第31話
「おい、そろそろ捕まってくれないか?」
マサオさんはテーブルを挟んで向こう側にいるヒューズとプルに問い掛ける。
「捕まえた瞬間俺達を殺しますよね?」
ヒューズの返答にマサオさんは実に愉快そうに笑う。
「あぁ。でも考えてみてくれ、どうせ俺に殺されるなら、怖い思いをずっとするより早く解放されたいだろ?」
マサオさんがヒューズとプルに対して話している時に奥の扉がゆっくり、静かに開かれるのに二人は気付く。マサオさんは話に夢中なのと、背後での出来事の為気付いて無いようだ。
(あれは、オカ君達か!?)
ヒューズだけでは無く、どうやらプルもオカ達三人に気が付いた様だ。
(一体何するつもりだ……?)
三人はマサオさんに気付かれない様にと身を屈めながらゆっくりと何処かに向かって進んでいる様だ。
「おい、ヒューズにプルよ俺の話を聞いているのか?」
反応が無かった所為かマサオさんは二人に対して疑問を投げかける。
「え、えぇ。マサオさんは一体これまでどれくらい殺したのかしら?」
「あはは、プルよ面白い事を聞くのだな。そんな事覚えている筈無いだろう」
プルは必至にマサオさんの注意を自分達に向けようと話を繋げていく。
(オカ君達は何やら作戦があっての行動だろうから、こっちはマサオさんの注意を惹きつければいいわけだな)
どうやらヒューズもプル同様マサオさんとの話を繋げようと試みてみるらしい。
今までも何度か会話を試みようとしたが、その度に正気では無いマサオさんを見て諦めていたが、何故か今は正気に近い様な感じがするらしい。
「マサオさんは、どうやってその様な存在になったんですか?」
「それは俺にも分からん」
「気付いたら、今の状態だったと?」
「その様な感じだ」
会話のチョイスが良く無かったのかマサオさんは興味が無さそうな態度だった為、二人は慌てた別の話題を出すのであった。
「マサオさんは、なんであの最後の夜に村人まで殺し回ったのかしら?」
プルが言う最後の夜とは、恐らく都市伝説でマサオさんが家族全員を殺した後、そのまま村人までも全員殺害した時の事だろう。
「なんでだろうな……。今まで虐げられて来た所為か息子のソラタがアケミの指を切っていたのを見て自分のタガが外れた気がしたな」
その時の光景を思い出しているのか、マサオさんは、また悦に浸る様に笑い出し、口の端にはヨダレまで垂れている。
「あはは、俺を散々コケにして来た学生時代の同級生や、それを見過ごした大人共を俺は許してなかったのかもしれないな……アハハ」
先程までの正気はどこにいったのか、いつも通りのマサオさんに戻ってしまった様だ。
ヒューズとプルはオカ達の方を見る。
(肩車?)
オカ達は丁度肩車をしてダルマが立ち上がろうと必死に踏ん張っている所である。
「な、なるほど! なんで気付かなかったんだ……。あの写真が依り代なのか!」
ヒューズ同様プルも依り代に気付いたのか、なんで気付かなかったのかと言うような表情を浮かべている。
「アハハ、おい俺はなんでこうなったんだ?」
マサオは天井を見上げて、誰に問い掛けているのか分からない。
「オ、オレはナンデ、存在シテイルンダ……」
マサオさんは段々と意味のない言葉を吐き出す様になり、終いには床に膝を付きうずくまってしまった……。
「ヒューズ君、マサオさんはどうしたのかしら……?」
「わ、分かりません。ですがあまり良い予感はしないですね」
「同感ね」
二人はテーブル越しとは言え、言い様のない恐怖感、不安感に包み込まれ、出来るだけマサオさんから距離を取る様に離れる。
「それにしても、私達はダメねぇ」
「ですね。あんな大きいのが依り代だったのに全然気付かなかった」
二人は小声で話しオカ達の様子を伺っていると、丁度ダルマが肩に二人を乗せた状態で立ち上がったのが見える。
「アハハ、ドウシテ、存在シテイルカナンテ、ドウデモイイ」
マサオさんは、自問自答して自分の中で答えを見つけたのかユックリと立ち上がる。
「待たせたな。鬼ごっこを再開しようか」
一見正気に戻った様に見えたが、マサオさんの顔を見ると、目の焦点は、どこか遠くを見ている様な感じになり、口の感覚が無いのか滝の様にヨダレがポタポタと床に滴れる。
そしてマサオさんが走り出す。
(クソ、ここまでか?)
このままテーブルの周りをグルグルと鬼ごっこすれば、いずれオカ達のことを発見して標的を変えるだろう……。
マサオさんが最初に追い掛けて来たスピードより大分早くなってヒューズとプルを追い掛け回す。
そして、丁度ヒューズ達がさっきいた
場所にマサオさんが到着する。
「アハハ、あ?」
マサオさんの動きが止まる。
「おい、お前ら何をしている?」
マサオさんがオカ達の存在に気付く。まさかオカ達がいるとは思わなかった様で、内心驚いている様だ。
そして丁度オカもダルマの上に乗って立ち上がる。
「俺の……大事な写真をどうするつもりだ!?」
そう言うとマサオさんはヒューズ達ででは無くオカ達に向かって走り出す。
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