第54話

「オ、オカ……」


 ダルマは、オカとパクトが走り去って行く背中を見て小さく呟く。


(クソ! 俺が転けたからアイツは俺の為に……)


 自分の不甲斐なさに怒りを覚えダルマは自身の足を手で何度も叩く。


「ダルマ君、落ち込んでいる暇は無いわよ! 直ぐにオカ君を助けるわ」

「は、はい!」


 慌てて立ち上がったダルマは何をするべきか考える。


「オカ君が私達の為に囮になってくれたけど、直ぐに助けましょう」

「どうするの……?」


 一刻を争う為プルは直ぐに決断する。


「先回りして、待ち伏せしましょう」

「待ち伏せですか?」

「えぇ。今追い掛けているパクトがマサオさん的な存在だとしたら私達ではどうする事も出来ないわ」

「筋肉が居ないから抑え込めない……」


 恐らく、フィブが言う筋肉とはパークの事である。


「一度、パクトを転かしましょう」

「転がすの……?」

「そうね。そしてパクトが転んだ瞬間にどこか隠れるしか無さそうね……」


 プルの作戦自体はとても御粗末であり、パクトを上手く転ばず事が出来たとしても結局捕まってしまう可能性がある。

 もしこの場にヒューズが居れば、もっと良い作戦を思い付いたかもしれないが、今は居ない……。

 だが、三人は少しでも早くオカを助けないとと言う気持ちがある為、直ぐに実行するのであった。


「ダルマ君、オカ君が通過しそうな場所を予測出来るかしら?」

「は、はい」


 ダルマが直ぐに工場内の地図を広げてオカが通りそうなルートを探し始める。


(恐らく、オカはこのまま階段を降りて最終的には工場を出るだろうから……)


「プルさん、確実に通る場所は工場の出入り口だと思います!」

「そこまで、オカ君の体力が持つかしら……」

「オカなら大丈夫……」

「そうですよ! アイツはマサオさん相手ですら逃げ切った男ですから!」


 口には出さないが、ダルマもフィブもオカの事を結構買っており、信頼している様だ。


「分かったわ。そしたら、私達は出入り口で待ち構えるわよ!」

「「はい!」」


(オカ、頑張ってくれよ……すぐ助けるからな!)


 三人は急いで工場の出入り口まで向かった。




「着いた……」

「プルさん、どうすれば?」

「原始的だけどこれを両方で持って引っ張るわ」


 プルが持っていたのはロープの様だ。どうやらロープの端と端を誰かが持ってパクトが入り口を通過する瞬間に引っ張り、足を引っ掛ける様だ。


 こんなので、都市伝説を止められるかは疑問だが、緊迫したこの場では、そんな事を言っている暇は無いようだ。


「私と、ダルマ君が引っ張るわよ」

「は、はい!」

「私は……?」

「フィブちゃんには少し危険な事をしてもらう事になるけど、いいかしら?」


 プルは少し申し訳無さそうにしながら、フィブに尋ねる。


「ドンと来い……」


 だが、フィブはいつもの眠そうな表情で自分の胸を叩く。


「あ、あの! 危険な役目なら俺が」


 オカが追い掛けられているのは、自分がミスをした為と思っているダルマは危険な事を犯す必要が有るなら自分がその役目をやるべきだと思っている様だ。


「いえ、ダルマ君はロープを引っ張る係じゃ無いと、ダメね」

「な、なんでですか?」

「フィブちゃんでは力が弱すぎて、パクトが、転ぶか分からないわ」

「け、けど」


 プルの説明の言う通りでは有るが、やはりフィブに危険な事をさせるのは気が引けるのか、ダルマは何か、良い手が無いか考える。


「ダルマ、私に任せて……」


 どうやらフィブ自身はやる気の様だ。


「プルさん、私は何をすればいい……?」

「フィブちゃんには、オカ君の事を待ち受けて欲しいのよ」

「?」

「工場の外に出てオカ君に声で合図を送って、外に出るようにして頂戴」


 恐らく、何もしなくてもオカは工場の外に出ると思われるが、より確実に工場の外に出る様にという作戦の様だ。


「私とダルマ君は出入り口の左右に隠れてパクトが来た瞬間ロープを引っ張るわ」

「分かった……」


 こうして、プル達三人はオカがパクトを惹きつけている間に素早くここまで準備を終わらせる。

 三人の誰か一人でも冷静であれば、この様な作戦は立てないだろう。しかし、三人共冷静では無かった……


「今、オカ君はどの辺かしら?」


 オカとパクトの気配を探る為に耳を澄ませる。すると工場内では、走る足音が聞こえ、徐々にだが足音が大きく聞こえるようになって来た。


「もうそろそろで着きそうね」

「オカとパクトの距離感がどれくらい詰められているか気になりますね」

「そうね。あまりにも二人の距離が近かったらロープを引っ張るタイミングが難しそうね……」


 夜の為、辺りが暗いのでロープに気付かれる心配は無いが、オカも巻き込んでしまう可能性もあるのが怖いところである。


「来た……」


 フィブが呟いた後に足音が階段を駆け下りる様に聞こえた。


「階段を降りたらオカ君の姿が見え始めるわね」

「それじゃ、配置に付いた方が良さそうですね」

「私も配置につく……」


 三人がそれぞれ自分の役目を果たす為に移動する。


「ダルマ君、ロープは大丈夫そう?」

「大丈夫です!」

「お互いロープから手を離さない様に気をつけましょう」


 フィブの方もどうやら、工場の入り口から結構離れた位置に着きオカを待ち構える。


(頼む、成功してくれ……)

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