幕間

魔法理論I

***


第一章 魔法と属性


1.根源領域


 広義の魔法とは、根源領域ジェニトリア・リゾーマタから根源要素リゾーマタを呼び出す技術や方法の総称である。狭義の魔法とは、人間が意図的に詠唱、及びその図画化である魔法陣によって、根源領域から物質や現象を呼び起こす技術を示す。

 それらは物質界より高次の五次元上に存在すると仮定されており、狭義の魔法、ないし自然現象によって偶然形成された魔法陣によってのみ、干渉することが可能である。



2.詠唱


 詠唱魔法は特定の命令語のみを用いた詠唱によって行使されるが、この原理は未だ解明されていない。現状最も有力な仮説としては、古代に根源領域への直接干渉を成功させた研究者が、ユーザを限らず、より簡易な方法で干渉を行えるように高次元領域上へ組み込んだシステムが詠唱魔法であるともされ、これを神話に因んで精霊演算処理装置(SPU)と呼ぶ。



3.精霊演算処理装置(SPU)


 SPUは根源要素毎に、地、水、火、風、光、蕎麦の六種があり、魔法の行使者が適性を持つSPUに自動的に接続される。詠唱言語の命令語はSPU別に設定されており、属性間で共通の命令語のみを使用すれば全く同じ詠唱呪文ソースコードで、属性に対応した魔法が実行される。また、各SPUが認識しない命令語、及び命令語以外の単語が含まれる魔法は、認識エラーとしてキャンセルされる。

 なお、複数のSPUが同時起動された場合、一つでも認識エラーが出た場合は認識エラーとなるため、複合属性所持者は使用可能な魔法が限られる。



4.四属性


 特に属性所持者が多い、地、水、火、風をまとめて四属性と呼ぶ。

 地水火風はかつて、それぞれその名の通りの物質や現象を呼び出す属性だと思われていたが、バセスカ=ダルタスをはじめとした近代の魔法学者らの研究により、以下のことが解明された。


・地属性は金属元素(※1)を生成する

・水属性は非金属元素を生成する

・火属性は熱エネルギーを操作する

・風属性は運動エネルギーを操作する


 近代以前に信じられていた「地属性は大地を」「風属性は大気を」といった分類とは大きく異なり、これにより、ダルタス以前は複数属性所持者だと思われていた者が単属性所持者だとわかったり、単属性だと思われていた雷属性や毒属性等の聖典外属性(※2)が複合属性によるものだと解るなど、魔法分類学や、魔道具工学の発展にも大きな影響を与えた。

 地属性、水属性による物質生成は、人間の魔力を一時的に元素化固定した擬似的な物質であり、これを「仮定物質」と呼ぶ。仮定物質は時間経過等による魔力の流出により消滅する。この現象を「霧消」と呼ぶ。

 地属性所持者は、衝撃、鉱物毒への耐性を持つ。

 水属性所持者は、湿気や酸、生物毒への耐性を持つ。

 火属性所持者は、高温、低温、又はその双方への耐性を持つ。

 風属性所持者は、高圧、低圧、又はその双方への耐性を持つ。



5.二属性


 地水火風に比べて発現者の少ない光属性、及び更に極端に少ない蕎麦属性を、合わせて二属性と呼ぶ。

 各属性の特徴は以下である。


・光属性は光を生成、及び操作する

・蕎麦属性は蕎麦を生成する


 光魔法は光を生み出すことと、周囲の光に対し反射・屈折等の操作を行うことの両方が可能である。

 蕎麦魔法は他の属性魔法と異なり、蕎麦を完全な物質として生成する。魔法使用者の体内に存在する物質やエネルギーを分解再構築して、蕎麦を現出させるため、生成した蕎麦が魔力流出により霧消することはない。

 光属性所持者は、強い光、紫外線、放射線への耐性を持つ。

 蕎麦属性所持者は、蕎麦アレルギーへの耐性を持つ。



6.複合属性


 雷、毒、氷等の属性を複合属性と呼ぶ。

 これらは、一人の人間が四属性の内の二つを同時に所持することにより、特殊な魔法を扱うことが可能になった属性である。複合属性所持者は、SPU毎の使用命令語制限の差により、使用可能な命令語が極端に少なくなり、結果として扱える魔法が大きく限られる。また、単属性の魔法も使用できない。

 複合属性は、必ず四属性の内の二つの属性によってのみ構成される。これらの元となる属性を「構成属性」と呼ぶ。雷属性は地水または水風、毒属性は地火、氷属性は水火によって構成される。

 三つ以上の属性や、二属性を構成属性とする複合属性は存在しない。

 雷属性所持者は、電流、及び構成属性と同じ耐性を持つ。

 毒属性所持者、氷属性所持者は、構成属性と同じ耐性を持つ。



【参考】

(※1・金属元素)

 半金属元素を含む。ただし、常温常圧下で非金属となる物は非金属して生成される。

(※2・聖典外属性)

 近代以前、複合属性は独立した単属性だと考えられていたが、天与聖典バイブル上の記述にある六精霊のいずれにも当てはまらないため、「聖典外属性」または「悪魔の属性」と呼ばれ、地域や時代によっては差別や迫害を受けていた。

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