第53話

「ダルマ大丈夫か?」

「はぁはぁ、大丈夫だ」


 どうやら、これからパクトの目を盗み、降りて来た階段に向かって走る様だ。


「まずは、私から行くわね」


 そう言うと、プルはパクトが部屋の扉を開き顔だけを、部屋内に突っ込んだ瞬間に階段に向かって走る。


(早い……)


 プルはオカ達が思った以上のスピードで階段まで走り、パクトに見付からず到着する。


 プルの方を見ると、ジェスチャーだけで、こちらに来る様に手を動かしていた。


「次、私が行く……」


 やはり怖いのか、ブィブの手足は少し震えていたが、パクトが先程同様、次の部屋を調べている時に素早く階段に向かって走る。


 ブィブはプルよりも素早く、そして音も立てずに階段まで到着してオカとダルマに来る様に合図を送ってくる。


「ダルマ、先に行くか?」

「あ、あぁ。悪いが俺から行ってもいいか?」


 大分息も整って来たのかダルマはパクトの動きを観察して、階段に向かって走るタイミングを計っている様だ。


(ダルマが、バレずに階段に着いたら、後は問題無く行けそうだな)


 オカの中で唯一、今回の作戦をちゃんと実行出来るか不安だったのはダルマの存在である。やはり大きな身体をしているため、どうしても他の人より目立つし、気を付けても音を発生させやすいのだ。


「行けそうか?」

「あぁ。そろそろ次の部屋を探す様だな……」


 パクトが次の部屋を探す為に部屋に顔を突っ込んだ瞬間、ダルマは全力で走る。

 プルやブィブと違って素早く無いし、多少音も出ているが、このまま走れば特にバレずに階段まで到着しそうである……が、そう上手くは事が運ばなかった様だ……



 ダルマは、なんと階段目の前で躓いてしまったのである。


(ダルマ!?)


 転んだ瞬間に大きな音が発生する。ダルマは直ぐに起き上がりプル達が居る階段に隠れる。


(不味い……このままじゃプルさん達が……)


 今のダルマの状況を見る限り、昨日からの探索と、先程までパクトに追い掛けられた影響で相当に足にきている様で、恐らく再度追い掛けられたら、直ぐに捕まってしまうだろう……


「やるしかねぇーよな……」


 オカは何も考えずにパクトの前に姿を表す。


「おい、なんで俺達を追い回す」


 オカはあたかも自分が音を立てましたと言わんばかりのタイミングでパクトの前に姿を表す。


 そして、パクトはオカの問い掛けに、声を出さずに肩だけ震わせて笑い始める。


(こ、こぇーよ……)


 そして、パクトの笑いと連動するかの様に電動ドリルの起動音が鳴り響く。


(階段の方に逃げたらダメだから……)


 オカは階段以外のルートを探すと、別ルートを見つけた。どうやらこの工場内は中心が全て吹き抜けになっており、それをぐるりと囲う様に四面に部屋が何個もある構造になっている様だ。


「おい、聴いているのか?」


 オカの問い掛けには一切応えずにパクトが近付いて来る。


「不気味な奴だな……」


 オカは別ルートである場所に向かって走り出す。


「マサオさんと、鬼ごっこした、俺の足を舐めんなよ?」


 そして、パクトとの鬼ごっこが始まった……


(このまま、半周する形で逃げればもう一つの階段まで行けるな)


 オカは走りながらも、逃げるルートを確保する為頭の中で地図を描く。


 オカの後ろを追う様にパクト走る。


(あまり、足は速く無さそうだけど、体力がな……)


 前回のマサオさんとの鬼ごっこでは、相手が都市伝説だった為体力が無限にあり徐々に差を縮められてしまったオカだった。


(一旦、どこかで撒かないとキツイか……?)


 オカは、このまま外まで逃げ切るか、一旦撒くか考えながら、走る。

 その間にも、パクトはプレッシャーを掛ける為なのか電動ドリルを鳴らしたり消したりと、音を立てている。


(アイツ、なんで何も話さないんだよ?!)


 何を考えているのか何も分からないが為に、勝手に想像してしまい、オカの中での恐怖が募っていく。


「はぁはぁ……」


(なんか息が上がって来たな)


 やはり、普通に走るより殺されるかもしれないと言う恐怖感からなのかオカは息がドンドン切れて来る。


(クソ、こんな程度じゃいつもは疲れないんだけどな) 


 まだ、鬼ごっこを始めて5分程しか経過してない筈だが、既にオカの息は上がっている。


(このまま、俺が引き付けとけばプルさん達が別ルートで外まで逃げるだろうから、そしたら警察を呼んで貰えるな)


 頭の中でプル達の行動パターンを読みながら自分はどうすれば良いか構築していく。


(よし、やっぱり一度撒いて何処かに隠れた方が良いかもな)


 思った以上に早いペースで息が上がった事もあり、オカはパクトの事を撒きたい様だ。


「はぁはぁ……でも、どうするかな……」


 完全にロックオンされている状態であり、よっぽどの事が無ければ見失う事も無いだろう。


(さっきの作戦はもう効かないだろうし……)


 先程同様階段を利用して少しだけ姿を隠せるので、その間にも柱に隠れようとしても、次は引っかからないと思い直ぐ様頭の中で却下を出すオカであった……


「クソ、八方塞がりか……?」


 

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