第19話

「テントは置いていきましょう」


 正男が今朝まで使用していたテントを見て言う。


「そうですね、荷物を減らした方がいいですよね」


 もしかしたら、また同じ所をぐるぐる回ってしまい、再度この場所に戻ってくる可能性が高いだろうとはお互いに言わないらしい。


 一同が下山準備が整った時である。どこに行っていたのかフィブが茂みの方から出てきて一度周りを見渡し呟く。


「もう一つ発見した……」


 何を? とは言わず、全員が何の事か分かったのだろう。

 フィブが再び茂みの方に歩き出した為、一同はついて行くとそこにはジャックの死体が転がっていた……。


(また、死体か……)


 オカはカリンに見せない様に、ヒューズは姫に見せない様に前に立ち、死体が転がっている光景を目の当たりにした。


 二つ目の死体という事と、フィブが事前に教えてくれたお陰か、同様や不安、恐怖は強まったが取り乱す者は居なかった。


 一度テントまで戻り、正男は下山を結構する事を皆んなに伝えた。


「こんな状況ですが、下山しましょう」


 そして各自思う事は沢山あるだろうが、特に文句など言わずに歩き出す。


(クイーンさんやジャックさんの死体があるって事はパークさんも……)


 オカの思っている事は恐らく当たっているのだろう。だが実際にパークが見つかった訳でも無いので、周囲の動揺を誘う事は得策では無いと思い話題に出さない様にしたらしい。


 下山していると、プルがオカに話しかける。


「オカくん、昨日怪しい動きをした人は居た?」

「いえ……。長く離れた人は居ましたが、それは全員そうでしたので怪しいと言えば全員怪しいです」

「そうよね……」


 昨日の夜間、オカ達は三人でローテンションしてテント内を見張ったが、テントを離れた時間が長かった者は全員だった。


「カリンの時はどうだった?」

「私の時も同じ様な感じ……」


 三人は他の者に聞こえない様に話し続ける。


 そして下山を始めてから数時間経つがやはり同じ所をぐるぐる回り結局テントまで戻って来てしまった……。


「困りましたね……」


 正男は顔を歪めて打開策をヒューズと一緒に話している。


「オカ、どうする?」

「うーん、今の所どうすればいいか分からない……」


 オカの返答にカリンの表情が暗くなる。

 だが、オカの返答もしょうがないものである。こんな経験をした者など一体どれくらいいると言えるだろう。


「とりあえず、私達三人は常に一緒に行動するわよ?」

「はい」

「プルさんが居てくれ本当に心強いですー」


 オカとカリンはプルの言葉に相当助けられている。

 しかし、強く振舞ってはいるがプルもまた不安や恐怖感を感じ、どうすれば良いのかが分からない様だ。


 暫くすると正男とヒューズに呼ばれ一同が集まる。


「皆さん、この状況がおかしい事に気付いていると思います」


 一言も話さず、次の言葉を皆んなが待っている。


「私とヒューズさんで話し合った結果ある事にたどり着きました」

「あ、ある事?」


 ダルマが吃りながら聞き返す。


「えぇ。信じられない事だとは思いますが、私達のこの状況は都市伝説マサオさんに巻き込まれたと考えております」


 正男の言葉を聞き一同は声を上げられずに居た。そして周囲の静けさに草木が風で揺られる音だけが鳴り響く……。


「なんで、その様な結論に?」


 プルが質問する。


「プルさんも知っている通り、ここは都市伝説の舞台となった場所であり、更には殺され方も一緒です」

「まずは、人間が犯人な事を疑うべきなのでは?」


(全くもってその通りだ)


「では、プルさんは我々の中に犯人がいると?」

「いえ、頭のおかしい人がどこかに隠れていると思っています」

「こんな、山奥でですか?」

「考えられない訳では無いと思いますよ?」


(プルさん自身もこの中に犯人が居ると思っているけど、刺激しないように敢えて、そう言っているだけだな)


「分かりました。それでは両方の可能性があると見て、今後は行動をしましょう」

「それが良いかと」


 それからの方針としては、行動時は常に複数で動く事になり、班分けがおこなわれた。


 一班に正男、ヒューズ、姫、ダルマ、キング

 二班にオカ、カリン、プル、フィブ


 行動時は常に四人で動く事にしたらしい。


「フィブさん、これからよろしくね」


 オカ達はフィブに挨拶をした。


「よろしく……」


 素っ気なくはあるが、フィブもそれに応答する様に挨拶を返してくれた。


 それからは、長期的に滞在する可能性がある為、食べられる物や何か役に立つ物が無いか各班分かれて探す事になった。


「フィブさんは学生?」

「そう……」

「大学何年?」

「4年……」

「なら俺やカリンと同じだね!」


 フィブに話し掛けているオカを見てカリンはどうやら気が気では無い様だ。

 そしてそれを更に後方で見ていたプルはおかしそうに笑っている。


「フィブさんは、なんでこの会に参加したの?」

「そういうのが好きだから……」

「おー。俺は最近になってマサオさんの都市伝説知ってハマったんだよ」

「そう……」

「今度、面白い話とかあったら教えてよ」

「いいよ……」


 フィブはコクリと頷く。


「わ、私も私も!」

「ふふ。なら仕事のネタになるかもしれないから私も是非お願いするわ」


 カリンとプルも会話に混じり楽しいひと時を過ごした四人であったが、食べ物や何か役に経つ物などは見つける事が出来なかった……。

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