第50話

「ダルマ君、どうかしら?」


 誰かが完全に追い掛けて来る事が分かった今、プル達は一刻でも早く外に出ようと、現在は階段を探している。


「直ぐそこが階段です」

「ダルマ、アレじゃ無いか?」


 オカが指差す方に全員が視線を向けると、そこには階段があった。


「早く降りよう……」


 四人は階段の手摺りを持ちながら下の階目指して降りていく。


「す、ストップ!」


 すると、軽快に階段を降りていたのにも関わらず何故だが急にオカが皆を止める。


(おかしいぞ……足音が……)


「ど、どうしたんだよオカ?」

「いや、足音が消えたぞ」

「本当だわ……」


 足音が止まったと思ったのも束の間、先程まではオカ達の足音に被せる様にしていた相手だったが……


「お、おい階段を登って来ているみたいだぞ!?」


 カツン、カツンと何故だか、今オカ達が降りようとしている階段から足音が聞こえ始めたのだ。


「か、考えている暇は無いわ。道を変更して更に上の階に向かいましょう」


 プルの提案により、一度降りかけた階段を引き返し、更に上の階に移動する事にした。


「なんで、今まで同じフロアに居たのに下から足音が聞こえたんだ?」

「恐らく、元々一個下のフロアに居たのよ……」

「な、なら俺達が聴いていた足音は一つ下から聞こえて来たって事ですか?」

「恐らく。だから距離が近いのか遠いのか判断出来なかったのね」


 オカ達が現在逃げ回っている工場の中心は一番上に大きな天窓があり、そこから光が差し込む様にと中心部だけ、一階から天井まで全て吹き抜けになっているのだ。


「吹き抜けだから下の階の足音が反響して、変な風に聞こえたのか……」


「プ、プルさん何処に逃げますか!?」


 地図を見ながらダルマはプルの指示を待つ。


「同じフロアにもう一つ階段って無いのかしら?」

「あ、あります」

「なら一先ずそこを目指しましょう」


 階段を駆け上がった俺達は息を整える暇も無く正反対にある、もう一つの階段を目指す。


「皆んな、少し止まって……」


 走り出そうとした時、フィブが先程のオカ同様全員に止まる様言う。


「足音がまた止まった……」


(本当だ……)


「い、一体なんなんだよ……」

「本当に私達と歩く方向が偶然一緒なだけだったのかしら……」


 追い掛けられていないなら走る必要も無い為、一度息を整える為にオカ達は自由な体制を取る。


 その間も、気が抜けないのか工場内で誰かが歩いて無いか耳をそばたてる。


「さっきの俺達以外の足音って入り口で合った人なんですかね?」

「そう考えるのが妥当よね。皆んなどんな人か見えたかしら?」


 プルの問いに全員が首を横に振る。


「暗すぎて見えなかった……」

「お、俺もです」

「そうよね……。あの段階で声を掛けとくべきだったわね」


 暫く休んで、オカ達は再び歩き出す。


「プルさん、これからどうします?」

「そうね……折角一番上のフロアまで来たんだし、何か無いか探して帰りましょうか」

「ダルマ、次はどこに行けばいい?」


 それからは、下の階と同じく入れる部屋を一つ一つ何か無いか確認しながら探していくオカ達。


「プルさん、今回のは何か記事になりそうですか?」

「そうね……。対した物は無さそうだから書く事はあんまり無いわね」


 オカとプルは探しながらも周囲に何か無いか目を配らせながら会話をする。


「けど、書きようは幾らでもあるわ」

「そうなんですか?」

「えぇ。例えば先程の足音だって書き方次第で超常現象になるわね」

「それって、いいんですか……?」

「当たり前よ! 姿、形が見えないのに私達の後ろを誰かがついて来る……的なね?」


(確かに、そういう書き方をしたら不気味だし超常現象や心霊現象だと記事を読んだ人は思うかも)


 オカとプルが話している傍でフィブとダルマは黙々と部屋内に何か無いか見て回る。


「……」

「……」


 ダルマは性格が真面目なのか退かせそうな荷物はわざわざ移動させたりしていた。


「……なぁ」

「何……?」

「もう、怖くないだろ?」


 ダルマはフィブが握っている布を見ている。それは逃げる時などに強く引っ張ってしまったのか完全に伸び切っているダルマの服であった。


「これ、どうしてくれるんだよ……」

「これでもっといっぱい食べられるね……」

「どういう事だよ!?」


 そんな会話をしても、まだ怖いのかフィブはダルマの服から手を離そうとしない。


「……」

「……」


 言っても無駄だと思ったのか、ダルマは部屋内の探索を再開する。


「ふふ、フィブちゃん怖いのね」

「その様ですね」


 平然を装っているが、オカ自身もフィブと同じくらいビビっているのは皆んなに内緒の様だ。


(いいな……俺もダルマの服持たせて貰おうかな……)


 少しだけフィブの事を羨む様な視線を向けた後にオカも探索を開始する。

 


「ここの部屋には何も無さそうね」

「次は隣の部屋ですね」


 ダルマが地図を見ながら答える。四人は直ぐ隣にある部屋の前まで移動をすると、どうやらその扉には鍵が閉まっている様だ。


「開かないですね」

「完全に鍵がしまっているのか」

「次行く……?」


 プル以外の面々が次に向かおうと足を動かす中プルだけは扉を見つめている。


「どうしたんですか?」


 気になったオカはプルに質問をすると……


「鍵が掛かっていたのはこの部屋が初めてよね?」

「そうだと思います」

「よし、この鍵を壊しましょうか」


 どうやらプル的に何かがこの部屋にあるのでは無いかと考えた様だ。


「この部屋だけ鍵が掛かっているのが不思議だわ」

「壊すって言っても……」


 オカは辺りを見回す。


「オカ、これ……」


 フィブの手には鉄パイプが握られていた。


「それどうしたんだよ?」

「落ちてた……」


 工場内は夜逃げでもしたんでは無いかと言わんばかりに、荷物が沢山残っている。埃とかが無ければ廃棄された工場だと分からないであろう。


「プルさん、本当に壊しても平気ですかね?」


 鉄パイプを素振りしながらオカが訪ねる。


「えぇ。どうせ壊しても気付かれないわよ」

「分かりました」


 了承を取ったオカは大きく鉄パイプを振りかぶり、鍵に向かって振り下ろした……

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