第28話

「おーい、ヒューズ、プル待ってくれよー。あははは」


 二人を追って楽しそうにしているマサオさん。


「不味いわね、このままだといずれ体力が切れて捕まるわ……」

「かと言って、マサオさんを撒ける方法がある訳でも無いですよね……」


 二人は長い廊下をひたすらに走り続ける。オカ達が付いて来ないと言う事は三人は別の扉から逃げたのだろうと、ヒューズ達は納得した。そして、問題は後ろから追いかけて来るマサオさんである。二人は先程から廊下をずっと走り続けている。


「ど、どこかに部屋無いかしら?」

「今の所は見当たりませんね」

「お前ら、何の相談だ?」


 マサオさんの走るスピードは変わらないが、二人は徐々に体力が尽き、スピードが落ちて行く。


「ほらほら、頑張らないと捕まえて殺しちゃうぞー?」


 マサオさんとの距離がどんどん縮まって来る。すると、前の方に扉が見え二人は逃げながらも喜ぶのであった。


「プルさん、前に扉がありまよ」

「何の部屋か分からないけど入るわよ」


 このままではいずれ捕まってしまうことが分かっているので、二人は扉を開けて、直ぐに閉めて扉が開かない様に身体で抑え込むのであった。


 しばらくの間扉を抑え込んで居たが、一向に扉を開ける気配が無い事に二人は悩んでいる様だ。


「なんで、開けて来ないのかしら?」

「俺達の反応を見ているのでしょうか?」


 二人は念のため更に長い時間扉を抑え込んでいたが、結局いくら待ってもマサオさんが扉を開けようとはして来なかった……。


「理由は分からないけど、どうやら諦めた様ね……」

「そ、そうですね」

「とりあえず、この部屋に依り代が無いか探しましょうか」


 二人は部屋に何があるか見渡す。


「不気味ですね」

「えぇ」


 その部屋には虫の標本が所狭しと並んでいた。

 蝶々の様な綺麗な標本もあれば、芋虫やゴキブリなどの標本もある。

 部屋内を探し回るが、荷物が全然無くその部屋には虫の標本や机には身体を切り刻まれている虫などが有るだけで、後は何も無い部屋であった。


「ここには、依り代無さそうですね……」

「そうね。部屋を出て他を探しましょう」


 この時、ヒューズとプルは気付いて無かった。

 

 一つだけ淡く光を発行していた標本を……。

 その標本は唯一虫では無く人の指であった。その指が誰かは分からないが恐らくは……。

 

 二人はタップリと時間を置いてからゆっくりと扉を開けて廊下の様子を確認する……。


「な、何よこれ……」

「どうなっているんだ……」


 扉を開けると、マサオさんの姿は無かった。

 だが、それ以上に不思議な現象が二人の目の前で起きていた。


「さっきまで私達が走っていた廊下じゃないわよ……?」


 プルが言う通り、扉を開けてみるとそこには先程走っていた長い廊下では無く、広い食堂が目の前には広がっていた。

 人間が三十人は余裕で座れる大きなテーブルに、床は少し古めかしいフローリングが敷いてあり二人が、歩く度にキシキシ音が鳴っている。


「どうなっているのかしら?」

「流石に色々あり過ぎて思考が停止しそうですね」

「ヒューズ君、あれを見て」


 プルの指した先には一枚の大きな写真が額縁に入れられて食堂の真ん中に立て掛けられていた。


「アレってマサオさん達ですか?」


 写真には四人の幸せそうな姿が写し出されていた。


「そうね。なんだか皆んな笑っていて幸せそう……」

 

 写真に写し出されている四人は全員が笑顔でカメラの方を向いているのだ。


「なんか、あの写真少し光っていません?」


 ヒューズの言葉通り写真は光を発行している様だ。


「確かに光っているわね……」


 プルは顎に手を乗せて考え込む様に集中し始める。

 だが、その集中は長く続かなかった……。


「おいおい、勝手に家に入り込んだだけじゃ無く、食事まで寄越せと言うのか?」


 マサオさんである……


「他の所は、笑って許せるがこの場所だけは許せんな……」


 今までのマサオさんとは真逆で、明らかにイラついた表情で二人を見ていた。


「ここは俺の特別な場所なんだよ……」


 ゆっくり、ゆっくりと距離を詰めて行くマサオさんに対して、ヒューズとプルは何処か逃げる場所が無いか辺りを見回す。


「お前ら見たいな奴は初めてだよ。まさかここまで来るとはな」


 ポケットから大きなハサミを取り出す。


「今までの奴らは山を逃げ回るだけでこの家に入って来ようとした奴らは居ない」


 マサオさんが一歩歩く度に二人も同じ分だけ距離を空ける。そして、それは大きなテーブルを挟んでぐるぐる回る様に三人は動いている。

 どうやら、特別な場所なだけありマサオさんはテーブルを破壊してまで距離を詰めては来ない。


「お前ら、都市伝説以外の情報を何か知っているのか?」


 二人からの返答が来ないがマサオさんは一人で話し続ける。


「俺は今まで人の顔色を伺って生きてきた。だが、一度死んでこの姿になってからは快適でな」


 マサオが話している内に何か無いかと必死に探す二人をマサオはしっかりと見ている。


「生きていた時はストレスがどんどん溜まっていったが、今は人の顔色を伺う必要が無いし、イラついた奴が居れば殺すだけだしな」


 そう言ってマサオの目付きが更に険しくなり、そして二人を追い掛けるスピードが徐々に早くなっていった……。

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