この飛行機は墜落する
結城彼方
不幸な運命
この飛行機は墜落する。なぜなら俺が乗っているからだ。
なぜ俺が乗ると墜落するのかって?俺が生まれながらの不幸な男だからだ。
生まれて直ぐにトイレに捨てられ、両親が誰かも知らない。養護施設ではイジメられ、小学校1年では女子の水着を盗んだ犯人、2年ではガラスを割った犯人にされた、3~4年生からは万引きを強要された。
養父もろくなもんじゃない。俺を養子にした初めの頃は良かったが、会社をクビにされ、妻にも出ていかれ、以来、家事炊事を全て俺にやらせ、召使い扱いだった。当然、勉強する暇も無く成績は悪かった。
だが、小学校5年生の時、事件は起きた。俺達を乗せたバスが目的地へ向かう途中に崖から落ちたのだ。クラスの半数が死に絶えた。その中には俺が好きだった女の子もいた。そして気づいた。俺には自分だけじゃなく、自分の周りの人間も不幸にする力があると。
家に帰るとさっそく養父に言われた。
「死ねば良かったのに」
全くその通りだ。こんな不幸な人生さっさと終わらせたかった。だが、死ぬ勇気が出なかった。
中学を卒業すると、直ぐに家を出た。複数のアルバイトを掛け持ちし、何とか生活を維持した。相変わらず周りを不幸にしながら。そんな生活をしていたら、次第に死ぬ意志が固まってきた。そして18歳の誕生日、自分へのプレゼントを買った。片道航空券だ。
次の日、俺は空港に行った。今日で全てが終わると考えると清々しい気分だった。大勢の無関係な人間を巻き込む事になるだろうが、それでも気持ちは変わらない。何故、大勢の人を巻き込む死に方を選んだのか。それはこの不幸な運命を寄越した神様へのささやかな復讐のつもりだった。
手荷物検査を終え、飛行機に乗る。周りの乗客は優秀そうなサラリーマン、妊娠してる妻をもつ夫、外国人観光客、仲良さげなカップル。不幸とは無縁の人生を送ってきたような人たちだらけだ。今日まではな。
キャビンアテンダントの非常時の説明が終わり、いよいよフライトが始まる。
(今日で人生が終わるんだ!この不幸な人生とお別れだ!)
そう思うと感動で涙が出た。
飛行機が離陸して30分後、飛行機が揺れ始めた。離陸前のキャビンアテンダントの非常時の説明が思い出されるが、誰も聴いていなかったようで、皆、あたふたしている。落ちついているのは俺だけだ。そして案の定、飛行機は墜落した。だが、奇跡的に1人だけ生き残った。俺だ。
マスコミに取り上げられ、しばらく騒ぎになった。事故の様子や周りの乗客の事などを事細かに聞かれた。亡くなった乗客の遺族からは(なんでお前だけ、、、)という心の声が聴こえてくるような目で睨まれた。
あぁ、どうやらまだ、この不幸な人生を生き続けなければならないらしい。
やはり俺は不幸な男だ。
この飛行機は墜落する 結城彼方 @yukikanata001
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます