第33話 ナイミアの小さな大きい勇気
某所
「......」
薄暗く静かなる通路の中、異様な存在感を放つ者がガシャンガシャンと重厚な音を出しながら歩いている。赤いマントと黒い鎧を装着した騎士が一人歩いているそれは、突然に止まり。
「ネレイアイか」
そう言って腰の剣を抜くと、目の前に水の渦、そして――
「......血気盛んなのね......」
水色のツインテールに黄色い羽根の妖精、ネレイアイ=ナイナイアが現れる。
「何の用だ、私は忙しい」
「ふふふ......魔法研究の進歩はどう......?」
ネレイアイの質問は淡々と答える。
「それを言う必要があるのか?お前に」
黒騎士にそう言われるとクスッと笑い。
「ええ......貴方がどれくらい強くなっているのか......気になるわ、魔導協会の仲間......でしょう?」
「......だったら、なおさら言う事はないな、お前が期待していることは何もない」
ネレイアイを避けるようにして前を歩いていくとネレイアイは呼び止める。
「そういえば、貴方のお仲間さんは一人で......?」
「......しつこいな、あいつのことなら問題ない手綱は引いてある、これ以上引き留めるなら叩き切る」
黒騎士の言葉を無視してネレイアイは話を続ける。
「ふふふ......前の貴方には考えられない強気な言葉......誰に影響されたのかしら......?」
「......」
黒騎士は剣に魔力を込め始める。
「ふふふ、私はそろそろ行くわ......あぁ最後に――」
そう言うとふわっとネレイアイは黒騎士の兜の近くに飛び耳元に近づき
「――」
「――っ!?」
ネレイアイが告げた言葉に黒騎士は少し戸惑いを見せる。
「あら、可愛らしい......そういうところもまだあるのね」
「......」
「ふふふ、またね......」
ネレイアイは黒騎士にあることを告げると水を纏いどこかに消えていった。
「......そうか......」
黒騎士は何かしら考え込むと通路を進んでいく。
◆◇◆◇
ドネイとレネとの試合が終わり――
試合が終わればケガを負った魔導士達は治療を受ける。ドネイそして
「レネ様、入ってもよろしいですか?」
レネ=ポッドーも体に大きな傷を受けて治療を受けている。
「?」
看護師はレネがいるはずの病室の扉越しに声をかけるが返事がない、というより人の気配がなかった。
トントン
ノックするがやはり何も反応がない。
「レネ様?入りますよ......えっ?」
扉を開くとそこにはいるはずのレネはいない。空っぽの部屋とベッド、ベッドの上には怪しげな人形がある。それだけ、ただそれだけが、そこにあるだけだった。
◆◇◆◇
「あれで良かったの?」
そう語るのは紫色のゴシックドレスを着た黒髪の少女は顔を兜で顔を隠した黒い騎士に見上げるように話をかけている。
「あぁ、かまわないとも」
黒騎士はそう言ったが少女の方は不服そうな顔をしながら「あーあ」と心底嫌そうにに声を出す。
「あんな使い魔じゃなければ、余裕だったわ」
「そうだ、試験なんぞは容易く勝ち残っただろう」
「なら、私に行かせれば良かったでしょう?あんな使えないやつじゃ、だめね」
少女に対して黒騎士は淡々と答える。
「お前を行かせるのダメだ」
「......私が恐ろしい?」
「貴重な人材を消してしまわねばならない事がな」
黒騎士にどれだけ言っても無駄と悟った少女は愚痴るように言葉を出す。
「まぁ、どっちでもいいわ、どうぞ、貴方のご自由に?」
少女は投げやりにつぶやく。
「今回使い魔から送られた情報で対象は絞り込めた」
黒騎士の言葉に少女は反応した。
「ねぇ、貴方も使い魔は使えるはずでしょう?使えばもっと早くに絞り込めたはず。なぜ私ばかりコキ使うの?」
「私は他者に力を見せたくないからだ」
「仲間でも?」
「......あぁそうだ、仲間だろうと敵だろうと家族だろうと......極力、力は隠すべきだ」
黒騎士の言葉に少女は笑みをこぼす
「まさに私は貴方にとっての救世主ね、私が優秀な魔導士であったことを感謝したほうがいいわ」
「......」
黒騎士は無視をして先へ進む。
「ねぇ、この後何処に行くの?」
「あっておきたい人物がいる」
「?」
少女の疑問を無視するように黒騎士はある人物に会いに行くのであった。
◆◇◆◇
一方その頃
ドネイの病室にはクラトスとガルフとアリスがいた。
「ドネイ、あの場面を最初見たとき心臓が止まるかと思ったぞ」
「ははは、少し調子に乗りすぎたわ、反省反省」
「少し軽すぎるかしら」
「まぁ、良いではないか、ドネイは勝てた、ケガも深くはない、それで!」
ドネイに対してクラトスとアリスは言っているとガルフはドネイの検討をほめて、ドネイと話しているとクラトスは思い出したかのようにレネのことを話した。
「しかし対戦相手は消えたとかで騒いでるな、ここの近くにも魔導士が来てたしな」
クラトスはレネの失踪について話題にだす、ガルフもそのことには関心があるようで口を開く。
「それはそうだろうな、負けたことに怒って復讐してやる、というやつもいないわけではないだろう」
クラトスは少し考える。
「しかしだな、体をざっくり切られた状態で動けると思うか?」
ガルフの言うことには理解できるが、レネの負った傷は素人目に見ても深手である、そんな状態で無理に動けば命に係わる、そもそも動くことも難しいのではないかと考えていた。
すると扉を開く音が聞こえると
「ドネイさん!勝てたんですね!」
ナイミアが息を切らしながらドネイ達のもとに急ぐ。
「ナイミア、ここは病院だぞ」
「あっ、ガルフさんすみません......」
ナイミアはペコペコして、近くの椅子に座る。
「ナイミアの方はどうだ?魔道具は上手くいきそうか?」
クラトスはナイミアが魔道具をうまく扱えているのか気になっていた。
「う~ん、上手くいった」
「いったか!」
クラトスは喜ぼうとするが
「と言いましょうかぁ......」
ナイミアはそう続けるとクラトスは落胆する。
「む、ではいってないのか?」
「とも言えないようなぁ......」
「どっちだよ!」
「そう言われてもぉ」
ドネイが曖昧なナイミアに大きな声で言うが、ナイミアはおどおどしながら目を泳がせる。
「クラトス、ナイミアにあげた魔道具はどのような物なのだ?」
「あれは――」
「ひゃ!」
クラトスが話そうとした時だったナイミアの胸が青く光る。ナイミアは首にかけていた小さい青い宝石の首飾りを出すと青い光はより一層輝いていく。
「それは......俺が渡した魔道具か?」
「はいぃ......」
激しい青白い閃光が部屋を包み込み、光が収まるととナイミアの頭上には奇怪な形をした何かがいた。
翼の生えた球体。球体のしたには無数の触手のようなものがナイミアを中心にうねうね動く。全身は青く黄色い円の紋様が触手を含め全身にあった。
「なんだ?俺はこんな魔物はしらないぞ......」
クラトスを含め皆困惑する。
「あ......えっと......」
ナイミアが説明しようと口を開こうとするが。
「テュナート」
奇怪な存在はナイミアの言葉を妨害するかのように言葉を発する。その突然の言葉に困惑するクラトス達はどうすればよいか少し困りながらも。
「テュナート......それが名前か?」
クラトスはナイミアの頭上に浮遊する存在に話をかける。
「.......ドラレウス?」
無機質な女の声が響く。
「俺の姓を知っているのか?」
自身の姓であるドラレウスという名前がテュナートから出てきたことに少し困惑する。
「あ奴がドラレウス姓を知っているというには別におかしいことではないだろう?お前の家族が集めていた魔道具だ、面識があるのもおかしいことではない」
「あぁそうか」
ガルフはそのようにクラトスに話した。
「しかし、驚いたなナイミアに渡した魔道具がまさか召喚系の魔道具だとは」
「なっ!知らずに偉そうな忠告をしていたのかクラトス!?」
「いや、どんな魔道具かは知っていた、ただ自我のある魔物、テュナートなんて知らなかった!」
クラトスとガルフが話しているとナイミアが震えた声で話す。
「あのぉクラトスさぁん......どうすればいいんですかぁ~?」
「どうすればってテュナートと契約をすれば」
「それが拒否されてしまったんですよぉ~!「必要ない」って言われてぇ!」
「何ぃ?」
クラトスは困惑しながらテュナートに話をかける。
「テュナート、ナイミアが何か気に障ることをしたのか?」
「......ナイミア=ピリス、この女の怯え切った態度が気に入らない」
そういうとテュナートはナイミアを触手でつつくようにしたり、撫でまわすような動作をしたりと繰り返し行う。
「うぅ......」
ナイミアは終始怯え切った様子でいた。
「なっナイミア、テュナートは怖がりはお気に召さないらしい、何かガツンと言って見返してやれ」
「えぇ......そっそんなのぉ~」
そういってナイミアは両手の人差し指をクルクルする。
「ナイミア......」
ナイミアは無理かもしれない......正直そのように考えてしまっていた、クラトスは魔道具をきちんと考えてから渡すべきだったのではないか、悪いことをしてしまったと後悔していた。しかし
「私はナイミアと契約はしない、しかしナイミアの協力をしない訳でない」
「それは......ナイミアと一緒に戦ってくれるということか?」
「私はそれらのことを確約しない、全て全てナイミアがどのように思考して行動するかで決まる」
言うべきことを言ったのか、テュナートは青い閃光と共に消えていく。
「ほっほ、ら私のいった通りでしたよねぇ?」
ナイミアはホッとしたのか、言葉を発する、先ほどのクラトスへの報告は間違いではないことを確認するように聞いてきた。
「いや確かにそうなんだが......」
ガルフは興味深そうに考える。
「ふむ、興味深い、召喚魔法は異界や別の場所にすむ魔物を召喚する。その召喚には契約が必要だ、本来は魔道具でも例外ではないはず.......」
「種類問わず、未契約で勝手に現れるなんて異常で危険だな、どうしたものか......」
クラトスとガルフの会話にドネイが割って入る。
「召喚系の魔道具なんてのは大抵の場合訳ありで危険なんだよなー」
ドネイはベッドに横になりながら話す。
「ドネイは何か知ってるのか?」
「ナイミアの魔道具については知らない、だけどな、魔道具の召喚は召喚魔法と似てはいるが違うんだぜ」
「初耳だな、俺は色々依頼を受けてきたが、大体一緒に扱われていた、珍しい物ではあったがな」
クラトスにとって魔道具を用いての召喚は召喚魔法と変わらない。それはクラトスだけでなく、大抵の者がそのように認識している。
「召喚魔法は異界か別の場所から召喚する、大体これが普通だよな?。専属で契約し同行してもらう奴なんてのもいるな。ただ魔道具に関して言えば召喚なんて言葉より『開門』って言葉がピッタリだ」
「召喚ではなく開門......」
「閉めてある門を開いて、用が終われば門を閉じなおす。わかるだろ?召喚魔法との違いが、魔道具は門だ。そして何かしらの理由で門の中にいる羽目になった存在をお前たちは普段の召喚魔法と同じように扱ってるわけだ」
「......」
「この話はエルフの村の長老の話だが、俺は本当だとは思ってるぜ」
アリスは難しい話には興味ないようで外を眺めている中ガルフが提案する。
「我は試合の中で怪我をするのは仕方ないとは思うが、魔道具の使用による本来は避けられた事故で怪我をするのは避けたほうがよいのでは?」
その意見にドネイは賛同する。
「俺も真偽以前に契約できていない魔物を扱うのはねーな」
クラトスは思考する、ナイミアには勝ってほしい、だが自分の所為で怪我をするのはやはり良くない。魔道具が自分の知らないうちに変わってしまっていた以上、魔道具を変えてあげるのも手ではないかと考えていると――
「あっあの私ぃ......!」
ナイミアが普段より大きい声を出す。
「そのぉ、私の力不足で契約はできなかったです、でも、前、私が初めてテュナートさんと話したときに行ってくれたんです......「逃げるな」って、その時のテュナートさんはさっきの無機質な声じゃなかったんです。優しかった、母のような優しさを感じたんです!」
ナイミアは振り絞るように話す。
「なっなので!、私は期待に答えたい......契約はされなくても頑張りたいんです!」
ナイミアの振り絞る声に少し呆気にとられたがすぐにクラトス達も話し始める。
「そうだな、ナイミアの意見を聞かずに何を決めようとしてたんだか」
「うむ、そうだった一番大切なことを忘れていたな」
クラトスとガルフはナイミアが話したこと、そして何より本人の勇気を無下にはしたくはなかった。
ドネイも渋々口を開く。
「俺は怖くて使えないが、今のを聞いてもなお、使いたいだなんてナイミアはすごいんだか、アホなんだか」
「ドネイさん!」
「「ははは!」」
ナイミアの試合までの時間は刻一刻と迫っていく、わずかな休息の時間を過ごしていた。様々な思惑がうごめく中、ナイミア=ピリスの試合はどうなるのか!?
次話へつづく――
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