第2章 ギルド抗争編

第49話 飛来する黄金

人々は寝静まり誰も外にはいない、そんな時刻に裏路地で男同士が何やら取引をしていた。


「......これが例の......」

「飲めば魔力、肉体を強化できるという、薬です」


両者は顔を隠し、誰にも分らないように小さな箱と金を交換するように渡す。


「......噂では聞いていた、イオブで過去に使われたという......そして最近ではオリンシア帝国でも使われたと......」

「えぇ、しかし、これは我らが独自に改良した物、少なくともオリンシア帝国のよりは安全であると保障しますよ」

「.......本当なんだろうな?」

「かつての薬は魔力の濃度が高すぎ、魔力の相性が悪く人間が適応できていないから起きたのです、それは濃度を抑えた薬ですから、魔力相性も問われません」


男は指を一本立てる。


「ただし、一つご注意を、その薬は濃度を抑えたといえど劇薬、使い過ぎには気を付けてください」

「......わかっている」

「ふふふ、では次に会えるのをお待ちしておりますよ」


男の内の一人はそのまま夜の路地裏を歩いていき消えていった。


「......仕方がない......仕方がないんだ......負けるわけにはいかない.....」


まるで言い聞かせるようにぶつぶつと呟きながら男は町の中に消えていくのだった。




◆◇◆◇




オリンシア帝国を出てキコス国に向かう為、クラトス=ドラレウスとナシアーデ=パナケ、ルアン号に乗りこむと、すぐに焦げ茶色のロングコートに両腕を突っ込ませながら、真っ赤な髪の男が笑いながらクラトスに話をかけてくる。


「ナシアーデ=パナケ......そしてクラトス=ドラレウスだな?」

「えっえぇ」「そうだが......」


クラトスはナシアーデに誰か聞こうとするが、ナシアーデの反応からして、何も知らないようだった、相手の男は手を出す。

「握手だ」

断る理由もなく、両者は自然に握手をする。


男はそのまま握手をすると

「大体今のでわかった、お前らは甘い」

「それはどういうことだ?」


クラトスは不思議に思い男に聞く。


「こんなよくわからん男に握手を求められても律儀に返すなってことだ、その隙に攻撃されたらどうする」

「いや、だがフルネームで問われたら返すだろ」

「名前なんていくらでも調べようがあるんだよっ」


男は軽く笑う。


「っだが、ネレイアイちゃんが好む理由も理解できた......か......」

「あっあの貴方はゲライトさんの言っていた、案内人ですか?」


ナシアーデは聞く。


「ゲライトの奴から頼まれたんだよ、アストリオン=ソロだ」

「あっアストリオン!?」


ナシアーデは思わず驚く。


アストリオン=ソロ、魔導協会A級魔導士の一人、その実力はS級にも匹敵すると言われている。


「......アストリオン......そんなに強いのか」

「そう、アストリオンはS級魔導士に一番近い魔導士の一人と言われているわ」


アストリオンは困った困ったと軽く笑いながら

「そんなに畏まらなくてもいい、とりあえずメシでも食おうか、色々と話しておきたい事もある」


アストリオンに連れられるように案内されて船内のレストランの個室にまで歩いて行く。

「ナシア、ここ絶対に高い場所だよな」

クラトスはコソコソのナシアーデに話をかける。

「そっそうよね......船の中なのに、内装とか見るからに豪華で......」

二人がコソコソ話し合っていると個室の中でアストリオンと対面する形で二人は座る。


「そうだな、コレと......お前らは何を頼む?」

「あはは、私同じので......」「俺も同じのを一つ頼む......」

普段いかないタイプのお店だったのか二人はアスオリオンと同じものを頼む。


アストリオンは座りながら水を飲むとクラトスに話をかける。


「まぁ、俺は船の中から依頼内容を教えるだけだ、船から降りたらまた別の案内役が来てくれるはずだ」

「随分と案内人が多いんだな......」

「仕方がねぇな、俺の目的地は別だ」


アストリオンはクラトスを見る。


「クラトス、お前は現地に着いたら、E級魔導士の新人という扱いになる」

「というと、俺はそこでは公認魔導士の扱いになってると?」

「細かく言うと......」


クラトス=ドラレウスはギルド【水霊会】で活動していた魔導士であり、その実力をギルドマスターであるネレイアイ=ナイナイアが認め魔導協会に推薦した、魔導協会は、ギルド【リザード・アイ】にて、クラトス=ドラレウスの実力を審査する。


「......【リザード・アイ】......俺が今から行く場所か......」

「そうだ、色々と説明するのも面倒だからな」

「【水霊会】は本当にあるギルドなのか?」

「ない、厳密にいえば今はギルドとして活動をしていない」


クラトスは困惑する、実質架空ギルドに所属していたとなれば、怪しまれるのではないか。


「大体こんな経歴をまともに調べる奴なんているはずがねえ、怪しまれても、力を見せつければ納得させられるさ」

「あの、実力の審査とは何を?」


ナシアーデはそろぉと手を上げるような動作をして、質問した。


「簡単だ、そのギルドで依頼を受けて実力を認めさせる」

「俺は【リザード・アイ】で依頼を達成していけば良いのか?」

「そうだ......」


クラトス、ナシアーデはゲライトから聞いていた、クラトス救済の為の依頼は嫌がらせの様な物となると、アストリオンは何か隠しているのではないかと疑う。


「......本当か?俺はゲライトから少しは依頼について聞いていた、絶対死ぬと、嫌がらせだと、アストリオン、お前は何か隠しているんじゃないのか?」

「その疑いは間違っちゃいない、おめえらはそこまでアホじゃないということか、

まっ本当は闇ギルドのギルドマスターを捕縛することがお前の任務だ」

「捕縛っ!?」


驚く、闇ギルドは大小あれど、組織化されいる、そのリーダーの捕縛は容易ではない。


「まっ待って!闇ギルドの相手なんて......」

「できねぇってか、だがクラトス、お前への依頼内容は闇ギルド【大地の牙】のギルドマスターを捕まえるか殺す事、それがお前の依頼だ

そしてこの事は誰にも言うな、【リザード・アイ】の魔導士にもだ」

「闇ギルドの相手なんて、そうそう許してはもらえないだろ?」


アストリオンは笑みを浮かべながら話す。


「大丈夫だ、【リザード・アイ】にはお前の事を知っている魔導士もいる、ギルドマスターとかな」

「大丈夫なのか......」

「平気だ平気、多分な」


不安が残る中、料理を待っていると――



――バンッバンッバンッ!



大きな突撃音に合わせるように船が大きく揺れる。


「「うわぁぁ」」


大きく揺れて、様々な騒音と叫び声が聞こえてくる。


「っ何が!?」

「外に出るぞ」


クラトス、アストリオン、ナシアーデは急ぎ外に出る。




船内から表に出ると

「黄金の鳥?......」

いくつもの黄金の鳥が船を執拗に攻撃している。

「――」

それは人を襲っているわけではない、他の人は既に船内に入っており、誰もいないようだ、しかしこのまま攻撃をさせる訳にはいかない。


「っよくわからんが『ドラゴンブレス』」


クラトスは黄金の鳥に魔力のブレスを吐くが

「――っ来やがった」

ダメージを受けている様子はなく、攻撃してきた相手に突撃してくる。

「っ『サンダーブレイド』」

クラトスは反撃の為に剣に雷を込めて切りかかる。


カキンッ


「硬っ!」

切る事が出来なかったものの、黄金の鳥を1匹遠くへ吹っ飛ばす。

「っなんで、ナシアもアストリオンも何もしないんだっ!」


クラトスはなぜか観戦しながら何もしないナシアとアストリオンに文句を言いながらも黄金の鳥からの突撃を避けながら

「――攻撃は単調だ、物理系の攻撃はダメで――」

滑空してくる――

「っしこいんだよ!」

黄金の鳥を右手でわしづかみにする。

「うわ、クソ堅い――なぁ!!」


ガンッ


わしづかみにした黄金の鳥を武器に突撃してくる黄金の鳥を叩き飛ばし海にまで飛ばされ落ちていく。

「これは手ごたえありだ」

黄金の鳥は明確にクラトスを敵として認識したのか、散らばっていた金の鳥もクラトスに攻撃していく。





「あっあのぉ、アストリオンさん、私は行かなくて本当にいいのですか?」

「敬語は使わなくていい」

「あっわか......たわ」

「今は奴の実力を見ている」


アストリオンはコートのポケットに両手を突っ込んだまま、クラトスがどうにか黄金の鳥を倒していっている様子を観察する。


「あの鳥、ナシアーデは知っているか?」

「知らないわ、あんなの......」

「ここ最近船などを破壊して回っている魔物だ、今回は運悪く標的にされたようだ」


クラトスが黄金の鳥を両手に持ち、海に飛ばしまくっている様子を二人は静かに見ながらアストリオンはナシアーデに話す。


「あれはな、船のコアを狙ってんだ」

「コア?」

「あぁ魔道具の作成にも使われるコア、どうにもそれを狙ってるようだ」


コア、黄金の鳥は魔力を餌にしているのだろうか。


「鳥だけでなく、他にも種類がある、魚とか、色々な、そしてすべてがコアを目掛けて襲う、それ以外は妨害しなければ眼中無しだ」

「魔力が餌なのかしら......」

「......俺はあいつらの出どころを探っている最中だ、今回、船に乗ってた理由もそれに関連する仕事があったから、お前らの案内はオマケだった」


クラトスは黄金の鳥を見に見えるほど数を減らしていた。


「こいつら攻撃は単調だが数と堅さが厄介だ、その点クラトスはよくやっている、少々ごり押し気味だが、まぁいいだろう」

「これでなんとか......」

「......いや、ダメだ、あちらさんに援軍が来たようだ」


ナシアーデに待っているように指示をするとアストリオンは一人クラトスの元に向かってゆっくりと歩いていく――



「はぁ......はぁ......」


クラトスは避けながらの攻撃を繰り返していた。


「後......4匹......」


二匹は同時に突撃してくる。


「よく見ろ、よく......」

目を凝らし――


「――そこだっ」


両手に持つ黄金の鳥で二匹の金の鳥を叩きつける。


ガァンッ!


「よし、後は海にこいつらを落とす」


長い戦闘で特性は大体わかってきた、そして海に落とすと浮上できないこともわかった。


「1、2、......3......最後4!」


クラトスは黄金の鳥を全て海に落とす。

「昨日退院したばかりなのに、ハードだ......」

思わず空を見る――


「......なんだアレ」


黒い点々が近づいてくる。

目を凝らすとそれは黄金なのだろう、時折太陽に照らされ黄色く光りながら、何か動きながら近づいてくる。


「......虫?」


何か虫のような物、近づいてくるにつれだんだんはっきりしてくる。

「――蜂っ!」

クラトスは体制を整える、先ほどの鳥とはわけが違う、恐らくこれも黄金の鳥同様の特性を持った魔物なのだろうが、明らかに危険である。


クラトスが警戒しているとアストリオンが歩いてくる。


「クラトス、そいつらの弱点はな、海に落とす以外にもう一つある」

「やっと来たな......弱点?」

「それはな、炎だ」


アストリオンは人差し指に炎を灯す。


「......俺を試してたのか?」

「試してたか、見て見たかったが正しい、お前の戦いをな」


アストリオンはクラトスと並ぶ。


「炎魔法使えるか?使えないなら俺一人でどうにかするが」

「幸い使える、あの蜂全部燃やすのか?」

「あぁ、左が俺、右がお前、まぁできねぇなら俺一人で――」

「舐めるな、俺だって非正規魔導士で魔導士してきたんだ、それくらいできる」

「......へっ言うじゃねぇか」


アストリオンのクラトスへの認識、必ずやその認識を改めさせる、全力で魔法の準備を始める。


「俺が合図したら魔法を撃て」

「わかった」


クラトスは右、アストリオンは左たち近づいてくる黄金の蜂達を見る。

クラトスは剣をしまい、深く深呼吸をする、必ず全滅させる、逃してしまえば何があるかはわからない。


「――」


ブゥゥゥン――


遠くから、嫌な蜂の羽音が聞こえてくる――


「――(取り逃さない、一匹も――)」


深く息を吸う――

アストリオンは人差し指と中指を銃口に見立てて黄金の蜂に向けている――


ドンドンと黄金の蜂は近づいていき――


「――今だっ」


アストリオンが言葉を発したと同時に――


「『竜の爆炎』」


クラトスは炎のブレスを黄金の蜂に向けて吐き出す――



「――『ヴァレン』」



アストリオンは指先から深紅色の炎の玉を撃つ――



アストリオンは『ヴァレン』を黄金の蜂の丁度、赤い爆発を巻き起こし、波は艦体を大きく揺らした。

クラトスは手すりに掴まりながら、黄金の蜂がいた方を見る。


「......どうだA級魔導士の実力は、すげぇだろ?」

「自分で言うのかよ......悔しいけどそう思う......A級魔導士......」


前にアテラズと戦い、万全の状態ではなかったとはいえ負けた、そして今回のアストリオンの魔法を見た、だからこそわかる圧倒的な力の差

そして

「野郎に手を抜けれていた」

アテラズが本気ではなかったことくらいクラトスは察している、だが同じA級魔導士アストリオンの魔法を見てわかった、アテラズは本当に力の片鱗しか見せていなかったのだ。


「――っ」

思わず唇を噛む。

「......まっ気にすんな、お前には向上心がある、それさえあれば、あらゆる障壁なんて問題なく上に行ける」

アストリオンはクラトスを励ますと船内に向かおうとする。


「まだ仕事が残ってるぜ」

「......黄金か?」

「可能性はある、確証はないがな」


クラトスについてくるよう合図をする。



「来い、一足先に公認魔導士の仕事を見せてやる」




ナシア―デは内部で乗客に大声をかけながら

「みなさん、落ち着いてください!いま魔導士が魔物と戦っていますから!」

パニックにならぬようになだめていた。


「大丈夫なんですか!?」「――早くしてください!」

「――っ!」「――っ!」


ルアン号の職員もナシアーデと同じようになだめる。


「大丈夫です!いま、たまたま居合わせたA級魔導士が戦っていますから!」


騒がしくなる船内に外から魔導士二人が入ってくる。


「俺はA級魔導士アストリオン=ソロ、いまから船内の人間を検査する、あぁ、後ろの魔導士は見学だ」

「......」


クラトスは納得いかないといった様子で腕を組みながらアストリオンについていく。


「ナシアーデ、見学だ」

「え、私も?」

「せっかくだ、来い」

「わかった......」


ナシアーデも困惑しながらアストリオンについていく。


「クラトス、お前が不服なのは理解できる、自分も参加させろ......だろ?俺もそうだったしな、今は我慢知ろ、この見学無駄にはしない」

「......俺もA級魔導士の仕事はきちんと見たことないからな、邪魔はしない......」


クラトスは渋々と承諾する。


「あの、これから何を?」

「黄金の魔物は集団での活動がほとんどだが、実際に襲う場合、その種類は一つだけだ、今回みたいに鳥と蜂が同時、みたいなのは起きた例は少ない」


アストリオンは自分たちを見ている乗客を右に左に見ながら話す。


「闇ギルド【黄金の会】を脱会したものが居た時だ」


アストリオンは大きな声でもう一度【黄金の会】と叫ぶ。


乗客はそれぞれ、困惑か、恐れるか、バラバラに反応する。


「......」


アストリオンは乗客の顔を見ていると右目を眼帯で覆った男に近づいていく。


「......その目はどうした?」

「喧嘩をしまして......」

「【黄金の会】について知っているか?」

「......いっいえ、そんな......」


その言葉を聞くと、男は震えながら首を横に振って否定するが、明らかに何かに怯えて普通ではない様子だった。


「クラトス、【黄金の会】って聞いたことある?」

「......ナシアは知らないのか?てっきり知ってると思ってた」


クラトスはナシアーデは大体知っていると思っていた、だが違うようだ。


「正直俺も詳しくない、最近話題の闇ギルドってことくらいしか知らないな」


クラトスとナシアーデが話しているとアストリオンは男を見ながら【黄金の会】について話す。


「【黄金の会】は最近ギルドマスターが変わったんだよ、どうもその際にいざこざがあり、こいつみたいなのを追う役割も黄金の魔物にはあるようだ」


アストリオンは男の顔を見ながら、コートから魔封じの鎖を出す。


「何をするんだ?」


クラトスは聞く。


「一応逃がさない為だ、こいつを保護し【黄金の会】の情報を話させる、分からない事が多いからな、お前も、それでいいな?」

「......守っていただけるのなら......」

「よし、これで後は船から降りるのを待つ――」


アストリオンが男に鎖をつけているその隙を突くように二人の人間が近づいてくる。


「......」

「用事なら、アストリオンの作業が終わってから――」


クラトスは両手で抑えようとする。


「......『閃光』――!」

「『レイ』」


一人は眩い閃光で辺りの目を眩ませて、一人がアストリオンに前にいる、男に魔法を撃つ。


「――っ」


アストリオンは男と倒れるようにかわし、クラトスは咄嗟にナシアーデに指示を出し、魔法の準備をする。


「――ナシア手伝え!『竜激斬』」

「っ『サンダーボルト』」


クラトスとナシアーデは二人相手に同時に魔法を撃つ。


「っ、『レイ』」「『アイス・ランス』」


クラトスとナシアーデは相手二人と魔法を撃ち合う。



バァァンッ!



相手の魔導士二人は倒れる。


「......倒せたか......」


クラトスは黒煙が晴れぬうちに魔導士に近づいていく。


「ナシア、そっちは?」

「......こっちも、意識を失ってるみたい......」


クラトスとナシアーデに鎖が投げられる。どうやらこれで相手を縛れという事だろう。


「俺のミスだな、こんな事は初めてだ」


アストリオンは近くの椅子に座りこむ。


「だが、わざわざ刺客を送り込んだということはそれだけ意味があるんだろう」


眼帯男は気絶しているようだ。

「――『プリズン』」

眼帯男と気絶している魔導士を鉄の檻で囲う。


「よし」


アストリオンはそのまま歩いていく。


「えっあのまま放置なのか?」

「仕方ねぇだろずっと見てるわけにいかない、後で船員に説明しておく」

「だけど、もしかしたら【黄金の会】の魔導士がまた潜んでいて、檻の中の人を助ける可能性も......」

「そう脆くない、何かあったらわかる」

「それじゃ、遅いんじゃ......」


アストリオンはクラトスとナシアーデに静かに笑う。


「よく聞け、油断しない事と気楽に過ごす事は両立できる、常に緊張状態なんて無理だ、いつか途切れて隙を撃たれるぜ?」


アストリオンの『プリズン』の周りには丸い何かが回っている。


「アレは、敵対者を攻撃する、一応俺だって考えてるんだ」


アストリオンはそう言ってその場から立ち去るのだった。







少し時が経ち、クラトスとナシアーデは

「天気が晴れてるな」

「これが旅行だったらどれだけ良かったか......」

青い海をルアン号から眺める。


そこにアストリオンは近づいてくる。


「船出にピッタリの天気だよな」


クラトスとナシアーデに並ぶように海を見る。


「キコス国の政情は最近は安定している、治安も最近は悪くはないが......油断するなよ?、物盗まれたりとかな」

「あぁ、俺は外国にも少しは行ったことはあるから大丈夫だ」


キコス国、過去に行った事がある、

そして

とてもとても重大な事も思い出していた。


「......」


他二人はリラックスしているが、クラトスは内心不安で一杯だった。


「(あの娘......どれくらい前だったか......まだ覚えているのか......?)」


求婚してきた依頼主の娘、結局断れなかった、色恋沙汰には無縁だったクラトスにとって正直言って満更でもなかった、しかしさすがに婚約となれば少しは考える脳もあった。


「......キコス国は小さくない、【リザード・アイ】にいる間、会わないと良いが......」


魔導士なんていつ命を落とすかわからない、ましてや公認魔導士なんてのは上位に上がればこそ大金を稼げるがリスクが高い、きっと他に良い男を捕まえているはず。


「そうだ、それが彼女にとっても幸せなはず......」

「何一人でブツブツよ呟いてるのよ」

「わっ......何でもない......」

「変なの」

「クラトス、ナシアーデ、ほら」


アストリオンが指を指す。


「見えてきたぞ、キコスの港が」

「あれが......」

「......久しぶりだな......」


アストリオンは笑みを浮かべながら話す。


「ナシアーデ=パナケ、お前は一応クラトスのサポーターだが、当然お前も危険に目に会う事になるだろう、油断するなよ?」

「わかってるわ」


次にクラトスに


「クラトス=ドラレウス、まぁ色々とあるだろうが、これは実質、魔導協会での初めての依頼だ、楽しんで来いよ、【リザード・アイ】悪いところじゃねぇからさ、良い思い出になる」

「わかった、俺も楽しむつもりだった」

「そりゃ良い」






こうしてクラトス=ドラレウスとナシアーデ=パナケはキコス国に入国する。


例外的救済処置の依頼内容

闇ギルド【大地の牙】のギルドマスターを捕縛するか殺す事。


依頼を達成するまでの間、ギルド【リザード・アイ】で依頼をこなしながらキコス国で過ごす事となる。


クラトスとナシアーデは無事依頼を達成できるのか――


そしてクラトスは正式に公認魔導士になれるのか――



続く――

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