パクト

第37話

 そこには珍しくスーツに身を包んだオカの姿があった。


「おー、オカ遅れずに来たな」

「流石にオカでも今日遅れるのはダメだろ」

「オカ君なら有り得ますね……」


 オカ同様に三人の友人達もスーツに身を包んでいる。オカも含めて四人は、まだ着こなせて無い感が凄い出ているが、それは周りに居る他の学生も同じである。


「とうとう、卒業だな……」


 オカは感情深いのか友人達と構内を見回っている様だ。


「これでアニメの話とか出来なくなるのは残念ですね」

「それが一番残念だぜ」

「オカの場合は都市伝説の話か?」

「う、うるさいな!」


 マサオさんの都市伝説事件から半年以上経過している。都市伝説に懲りたオカはあれから調べたりはせずに、いつも通りの退屈な日常に戻った。しかし一時期の入れ込み様が半端無かった為、友人達には今でも揶揄われたりするらしい。


 四人は時間になり講堂に向かい卒業式を受けた。式の途中はやはり学生生活である四年間を振り返っているのか、オカの表情はコロコロと変わっていた。

 辺りを見回すと式の最中に泣いている学生もおり、それに釣られてまた泣いている学生も居た。


(学生生活色々な事があったな)


 オカの目に涙は見られないが、やはりしんみりしているようだ。


(色々あったけど、やっぱり一番印象に残っているのはアレだよな……)


 言わなくても分かる。恐らくオカは半年前の出来事であると。


(他の皆んなは元気にしているかな)


 あれから、オカとパークが入院中は各自それぞれがお見舞いしに来ていたが退院するに連れてそれっきりである。


(連絡先は交換したのに、誰も連絡してくれないなんて酷い……)


 友達が少ないオカは、どうやら寂しいらしい……。

 そんな事を考えている内に式は終わり講堂の外に出て友人達と会話を楽しんでいる様だ。


「そういえば、オカさ」

「ん?」

「お前だけ、就職先決まって無かったけど、もう決まったのか?」

「それは俺も気になっていたんだよ」

「オカ君、ずっとノンビリしていましたからね」


 三人の視線を受けたオカは明後日の方向に目を動かす。


「「「……」」」


(この沈黙が痛い……)


 友人達の視線はそれぞれで、コイツやっぱり決まってないよ……だったり、やっぱりか……だったり、オカ君らしいですねと笑顔の者まで居た。


「ま、まぁそんな時もあるよな」

「あるある」

「オカ君らしいですね」


 三人のフォローになっていない言葉にオカは慌てる。


「み、見捨てないでくれ! もっと俺を心配してくれよ」


 自身でも、今の状況が不味いとは百も承知なのだろう、オカはご飯の為移動する三人に縋り付く。


「今更慌ててもおせーんだよ!」

「俺達が散々煽ったのに動かなかっただろ?!」

「オカ君らしいですね」


 友人達はオカを心配して散々注意をしてくれたが、楽観的に捉えていたオカは見事に決まらず、今現在も勤め先が決まっていない状態である。


「俺、このままで大丈夫かな……?」

「今の日本で死ぬ事は無いから大丈夫だ」

「何か困ったら警察を頼れよ?」

「オカ君はオカ君ですね」


 アドバイスになっていない言葉にオカは、落ち込んでいるらしく頭を下げながらご飯を食べに移動する。


(俺、明日からどうしよう……)


 将来の不安を抱きながら、歩くオカ。


(どうにかして、働く場所を見つけないとな)


 フラフラと歩いているオカがある事を思い付く。


「そうだ!」


 声に出てしまい、前を歩く友人達が驚き後ろを向く。


「遂に壊れたか……?」

「か、可能性はあるな」

「オカ君は一度没頭すると凄いよね」


 三人の言葉が耳に入っていないのか、オカは直ぐ様スマホを取り出してメッセージを送る。


(俺は何を慌てていたんだ、あの内向的なフィブもどうせ決まってないだろ)


 自分の事は棚に上げて、オカは同類を探し始めた……。


「さて、ご飯食べに行こうぜ!」


 急に元気を取り戻したオカに対して不思議そうにしている三人だが、オカの奇行に関しては慣れているのか直ぐに立ち直り歩き出す。


(フィブも俺と同じ悩みを抱えて焦っているだろうな。ここは悩みを共有しないとな)


 ただ、同じ仲間を見つけて愚痴りたいだけだと言う事に気付いていないオカは幸せなのだろうか?


 それから友人達とのご飯を食べ大学生活を四人で振り返った。殆どがアニメ関係で学生生活を送っていた四人だが、それはそれで楽しかったので、良い事だろう。


「さてと、そろそろ解散するか」

「だな」

「オカ君も元気出た所だし」


 四人は席を立ち会計を済ます。


「それじゃ!」

「おう、また会おうな」

「落ち着いたらまた」


 三人はそれぞれの道に向かい歩いて行く。その背中をオカは見つめていた。


(三人は進む道があっていいな……)


 まだ、どこに進んでいいか分からないオカにとって三人はとても眩しく見えたのか、少しすると後ろを振り向き、オカも駅に向かって歩き出す。


「俺にはフィブがいる。俺にはフィブがいる」


 他の人が聞いたら勘違いしそうな言葉を繰り返しスマホをチラチラと確認するオカ。


 その時、スマホから通知音が聞こえた。


「きた!」


 直ぐ様メッセージを開くと一言だけ書かれていた。


 決まってない……


 その返信を見た瞬間にオカは飛び跳ねた。


「よっしゃー!」


 なんて、セコくて、醜いガッツポーズなのだろうか……


 オカは直ぐに今度会う事が出来るかメッセージを送る……

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