第三章 対決編

13.テレビに出ることになった話

 僕、イーサン=アンセットは神の化身だ。


 神の化身としての記憶と、奇跡の力に目覚めてから、早一年。僕は奇跡の力を得たこととは、あくまでまったく何の関係もなく、偶然たまたま、世の巡り合わせによって、それなりに裕福な生活を送ることが出来るようになっていた。


 神の化身は、その奇跡の力を、人間としての名を売ることに使ったり、私利私欲の為に、金銭等を儲ける目的で行使することはできない。

 僕はただ、神の化身としての力を振るい、信仰を稼ぐべく、大衆を導いているだけだ。


 僕の持つ奇跡の力は、現状、大きく分けて三種類。

 物質化マテリアライズ透視スキャン体質変化アルタレイトだ。


「な、何もない所から、あんなに大きなルビーが!」

「ありがたや、ありがたや……!」


 物質化は、力に目覚めた当初は聖灰を産み出す程度のものだったんだけど、信者が増えた今では能力も高まり、宝石や、掌サイズの石像を創り出すことさえ出来る。

 この宝石や像は、たまたま近くにいる父や姉に処分を頼むことが多い。


「はい、父さん。これまたお願いね」

「ああ。これは責任をもって、然るべき処分をしておく」


 宝石と言えば、それとは全然まったく関係ないんだけれど、最近父が「アンセット宝石貴金属販売株式会社」なる宝飾店を起業した。経営も順調とのことだ。



「貴方は今、人生の岐路となる選択を迫られています。何か大きな獣……馬、いえ、これはアルパカでしょうか。それを選ぶことで、貴方には更なる発展がもたらされるでしょう」

「アルパカ……やはり、ダチョウ牧場はやめて、アルパカ牧場にするのが正解か。ありがとうございます、先生」


 透視は、人間の体内のオーラやアカシャを読み取り、その未来や過去を読み取る奇跡だ。占いみたいな力なんだけど、慣れもあってか、最近は時間や出来事について、比較的詳細な内容を読み取ることが可能になった。

 この奇跡を求めて、時には経営者や芸能人、政治家なんかが訪ねてくることもある。

 神の化身が奇跡の対価を人に求めるなんて有り得ないから、僕はもちろん、無償で透視の奇跡を披露している。


「Sサイズで一枚五万か。現金……足りないな。一括払いで」

「はぁい、こちら一枚お買い上げ、ありがとうございまぁす」


 それとは全然関係ないんだけど、最近、僕の母が「株式会社カミへの導き」なる企業を設立したらしい。物品販売が主な業務らしいんだけど、偶然たまたま僕が透視リーディングを行っている部屋の目の前に事務所を置き、何処かの貴金属取り扱い業者から卸した、金地金のチップを売っているそうだ。


「えぇと、このチップってここで良いんですか?」

「あ、初めての方ですかー。こちらお引き取りですね」

「は、はい、お願いします」

「確かにお引き取り致しますー、では奥へどうぞー」


 あ、あと、全然関係ないんだけど、うちの姉も最近、「株式会社ロード・トゥー・ゴッド」なる、廃品回収と施設レンタルの会社を作ったって話を聞いたなぁ。不要になった金地金チップなんかを無料回収して、何処かの貴金属を取扱う会社なんかに売るのが、メインの仕事なんだそうだ。

 金地金を持ってきてくれた親切なお客さんには、お礼のサービスとして、豪華な宝石に飾られた廊下の通行権をプレゼントするんだってさ。

 その廊下が奇遇なことに、僕が透視リーディングを行う部屋に通じている唯一の道なんだけど、偶然って面白いよね。


 たまたま身内が同時期に作った会社が、たまたま随分儲かっているらしくて、全然まったく関係ない僕としても嬉しい限りだ。


 あ、で、体質変化については、何か、僕の体の臭いが、ジャスミンの香りになるってだけだよ。

 信者の増加で奇跡が成長して、靴とか身の回り品からも延々香り続けるようになったみたい。

 ふーん、って感じ。



「テレビ出演?」


 昼休み、食堂にて。

 僕は、クラスメイトにして自分の信者である友人、リックと並んで座り、各々の昼食をつついていた。


「うん。自称・神の化身の正体を暴く! って奴」


 神の化身としての布教活動が実を結んだというか何というか、そんな番組の出演依頼が、昨日来た。


「暴くも何も、化身の正体は神だよな?」


 一片の疑いもなく僕を信じる友人は、首を傾げながら妙にシャバシャバした学食のカレーライスを口に運ぶ。なお、この妙にシャバシャバしたカレーは、カレーうどんに使われているのと同じ物である。


「そうだね」


 僕は内心とは裏腹に歯切れ良く答えつつ、自分の重箱の三段目から伊勢海老をつまんだ。

 神の化身の正体は、実のところ、神の代行を神自身に命じられた、人間なのだ。


「出んのか? そのテレビ」

「出るよ。マネージャーが受けちゃったし」


 そう。受け、ちゃった、んだよな。僕には事後承諾で。

 テレビに出ること自体は布教のためにも歓迎すべきことなんだけど、最初の出演番組は、もっと好意的な奴が良かったんだよなぁ。何か明らかにこれ、僕を稀代の詐欺師みたいな扱いにしてるんだもん。


「だって番組のサブタイトルがあれだよ? 『年商X億!?自称・神の化身、疑惑の占い師の正体が今宵明らかに!!』だよ?」

「いや、よくそれで出演依頼持ってこれたな」

「僕怖くて無理だよ。テレビマンすごいわ」


 金箔を散らしたキャビアを飲み下し、溜め息をついた。


「まあでも、テレビよテレビ。昔に比べて地位も宣伝効果も落ちたりとは言え、箔付けにはまだまだ使えるわ」


 と、そこに後ろから、口を挟む声がかけられる。


「噂をすれば、マネージャーさんじゃんか」


 リックの言葉に振り替えると、そこには予想通りの顔があった。

 隣人にして幼馴染み、それに加えて、僕の神の化身活動のマネージャー。何だよ、神の化身活動って。いやマジで。

 まぁいいや、そのマネージャー。


「レイン」


 レイン=ミューリに、呼び掛ける。


「打ち合わせ日程が決まったから、お知らせに来たわよー」


 レインは革張りのスケジュール帳を振って見せながら、僕の向かいの席に腰掛けた。

 僕は軽く姿勢を正して、生ハムとメロンを同時に噛み締めた。

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