いじめられた話

過去の私に

 もし、タイムマシンというものができて過去に行けるものなら、私は小学生の自分に会いにいく。 

(この際SF小説や映画できくタイムパラドックス云々という話は忘れてもらいたい)


 小学校5年生のある日、掃除の時間が終わった広い体育館の中、ひとり壁に背をつけてうずくまり必死で涙を止めようとしている私がいた。たまたま体育で使用するクラスがなかったのか、もう5時間目の授業時間が始まっているのに、誰ひとりその空間に入ってくる者はいなかった。ただ少し前まで男児より執拗になげつけられていたボールがいくつか転がっているだけだった。

 

 体育の授業があって始業の前に誰かしら入ってきたなら、私は涙をとめる事ができただろうに。

 私はクラスでは大人しい方の存在でありながら、実は負けず嫌いで、その場に誰かの気配を感じたなら、即座に立ち上がり涙の跡が見られないように俯いたまま、その場を走り去っただろう。そして、授業時間にフラフラしていて注意される事など、絶対にあってはならない事で、渡り廊下の手洗い場の冷たい水道水でバシャバシャと顔を洗い、始業時間には何事もなかったように教室の自分の席に着いていただろう。


 でも、その時は誰ひとり体育館に入って来る事はなく、また掃除の時間まではクラスのひとりとして存在していた私を探しに来る先生もいなかった。

 体育館に1人になって15分ほどは裕にかかり、何とか自力で涙を止めた私は、やはり渡り廊下の水道水で顔を洗うと教室に戻った。

 既に授業の始まっていた教室の引き戸を開ける「お腹が痛くてトイレにいってました」

私のいない事に初めて気がついたのか、チョークを持ったままの担任の女教師は、少し驚いたようだったが、黙って頷いて授業を続けた。


 もし、タイムマシンというものができて過去に行けるものなら、私は小学生の自分に会いにいく。

 そして涙を止めようと必死になっている私を抱きしめて大丈夫だと優しく言ってやりたい。あなたは幸せに、クラスの誰よりも幸せになれると教えてあげる。


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る