第36話

 パークからの投げ渡されたハサミを拾いオカは写真を運んでいるプルとフィブの元へ行く。


「オカ君、写真持ってきたわよ」


 大きな写真を二人で持って来たプル達は地面に置く。

 すると、木の上に吊るされているマサオさんが叫ぶ様に言葉を発する。


「やめろ、やめてくれ!」


 今までのマサオさんとは比較にならない程慌てている。


「それを壊すのはやめてくれ!」


 マサオさんの言葉にオカが反論する。


「お前に、そんな事言う資格は無いはずだ!」


(お前のせいでカリンが……)


「オ、オカ、俺はまだ死にたく無い……」

「人を散々殺しといて……」

「あ、あれは違うんだ」


 マサオさんは、何が違うのか言えないのか、ひたすら違うと呟き始める。


(カリン……仇は俺が討ったからな……)


 お日様が顔を出し始めた空を一度見てからオカはマサオさんから奪った大きなハサミを頭の上まで振り上げてから、勢いよく振り下ろしたのである。


「ヤ……メ……ロ……」


 マサオさんからは悲痛な叫びが聞こえるが、オカは手に持っていたハサミを写真に突き刺した。


 すると、マサオさんは力尽くで罠を破って地面に背中から落ちる。


「消えたく無い……」


 今までのマサオさんとは違って、今は見る影も無い……。


「アケミ……」


 マサオさんは地面を這う様に移動する。よく見ると足元が心綺楼の様に霞んでいる。


「ソラタ……」


 マサオさんは一体どこを目指しているのか。時間が経つ度にマサオさんの身体は霞がかる。


「ハルカ……」


 そして、マサオさんは止まる。その顔には涙が流れており、身体から在るものを取り出した。


(この状況でマサオさんは一体何を?)


 マサオさんが身体から取り出したのは三つ。

 一つ目は着物、二つ目は人間の指を標本にした物、三つ目はゲーム機であった。


(あれは、家族達の依り代?)


 三つの依り代を空に掲げると、光となって散らばる様に勢いよく飛んでいくのが見えた。


「俺がもっと、良き旦那で良き父であればな……」


 身体半分以上消えかかった状態のマサオさんは何故か穏やかな表情に変わっていた。


「お前達には……どんな形でも良いから……幸せになってくれ……」


 光の散らばった先に笑顔を向けていたマサオさんだったが、いきなりニヤついてオカ達の方に向き直した。


「アハ、お前達良くもやってくれたもんだ、アハハ」


 今では顔だけしか残ってない状態であるにも関わらずマサオさんは先程と違って愉快そうに笑う。


「アハ、正直に言うと、いつもと変わらず殺せると思っていたが、まさか逆に消されるとは思わなかった、見事!」


 敵にも関わらず相手を褒めるマサオさん。


「アハハ、だけどな?」


 ニンマリと、表情を浮かべてマサオさんはオカ達を一人ずつ見回した。


「アハハ、オカ、プル、ヒューズ、ダルマ、フィブ、パークお前達安心しているな?」

 

 何がそんなに可笑しいのか笑いが止まらないらしい。


「アハハ……残念だったな……俺の都市伝説はまだ続くぞ?」


 そして消える最後の最後までマサオさんは笑い続けて、完全に陽がさし登ったタイミングで、マサオさんが完全に消えた……。


 マサオさんの消える所を見た六人は暫くの間何も喋られないでいた。


(これで終わったのか……?)


「こ、これで終わったのか?」


 オカの気持ちを代弁する様にダルマが言葉を発する。


「多分、これで終わったのよね……?」

「そうだと思いたいですね」

「流石にこれ以上は身体が持たないぜ……」


 そう言って肩を刺されたパークが地面に倒れ込むように座る。


(実は俺もさっきからキツかったんだよな……)


 そして、オカもマサオさんに、追いかけられた時に出来た怪我がキツかったのかパーク同様に倒れ込む様に座り込む。


「フィブちゃん、これで全て解決かい?」

「恐らく……。ただ気になる事が」

「気になる事?」

「最後、マサオさんが言っていた言葉……」


(消える際に確かに何か言っていたな)


「都市伝説がまだ続くぞって言ってたわね」

「お、俺も聞いた」

「マサオさんの言葉は気になるけど今は身体を休めたいわね」


 プルだけでは無く全員が、このオフ会が始まってから、身体を休めていないのだから、当たり前の感想である。


「これで下山出来るのかな」

「オカ君とパーク君の怪我も早く直さないと不味いわよね」

「よし、とにかく下山して病院に行こうか」


 オカとパークに肩を貸しながら六人は下山する。


「それにしても、今回の事ってなんだったんだろ」

「そうよね……、マサオさんだけじゃ無くて死体まで消えていたわね」


 あれから、下山する前に六人は死体を確認しようとしたら、全ての死体が消えていたのだ。


(カリン……ごめんな……)


 各自それぞれ思う事があったのか下山時は誰一人話さなかった……。


「お、おい、あれ!」


 ダルマの大きな声に他の者達が顔上げて前を向くと、そこには駅が見えた。


「やったぜ! イッてて……」


 あまりの嬉しさにパークはガッツポーズを取るが怪我をしていた事を忘れていたのか痛みに苦しんでいる。


「やっと着いた……」

「フィブちゃんのお陰よ?」

「え……?」

「貴方が色々調べたお陰でマサオさんを倒せたんだし」

「そうだよ、フィブのお陰で生きて帰れた」

「あぁ、フィブちゃんのお陰だ」

「ううん、皆んなのお陰……」


 皆んなから、称賛されてフィブは目に涙を浮かべていた。しかし恥ずかしいのか顔を背けて皆に見せない様にしていたが、肩が小刻みに揺れている為バレバレである。


 それから六人は直ぐに救急車を呼びオカとパークを病院に連れて行った。幸い命に関わる怪我では無かった為一ヶ月の入院で済んだ。

 ヒューズはそのまま警察にも連絡をしたが、フィブ同様村には何の証拠も無い為、マサオさんに殺された人間は失踪扱いとして処理される事になったらしい。


 こうして、オカはなんとか都市伝説から逃げ出す事が出来た……。


 今回は……。

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