12.人の未来を視た話
「じゃあ、とりあえず恋愛運とかで」
「オーケー、任せて」
「レインは、これから四年以内に、恋人か、仲の良い異性ができます」
そんな感じの奇跡だから、当たるのはまぁ当たるはずなんだけど、時間の指定はわりと曖昧だし、出来事の内容もぼんやりしている。
「おおー、結構近いじゃん!」
あ、これでも思ったより好評なんだ。
「ね、それじゃ金運とか仕事運は?」
「仕事運は……大勢の人を管理したり、指示を出したりするような職業につくみたいだね。お金には不自由なく暮らせるらしいよ」
「へー! 何だろう、社長とかかな!」
社長は職業じゃなくて役職だけどね。
聖灰の時は粉末ソース扱い、ジャスミンの香りの話をした時は若干引いていたレインだけど、この透視のことは気に入ってくれたみたいだな。
テンション高くきゃーきゃー騒いでいるレイン、ひいては僕らの周りに、彼女の親しい友人諸氏が集まってきた。
「レインー、何やってるの?」
「その両手は何? 何で机に乗せてるの?」
手相占いだと思ってたからだよ。
「サニーの占いよ! 当たるかどうかはわかんないけど!」
「アンセットくん、占いできるの?」
「あたしもやってー!」
占いと聞いて、クラスの女子の面々が集まってくる。
何だ、君達にはそんなに娯楽がないのか。全然話したことない子もいるんだけど。
「おっ、占いやんの? 手相?」
「俺も後で見てよ」
女子が集まると男子も集まってくる。
「はいはい、順番よ順番! 整理券配るわよー!」
何かレインが仕切り始めた。
「先に並んだ奴から、一枚ずつ取ってけよ」
リックも手伝い始めた。何なんだこいつら。
そうして、何だかんだで僕は昼休み一杯をクラスメイトの占いに費やすことになったのだった。
その、翌日だ。
「アンセット、ちょっと来てくれ」
僕は脈絡なくクラスメイトのブーンに呼び出され、校舎裏に呼び出されていた。
正直僕は、ブーンとはそんなに仲が良いわけでもない。
この半月で彼と会話をしたのは、昨日の占いの時くらいではないかと思う。あ、もう自分でも占いって言っちゃったわ。まぁいいか。
いや、それは本当に、まぁいいのだ。
そんなことを言っている場合ではないんだから。
校舎裏への呼び出しと言えば、前世でも現世でも、果たし合いか、イジメか、愛の告白と相場が決まっている。
あれかな、占いの結果で何か気に食わないことでもあったのかな。そりゃあるよな。
でも、そんなの昨日言えよ……時間差とかやめようよ……。嫌なんだよ、そういう、自分が完全に油断してる時に、日常の些細なことに幸福を覚えている時に、水を差すっていうか、そんな平穏や幸福が、ちょっとしたことで瓦解してしまうような、無価値な喜び、人が人として生きるための欺瞞であることを思い知らされるようなのって。
何やらかしたのかな、僕は。
不安に思った僕は、懸命に占いの内容を思い出そうとする。
ブーンは、えぇと、あれだ。恋愛運だ。顔に似合わず、って思ったのは覚えてる。ごめんね。昨日の僕は調子に乗ってたんだね。珍しくクラス内でちやほやされて、浮かれてたんだね。ごめんね。
内容は、何だっけな、あれだ、「ごく近い内に恋人ができる」だ。
……ん、あれ。
これはあれか。
果たし合いルートでも、イジメルートでもなく。
愛の告白ルートか。
何それ、それは滅びへ続く道だと思うんだけど。
うちの教義的には同性愛は「どうでもいい」とのことなんだけど、僕個人がブーンと全然仲良くないし、そもそも女の子の方が好きだしな。
さてどう断ったものか、と考えながら校舎裏に辿り着く。と、そこには同じクラスの女の子、名前は何だっけ、ヴァーなんとかさんが待ち構えていた。
ああ良かった、二対一ならイジメルートだね。
良くはないけど。
「待たせたな、リッキィ」
「うん。アンセットくんも、わざわざごめんね」
ブーンと、リッキィと呼ばれたヴァーなんとかさん――何と言うことだ、ヴァーの時点で既に誤りだったのだろうか――は、並んで僕を出迎える。
僕はひとまず、テロリストへの態度として求められる三原則を思い出そうとして、一つも思い浮かばず、そもそもそんな三原則が存在したのかどうかを疑い、悩み始めた。
「お前の占いな」
半身に引いて、拳を握る。
聖灰で目潰しを仕掛けて、光魔法で目眩まし、そのまま遁走か。光魔法は戦闘向きじゃないしね。火属性と違って熱耐性がないから、ビームとか出したら自分の手が融けるらしいし。
僕は薄い笑顔を取り繕いつつ、相手の出方を窺う。
ブーンが、口を開く。
「当たったぜ」
ん。何がかな。あ、占いか。
占いが、当たったというと。
「え、あ、そういう」
僕は目の前のテロリスト容疑者二人を見比べ……安堵の息を吐いた。
はいはい。そういうね。
リア充自慢ね。
「お前さ、俺に、すぐに彼女ができるって言ってくれたじゃん」
言ったね。
「私にも、すぐ彼氏ができるって言ったでしょ」
言ったんだっけ。あんま覚えてないけど。
「それをお互い聞いててさ、これはもしかして、って告ったら」
「思った通りだったの」
なるほど、それは確かに、客観的に見ても僕のお陰だなぁ。
前世の時も何件か見掛けたんだけど、中高生くらいの年頃の子って、端から見てて明らかに両想いの相手にでも、告白しないまま自然消滅とかよくあったもんね。踏み切る切っ掛けって大事だよね。
最近は小学生でもお試し交際とかよくあるらしいけどさ。
「そう、それはおめでとう。お役に立てて良かった」
僕はそっと、後ろ手に握り混んでいた聖灰を風に散らした。
別に僕は幸せな人間は嫌いでもないし、不幸面の人間よりは余程好きだ。
自分が人の幸せを取り持つことが出来たのならば、それはとても素敵なことだって思うな。
ヴァーなんとかさんことリッキィさんは、ブーンの隣で心より幸福そうな微笑みを湛え、僕にこう問うた。
「アンセットくん、その占いって何処で習ったの?」
あ、この質問はまずいな。
そう、心の中で冷や汗を掻きながらも。
僕は答える。
「これは占いじゃなくて、」
ほら、口が勝手に動き出す。
「神 の 奇 跡 で あ り 、」
ここまで来たら、もう止まらない。
「僕 は 神 の 化 身 な ん だ」
満面の笑みで言い切り、残心した。
目の前のクラスメイトが硬直するのが見えた。
おーし、ここからイジメルートフラグかな。
登校する度に「チィーッス神様、今日も後光ヤバイっスね!!」「おら、神様なら便所の水くらい奇跡で浄化しろよなー」とか言われる奴だ。
なんて、僕が不登校になった後の人生設計を組んでいた時だ。
「あはは、アンセットくんらしいね」
リッキィさんに、らしいねとか言われた。全然喋ったことないのに。
「レインちゃんが言ってた通り」
そこ経由か。あの幼馴染みは、一体何を言ったんだよ。
あれ、でもこれはあれかな、何か良い意味の「らしいね」だな。
これセーフなのかな。セーフなの?
「確かに、アンセットは俺達の恋を叶えてくれた、神様みたいなもんかも知れないな」
あ、ほら、彼女のリアクションに話し合わせて、彼氏の方もプラス評価入れ始めたぞ!
セーフだ、セーフだわこれ。
レインに感謝だね。何言ったんだか知らないけど。
その後も終始和やかに会話は進み、その場は愛想笑いでごまかすことに成功した。
その後、イーサン=アンセットの名は、「恋占いの神」として学校中に広まることとなる。
僕の下にはたびたび恋愛相談に訪れる、恋する男女が集うようになり。
いつしか、神の信徒となる者が、現れ始めた。
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