眠れる森の不美女

乱輪転凛凛

第1話

眠れる森の美女に憧れていた。


ただ、私が思い描く物語は少し違っていた。


王子はキスをするも全てが手遅れで姫は永遠に目覚めることは無い。

そんな物語だった。


そして王子は自分自身に絶望し残りの人生を生きていく。


姫は森の中で永遠に眠りにつく。若さと美貌を永遠に保ったままで。


そんな物語を心に抱いていた。



彼女が亡くなってから一周忌が経った。


「早いな、もう一年か」


彼女はモデルをしていた。スタイルも良く一緒に歩いていてよく羨ましがられた。


彼女と一緒に撮った写真を見た。僕には不釣り合いすぎるくらいの美しい笑顔だった。右手に金のブレスレットが光っていた。


自殺だった


飛び降り自殺


原因や動機は未だに分かっていない。


「一緒に撮った写真を写真立てに飾っておいて欲しい」


彼女は生前そう言っていた。


「スマホ時代に普通の写真立てとか……彼女らしいというか……」


スマホから着信音が鳴った。

友人の真也からメッセージが届いていた。

合コンのお誘いだった。


先輩が合コンの人数集めをしているんだけど。お前もこないか?


僕は


乗り気じゃない。行かないかも


と返した

すると


なんでだよ。絶対楽しいって


と返ってきた。


こいつなりに心配してくれるのは分かる

ただ


「変に気を使われると逆にこっちがしんどい」

僕はつぶやいた


メッセージには


考えておくよ。ありがと


と返して僕はスマホをベッドの上に置いた。


次の日


真也とバッタリ街中で出会った。


「よう久しぶり!」


「昨日メッセージのやりとりしただろ。一週間前に会ったばかりだし」


「そうか、じゃあちょっと飲むか!」


真也は言った。強引だ。


「絶対合コン行った方が良いって!」


真也は繰り返し言った。


「行くだけ行ってみ?行かないと絶対後悔するって!」


本気でしつこい。


「俺も一緒に行くからさ!行こうぜ!」


「あんまり気分じゃない」


「行くと絶対楽しい気分になれるって。気分転換だと思えよ。気分転換」


「あーもう……」

「分かった。分かった。行くよ」


僕は言った。無下に断れなかった。こいつの言うとおりなにかのきっかけになるかもと思った。


「それじゃ、カンパーイ!」


夜はふけていった。


合コンの日、真也は来なかった。代わりに別の男性が来ていた。


合コンは5対5でスタートした。


お互いの自己紹介、ゲームなどしたりして盛り上がっていた。


僕には一人だけ気になる人がいた。その場に。

なんだろう……


似ている。一年前に亡くなった元彼女の智美に。

顔立ちはそんなに似ていないが、喋り方のクセ、ファッションのセンスや、メイクなど


全体的な……なんだろう雰囲気みたいなものが似ている。


彼女は席を移動してきて自ら僕の隣に座ってきた。


「飲んでますか?」


「飲んでるよ。いつもより少しだけどね、飲んでる?」


「私もう酔っ払っちゃって……こういう場所よく来るんですか?」


「合コン?そんなにしたことないよ。本当久しぶり」


合コンなど数えるくらいしかしていない。元彼女の智美とは高校のクラスメートだった。合コンで知り合った訳ではない。ちなみに友人の真也も同級生だった。


「私こういう場所実は苦手で……独特のノリというか、みんなテンション高すぎて……」


「それ分かるかも」


二人して笑った。

実は僕もこの独特のノリは好きじゃなかった。


僕はしばらく彼女と話した。話が合う気がした。僕たちは連絡先を交換した。


合コンは終わり彼女たちはタクシーで帰っていった。


「連絡してください!」彼女は別れ際にそう言った。


僕は「うん」とうなずいて笑った。


後日


「この前の合コンどうだった?」

真也は言った。


「てかな、お前来てなかっただろ」


「誰かゲットしたか?」


「人の話聞かない奴だよな……ゲットってなんだよ、してないよ」


「じゃあなんの収穫もなし?」

真也はガッカリそうな顔で言った。


「……連絡先交換した子がいる……」


「え?え?え?どんな子?どんな子?」


「榎本紗絵って子で結構キレイ目の……」


「榎本紗絵?どっかで聞いたことある気が……」


「てか、お前の知り合いじゃないのか?お前の紹介で来たと思ってた」


「いや違うよ知らない子、全然知らない子」


真也は続けて言った。


「で、連絡してんのか?」


連絡は……実はあまりしてなかった。合コンの次の日少しメッセージを送りあったがそれきりだった。


「いや、そんなにしてない」


「なにやってんだよ!遊びに誘えよ!」


「待てって、あせらすなよ」


僕には僕のペースがある……しかし押しの強さに負けて僕は連絡することにした。


今度ご飯にいかない?


僕はメッセージで軽めにジャブを打った。

軽めの、しかし精一杯の……


返信は……



「ありがとうございます。誘ってくれて」


レストランで僕たちは食事をしていた。


「仕事ですか?病院で働いています。看護師です。だから結構勤務が不規則で……肌が荒れちゃって」

彼女は笑った。


やはり似ている。照れるように笑うところなんかそっくりだ。


「どれくらい前から彼女いないんですか?」彼女は聞いてきた。


「一年前くらいに別れたんだ」


「どんな人だったんですか?」


なぜそんなことを聞くんだろう。僕は少し考えてから言った。


「忘れた」

笑って言った。


「え?男の人って忘れちゃう生き物なんですか?男の人って前の彼女のことずっと覚えてるって聞いたんですけど、名前をつけて別に保存だって」


「保存出来なかったんだよ。ファイルが壊れちゃったから」僕は笑った。


彼女は不思議そうな顔で考えている。

「どういう意味ですか?」


「結構酷い方法で別れを切り出されちゃって。あまり思い出したくないんだ。だから、もう勘弁してよ」僕は笑った。


僕たちは何度かデートした。


そして付き合うことになった。


「家に行ってもいいですか?」

彼女は言ってきた。


「え?うん。いいよ。来る?」

「どうぞ。結構散らかってるけど」


「わぁ、結構綺麗にしてるんだ。なんだか……あなたの香りがする……」彼女は笑って言った。


彼女は部屋のいろんなとこを見ていた。


僕は彼女に気づかれないように、元彼女との写真立てを倒した。


「適当なとこに座って、お腹すいたよね。なにか作るよ」


「私も手伝う」


僕と彼女は一緒に料理を作った。


料理を食べ終わり僕が洗い物をし、そして彼女がいたリビングに戻ると


彼女は僕が倒していたハズの写真立ての写真を見ていた。


「ごめんなさい」彼女は言った。


「え?うううん」僕は答えた。


見られて困ることではない。だけど気まずい空気が流れた。


「ねぇこの洋服なに?」気まずい沈黙を彼女が打ち破った。


「それは……」

女性ものの服だった。部屋に吊っていて、しまうのを忘れていた。


それは亡くなった元彼女と一緒に買いに行った服だった。彼女がどうしても欲しい服があって僕もそこに連れてこられんだった。


なぜか僕からプレゼントして欲しいみたいだった。

だが、僕がそのプレゼントを渡す前に彼女は亡くなった。


「ねぇ、これ誰の服?」


「ん……これは……」僕は答えられなかった。


服を広げながら彼女は姿見でその服を合わせていた。


「ねぇこれ着てみていい?私この服似合うと思う」


「ん……いいよ」


「じゃあ、着替えるとこ……」


「ああ……僕向こう行ってるよ……」


僕はリビングから離れた。


しばらくすると彼女から。


「どうぞ」と声がした。


僕は入った。


そこに彼女は服を着替えていた。


「どう……かな……サイズが少し小さいけどちょうどいいと思う」


ハッとした

まるで亡くなった智美の生き写しだった

美しかった


「似合ってる?」彼女は微笑んだ


「ああ……似合ってるよ……」


「ありがと」彼女は微笑んだ。


彼女は服を触りながら楽しそうにしていた。


そして姿見で自分の姿を見ていた。


僕は……



「家まで送るよ」


「えっ?」

彼女は目を丸くさせて驚いた。


「どうしたの?急に」


「いや」


「ひょっとして怒ってる?」


「いや、怒ってないよ」


「ごめんなさい」


「謝ることじゃない。その服は君にあげるよ」


「……」


彼女はうなだれていた。


僕は彼女を車で家まで送ることにした。二人とも終始無言だった。


「ありがと。送ってくれて」

彼女は車から降りると僕の方を見た。

彼女の目は涙で濡れてるように見えた。


「じゃ……」僕は車を出した。


次の日、彼女からメッセージが届いた


昨日は本当にごめんなさい。服はクリーニングに出して返します。


大丈夫。その服本当にいらないんだ。だからあげるよ。


でも……


いいんだ


また会ってくれますよね?


僕は返事をしなかった。




「いま付き合ってる彼女とはどうなったんだ?」

電話口で真也はいきなり聞いてきた。


「ん……」僕は答えられなかった。


「上手いこといってる?」


「微妙かも……」


「どうしたんだよ。何があった」


「この前、彼女が智美の服を着たいって言って……」


「うんうん」


「で、着たんだ」


「うん、それで?」


「それで……ダメだった」


「ダメってなんだよ。全然似合ってなかったのか?」


「似合ってた。綺麗だった」


「だったら良いじゃん」


「それが似合いすぎてた。彼女は智美に雰囲気が似ていて……智美が蘇ったみたいに見えた」


「んん……」直也はくちごもった。


「智美が生きてるみたいで……それが……それが……」


やっとの思いで言った。

「まるで彼女といると智美との思い出が塗り替えられてるみたいで……」



「うん……智美ちゃんはもう亡くなったんだ。その子は智美ちゃんじゃないんだぞ?」


「分かってる。でもあまりに似ていて」


「お前いつまで……ちゃんと連絡はしてんのか?」


「また会いたいってメッセージが来たけど、返してない」


「お前無視は良くないぞ。ダメでもオッケーでもちゃんと返してあげた方がいい」


「うん……」


僕は彼女からのメッセージを返すことにした。



「この前はホントごめん!」


彼女は両手を拝むように合わせて頭を下げた。


僕たちは喫茶店で話していた。


「この前の服ちゃんとクリーニングしたから!」


彼女は服を紙袋に入れて僕に渡してきた。


「あなたの部屋に入ったらなんだか舞い上がっちゃって!」彼女は笑った。


その笑みは……智美の笑みだった。

まるで彼女の背後に智美の姿が見えるみたいだった。


彼女は喋り続けた……僕はなにも耳に入って来なかった。


僕は……


「別れて欲しい」言った。


「え?」彼女の動きが止まった。


「ごめん」


「え?なんで?」


「ごめん」


彼女は茫然自失としていた。


「ごめんなさい。私がワガママだったから」


「いや、そうじゃないんだ」


「じゃあどうして?」彼女は聞いた。


「君が……」


言葉が出なかった。だけど切り出した。


「君が前の彼女に似ているから」


「あの写真立ての……」


僕はうなずいた。


「そんなに似ていた?」


再度、僕はうなずいた。


「君といると智美を思い出して……苦しくて……」

「だからゴメン」


しばらく沈黙が続いた。


「そっかぁ……良い人だったんだね……その前の人」


僕はなにも答えなかった。


「これ」


彼女は右手を見せてきた。


「ゴールドのブレスレット買ったんだ。あなたに似合ってるって言って欲しくて」


彼女の右手には細身のゴールドのブレスレットがあった。


僕はなにも答えなかった。


彼女は僕を見て悲しそうに笑った。


「それじゃ、バイバイ」


彼女は店から出ていった。


僕は喫茶店に一人残っていた


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