フルメタル・ジャケットな定食屋がある
CKレコード
フルメタル・ジャケットな定食屋がある
店主が厨房の奥でいつも怒ってる食堂がある。
同僚のタナカは、嫌がる僕をいつもそこに連れていく。
その店は、奥に調理人兼店主と思われる主人がいて、レジに主人の奥さんと思われるくたびれたオバさん、ホール係にさえないバイト君といったスリーピース構成で回している。
味はすこぶる美味い。量もかなりのボリュームだ。
で、料金は良心的な設定。
こんなにお客の立場に立った店づくりができる店主だってのに、厨房からはいつも怒声が響き渡る。その怒声は、全てさえないバイト君に向けられる。
「このボケ!カス野郎!」
「注文は?あ?声が小さいよ!」
「あ?聞こえねーよ!」
「キビキビ動け、キビキビ!」
まるで、食べてるこっちが怒られているような、そんないたたまれない気持ちになる。
美味しいご飯の筈なのに、もの凄くマズく感じる。もう耐えられない。
「なあ、タナカ、もうこの店やめようや」
「なんで?美味いし、コスパいいし、最高だろ」
「いや料理じゃなくてさ、あの怒声だよ。メシがマズく感じるよ」
「え?あれがいいんじゃん。他人が怒られてるのを聞きながらメシを食う。俺にとっては、最高のBGMよ」
タナカは職場では、色んな人から怒られているクズ社員だ。
会社の怒られ役を一手に引き受けている彼は、社内で他人が怒られている場面に遭遇することはほとんど無い。
「でもお前だって、レイジ・アゲインスト・ザ・マシーンとかパブリック・エネミー好きだよな。家でリラックスする時にそんなの流してるんだろ。そっちの方がよっぽど頭おかしいじゃないかよ」
まあ、タナカの言う事にも一理ある。そのときは、タナカのむちゃくちゃな理論に妙に納得させられてしまい、我慢した。
先日、仕事が昼過ぎまでかかってしまい、仕方なく会社から一番近いこの店に一人で入った。
店内、あまり人がいない。よし、これなら怒声も聞こえてこまいと胸をなでおろす。
と、空気を切り裂くようなあの怒声が響き渡る。
「とっとと皿さげろよ、ボケ!」
「ボーッとつっ立ってんじゃねえよ、えー?カス野郎!」
もう我慢できない。レジのオバさんに、
「すまないけど、店主を呼んでくれないか」
と伝える。今日こそは絶対に言ってやるからな。
出てきた店主を見て、思わず息を飲んだ。
店主、女性だった。
しかも、若くてべらぼうに美人な女性が凛と立っていた。
最近よくテレビで見るオッパイが大きいあの女優に似てる。
「お客様、何かございましたでしょうか?」
「・・・いえ、ゴメンなさい。私の勘違いでした」
店主はニッコリと微笑むと、また厨房の奥に入っていった。
僕は、このごく普通の日常の中で起こったフルメタル・ジャケットのラストシーン的な展開に、震えながら酢豚をかっこんだ。
フルメタル・ジャケットな定食屋がある CKレコード @ckrecord
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
時計/CKレコード
★0 エッセイ・ノンフィクション 完結済 1話
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます