第16話
三日目の早朝。
まだ日が昇り切っていないので辺りは真っ暗であるが、9人の男女がテントから起きが上がり下山の準備をしている。
「テントを畳みましたら一度集まって下さい」
正男の掛け声に返事をしつつオカ達は手を動かし続ける。
(やっとこれで帰れる……)
表情には出していなが、やはりオカも精神的に疲弊していたのだろう。
それはオカだけでは無くテントを畳んでいる者全員が疲れ切った顔で黙々と作業をこなしている。
(結局パークさん達は見つからなかったな)
1日目にクイーン、ジャックが消え、2日目にパークが消えた事により初日に比べると皆が口数が減っている様だ。
(姫は知り合いが消えて落ち込んでるだろうな……)
オカの考えとは裏腹に姫自身はクイーンとジャックが二人で先に帰っていると思っている。
そして、姫はヒューズに振り向いてもらう為に必死にアピールしているらしいが、どうやら上手くいってないようである。
同じく、オカやダルマも姫とお近づきになりたいのか、機会を伺うようにチラチラと姫に話し掛ける機会が無いか気を配っていたが、この二日間話す機会は無かったようだ。
(このテントを片付けたら姫ともう会わないだろうな……)
そして三十分もしないでテントを片付け終わり皆んなは正男の前に集合した。
「それでは、皆さんこれから下山しますので、遅れずに付いて来て下さい」
「正男さん、警察や捜索隊が来なかったですが、どうしたんでしょ?」
ヒューズは皆んなが気になっている事を正男に質問した。
(最初はただのイケメンで女好きだと思ってたけどヒューズさん頼りになるな……)
どうやらここに来てオカのヒューズに対する見方が変わったらしい。
「そうですね……。私も昨日の内に来ない事が不思議に思ってたんですよ……」
すると、正男の表情が暗くなり、何やら言い辛そうに一度全員の顔を見渡した。
「実は、昨日警察に一度無線機で連絡した後の事なんですけどね……?」
この辺りは山の中の為スマホの電波が届かないので、正男は自前で用意した無線機で警察に連絡を取ったらしい。
「あまりにも、警察が来ないので夜にもう一度無線機で連絡しようと思ったのですが、壊されていたんですよ……」
正男の言葉を聞き全員が息を飲む……。
何故ならこの状況で無線機を壊す意味が分からないのだ。パーク達が遭難した可能性があると言うのにわざわざ、無線機を壊すなんて普通はしない。
「こ、壊されたってどう言う事ですか?」
ヒューズも、この異常な事態をいち早く察知したのか、正男に問いかける。
「そのままの意味です……。ここに居る誰かが壊したとしか……」
「で、でも元々壊れてたのでは?」
「いえ、あれは人員的に壊されてとしか思えません」
二人の会話を聞いていた者達は、言いようの無い恐怖から無意識に身を守る為なのか周りの人間から少しずつ距離を取っている。
(無線機が壊された!? この状況で何故……)
そしてオカも皆と同様に少しずつ周りと距離を取るように後ろに下がり続ける。
「で、ですので皆さんを不安にしない為に敢えて言いませんでしたし、全員に目が行くように一つのテントで夜を過ごしたんだですよ」
「で、でもそれってここに居る誰かがなんの目的か分からないけど無線機を壊したのよね!?」
姫がヒステリック気味に叫びだす。
「な、なんのよ! クイーンもジャックも、あの筋肉も先に帰っただけよね?!」
「ひ、姫様落ち着いて下さい」
急に取り乱した姫をキングが落ち着かせる様に優しく言葉をかける。
だが、そのヒステリックは他の者達にも確実に伝染しただろう。
「と、とにかく皆さんも早くこの場から離れたいと思いますので十分後に出発します!」
正男の判断により出発を10分後にして、各自お手洗いなどを済ます事になった。
「大変な事になったね……」
「えぇ。無線機が壊されるなんて」
「だ、誰か話からねぇーけど、死ね!」
ダルマは指の爪を噛みながら、キョロキョロと危険が迫って無いか確認している。
「本当に俺達の誰かが壊したのでしょうか?」
「うーん、知らない人が何処かに潜んでいて壊した可能性もあるかもね……」
そんな可能性は無いと分かっている筈なのに、ヒューズは皆んなの中に犯人が居ないことを願っているのか、そんな事を呟いた。
そしてヒューズやダルマとトイレに向かったオカも最後の最後まで何か無いかあちこちに目を動かし周囲に気を配っていたが特に何かを見つける事は無かった。
たが、それはオカの見ている範囲の話であった……。
周りに気をつけながらトイレを済ました三人は戻る際に女性の悲鳴が聞こえた。
「「「!?」」」
悲鳴に反応する三人。
「ひ、姫!?」
ダルマが転がる様に悲鳴の元に走っていく。
「オカ君、俺達もいこう」
「は、はい」
二人はダルマを追いかける様に後を追う。
(一体何が起きたんだ?!)
今、この辺りで何かが起きている。いや、今では無く恐らくここに来た時から、その何かは始まっていたのかも知れない……。
悲鳴が上がった場所に辿り着くと姫とキングが座り込んでいるのが見えた。
そして、少し先を走っていたダルマも動揺しているのか、悲鳴を上げた。
それはこの三日間で一番大きい声であった……。
「どうしたんだい!?」
オカとヒューズが到着し、三人が見ている方を向くと驚愕した表情で固まる。
そこには一人の死体が転がっていた……。
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