第49話
「プルさん、どうしますか……?」
後ろから歩調を合わせて付いていくる者に対して、どうするか四人は決めかねている様だ。
「さっきの人かしら?」
「多分そう……」
「な、なんで声を掛けてこねぇーんだよ」
(ダルマの言う通りだな。俺達に用事があるなら普通は声掛かるよな?)
「と、とにかく後ろに戻って接触するのは怖いわよね」
「そ、それはやめときましょう」
ダルマが一度後ろを振り向くが目視出来る範囲には先程の者は見えなかった……。
「それじゃ、撒きますか?」
「それが理想ね」
「全力疾走……」
「え、えぇ? 走るのか……?」
「とりあえず、普通に歩いて徐々にスピードを上げていきましょうか」
(相手はまだ俺達が気が付いていると思って無いだろう)
「向こうには、私達が気が付いた事バレて無いわよね?」
「恐らく、俺達がどこかの部屋を探しているから止まっていると思っていますよ」
実際にはどうか分からないが、追って来ている者もオカ達同様に、今は完全に静止状態である。
「それじゃ、まだ全部は確認し切って無い場所もあるけど、危険な真似はする気ないから、下のフロアーを目指して帰りましょうか」
最後に確認が終わっていないフロアに向かう筈だったが、どうやら身の危険を感じたのか、このまま帰る様だ。
「ダルマ君、先導してくれるかしら?」
「は、はい!」
この場に居る四人の足音では無く、五人目の足音を確認した瞬間から、言いようの無い緊迫感が四人を取り巻いている。
「ダルマが転ぶといけないから支えてあげる……」
フィブはダルマの服を少し握り締めていた。
(フィブも怖いのか……。そうだよな、冷静を装っているけど、俺もメチャクチャ怖い……)
フィブがダルマの服を掴んでいる事に、誰も揶揄う事はしなかった。
「そ、それじゃ行きます」
ダルマがゆっくりと足を踏み出す。あくまでも背後の者に気が付いて無い事をアピールする為に先程と同じ歩調で歩く。
「……やっぱり付いて来ているわね」
「そうですね。しかも俺達の足音に被せる様に歩いている気がします」
どうやら、オカは背後から追って来ている者は、足音まで合わせて来ていると言う。
「こ、この大きな場所だったから反響が凄くて気づいたけど、普通は気が付かないですよね」
「私は、気が付いた……」
地図と睨めっこしながら、ダルマは外に出るまでの最短ルートを確認しており、その横ではダルマの服を握りながらも、懐中電灯の光を地図に当ててあげているフィブがいる。
「少し試したい事があるのだけれど、良いかしら?」
プルが提案をする。
「本当に、私達の事を追って来ているか試す為に、少し早歩きしてみない?」
プルの考えでは、早歩きしても着いて来るならば、それは完全にオカ達を追っていると判断出来き、逆にそれで付いて来なかった場合は、たまたま同じ方向を目指しているだけだと考えている様だ。
「恐らく、無駄だと思うけど一応ね」
「わ、分かりました。あまり向こうに気が付かれたく無いので、少しだけ早くする程度でいいですか?」
「えぇ。もちろんよ」
そう言うとダルマは少し歩くスピードを早めた。速度としたら全然上がっていないが、歩く足音に耳を傾けるとハッキリとスピードが上がった事が認識出来る。
「そ、それじゃこのスピードで一分程歩きます」
(これで、同じスピードで付いて来たら確定か……)
四人が四人共足音に耳を傾ける。
「同じスピードで付いて来るな……」
「しかも、足音まで被せて来てる……」
歩くスピードを早めた四人だったが、背後にいる者はシッカリと付いてきている様だ。
「これは確定ね……」
プルは確信する。
「確実に私達の後を追って来ているわね」
「な、なら何で俺達に声を掛け無いんですか?」
背後から黙って付いて来ている者は、一体何者で、なんで付いて来るのか、目的が分からないので、より一層恐怖感が増して来るだろう。
「目的が分からないのが怖いわね……」
「普通、何かしら声掛けますよね?」
「ダルマの熱烈なファンかも……」
「お前、怖いのかボケたいのかどっちだよ!」
表情では、分からないがフィブは何度も背後を振り向き確認している様子が見受けられる。
「とりあえず、相手を刺激しないで外まで逃げましょう」
「ダルマ、どれくらいで次の階段に着けそうだ?」
オカに聞かれて、ダルマは歩きながらも地図と自分達が居る現在地を見比べる。
「恐らく、このスピードなら五分も掛からないで階段に着くな」
「なら、このペースを維持して向かおう」
「オカ君の意見に賛成だわ」
こうして、四人は相手をなるべく刺激しない様に階段に向かって歩く。その間に四人は何度背後を確認しただろうか。
しかし、先程同様目視出来る範囲には人影も無く足音だけがオカ達に付いて来る様だ。
「なんか、おかしく無いか……?」
「そうね。足音は結構近く感じるのに、誰も居ないわね」
「こ、ここの場所が広すぎて距離感が狂いますね」
追い掛けて来る者が、一体どれくらいの距離までオカ達に近付いて来ているのかは不明である……
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