りながら、その場からジャンプする。すると、ダルマに括り付けていた紐がダルマに引っ張られる。


「ン? ナンダ?」


 ダルマの飛び降りにソラタが注目する。すると以前と同じ様にソラタの足元に隠れていた紐が足に絡みつきソラタは宙に引っ張られたのである。


 気付いた時にはソラタは縄により木に吊るされていた……。

 その光景はまるで罠に引っかかった動物の様だ。


 木から飛び降りたダルマは足から着地したとは言え、相当な負担が掛かっており倒れ込む様に地面に横たわる。


 だが、ここで終わりでは無い。


「木登りなんてガキの頃以来だったぜ!」


 カンジが木の上からソラタに飛びつき大きなハサミを奪う。


「これだな?」

「オレノ、ハサミ、カエセ」


 ソラタは奪われたハサミを追う様に手を伸ばすがカンジは直ぐにソラタから離れて走る。


 それを見たアケミが相当焦る。


「そのハサミを返しな!!」


「うるせぇ! ババァ引っ込んでいろ!」


 ニヤリと笑ったカンジはヒューズに向かって言い放つ。


「頼むぞ!」


 持っていたハサミをヒューズに向けて投げる。

 ハサミをシッカリとキャッチしたヒューズ。


「コイツで終わりだ!」


 自身で持っていた依代にハサミを突き刺そうとするが、ハサミを持っているヒューズの手はいつまで経っても振り下ろされる事は無かった……



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