第1章 魔導師試験編

第2話 説得と祖母との問答

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魔導協会――魔法や魔道具の研究開発&魔導師の管理管轄を目的とした集団


魔導師は魔道協会よりライセンスを貰うことで正規の魔導師と公認される。

正規の魔導師になると信用を受けてギルドへの加入も容易になる。

また、正規の魔導師は上位になればなるほど特権的地位を獲得することが出来る。

ただし、公認されるための魔導師試験では最悪死ぬ可能性がある。


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オリンシア帝国 アーシア区 夕方


夕暮れ時人々が行きかう町、その一角にあるお店で深く渋い赤髪をしたガタイの良い男クラトスは酒を楽しみながら。より筋肉質で深緑の髪をしたガルフとお互い顔を向け話しながら食事をしていた。




「俺は魔導師試験を受ける」

「......正気か?」


クラトスはガルフに魔導師試験を受ける旨を話していた。


「別に正規の魔導師にならなくてもだな」

「いや、だめだ」


正規の魔導師は協会の一員としてライセンスを貰うことで信用を得る。信用されないと魔導師は依頼を受けることは難しい。


「ガルフは知ってるだろ?俺の夢」

「モテたいではなかったか?」

「モテたいもあるがな、最高な魔導師になるだよ」

「あぁ、昔言っていたな」


クラトスとガルフはナシアーデほどでなくとも長い付き合いだ


「俺は試験を避けてきたが、もういいだろ」

「ふむ、我はどうしようか」

「強要はしない」


クラトスは一人っ子だがガルフには兄妹が多い、魔導師試験ではいくつか試験を受けるが下手したら死ぬ。クラトスは自分所為で誰かが死ぬことを嫌っていた。


「いや、折角だ行かせてもらう」

「いいのか?」

「正規の方が仕事はあるだろう、家族のためにも安定はほしい」

「ナシアからもらった用紙によると正規試験はちょうど3日後だ」

「了解した」


こうしてクラトスとガルフの二人は魔導師試験を受けるため

家族への説明等々準備を始めた。



◆◇◆◇


コブー区 ガルフ家 夜


貧困層が立ち並ぶ町、コブーに家を構えるガルフ。


ガルフの前を囲むようにガルフの兄妹の弟3人と妹3人が座っている。


「我は正規の魔導師になる」

「兄ちゃん......」

「......」

「死んじゃうかもよぉ?」


弟と妹二人はガルフを心配そうに見つめる。


みなそれぞれが不安を口にする、正規試験では人はよく死ぬことを兄妹はよく知っていた。


「う~っ」

「いやだよ」

弟と妹がガルフを止めるように駄々をこねる。


ガルフ正規の魔導師になれば、みんなもっと楽に暮らせるはずその考えでガルフは魔導師試験を受けようと思っていた。

だがみんなはそれぞれ止めようとする。.....


「兄貴......俺は行ってもいいと思うよ......」

「ズルフ......」


ズルフはガルフを除けば兄妹の年長者。


「いいのか?」

「だって......初めて自分がやりたいって聞いたから」

「それは、クラトスが......」

「クラトス君に誘われたって普段の兄貴なら断ってたよ。でも今回は断らなかった」


......言われてみれば確かにそうだった。自分はより強くなれれば兄妹を養えると考えていた。


「だが、それはお前たちの事を思って......」

「いつも俺たちの事考えてるのは知ってるよ、兄貴が行きたいと思ったなら試験に行ってきなよ」


そして自分の魔法をより高めて兄妹だけではなく色々な人お助けられるだろうと常日頃より考えていた。だがその為には一定期間は家を離れることになる。依頼も場合によって長期間かかる依頼を受けることにもなるだろう。


「いっ今の話聞いてて、うんお兄ちゃん行っておいで」

「ちゃんと生きて帰ってきてよ?」

「リタイアしていいから~」


ガルフの背中を押すように兄妹たちは声をかける


「兄貴がいない間は俺が皆を守るから安心してくれ!」


ズルフの言葉で心に決める、ガルフは必ず魔導師試験をクリアして見せると。


「ズルフ、皆を頼んだぞ、皆もあまり迷惑かけるではないぞ!」

「頑張ってよ!」


ガルフは無事家族の了承を得ることが出来た。基本的に試験を受けるのには家族の許可は必要ない。しかし勝手に受けることでその後の関係に不和が生じる可能性もあるため大体の魔導師は試験を受ける前に家族や親しい友人などに相談をしに行く。



◆◇◆◇


アーシア区 クラトスの実家 夜


「俺は魔導師試験を受けることにした」

「......そうかい」


クラトスは机の前に座る祖母に正規の魔導師になりたいという旨を伝えていた。


「血は争えないか......」

「どういう意味だ?ばあさん」


両親がいないクラトスをここまで育てたのは父方の祖母エイバフ・ドラレウスである。クラトスが10の時に父は魔道協会の仕事に入り浸るようになり、それを追って母もまた家を空けるようになっていっていた。父と母から頼まれたためエイバフは子供のクラトスの親代わりをしていた。現在クラトスは一人暮らしをしているが重要な決断をした時にはエイバフに時折話していた。


「どうもお前の爺さんや父さんは魔導師試験に行きたがるからね」

「俺の場合は結果的にだよ、クソ親父と一緒にしてほしくねぇな」


クラトスにとって祖父との思い出の方が多いほどに父との思い出は少ない。しかし全くの疎遠だったというわけではなく数年に一度は顔を合わせる機会もあった。

クラトスは避けていたため出会う機会はほとんどなかったが。


「自分の父親をクソとか言うんじゃないよ」

「はいはい」


エイバフはやれやれと肩を落とす。クラトスと父親の不仲は殴り合いでもしなければ解消されないだろうと思いこの話題を変えることにした。


「......クラトスは魔導師試験を受けるんだね」

「おう、そう決めた」

「いくつか質問してもいいかい?」

「いいぞ」


エイバフがなぜ理由を聞くのか、それはクラトスが過去に魔導師試験で起こしたある事件と関係があった。そして何よりクラトスは基本的にはエイバフに相談するが本当に心の底にあるものは決して人には話さない人間というのもエイバフは知っていた。これを機会にクラトスの考えの理解と確認をしておきたかったのだ。


「まずは一つ目の質問、これは当時いくら問いただしても答えてくれなかったものだけど再度聞こうか。クラトスお前は過去に試験官を半殺しにした。なぜ?」

「それは言えない」

「だろうね.....だけどお前は優しい子だ理由がなくあんなことはしないだろうさね」

「すまん、ばあさん」

「言わないだろうと思ってたさ、じゃ質問を変えよう。その事件の後にお前は気まずくなって逃げ出したらしいね、それは本当かい?」

「前にも話しただろ、本当だよ」


クラトスは腕を組みながら答える。『』この言葉に当時エイバフは強い違和感を覚えていた、クラトスが起こした事件で周りからは浮いたであろうし他の試験官に目をつけられていただろうが、クラトスが人の目を理由に逃げたりするだろうか。


「......嘘ではないね?」

「ったく、しつこい」


クラトスの瞳は強くエイバフを見る。

いくら問いただしても答える気ははないだろう。


「2つ目の質問、前回の試験つまり4年前だね、あの時はナシアちゃんからのお願いを聞いて魔導師試験会場まで一緒について行ってあげた」

「そうだな、俺は行く気が無かったがナシアがどうしてもとな、それで?」

「あの時、お前は試験を受ける気は無かった、なのに受けたそれはなぜ?」


エイバフの疑問であった、当時から魔導師試験を避けていたがナシアーデが試験を受けることになり、試験会場までの付き添い人としてついて行ったはずがなぜか試験を受けており、エイバフは当時驚いた。


「......あー、そうだなそれなら答えられるか、当時はガルフは家の事情で遠くに行っていた時にナシアから付いてきてくれと頼まれ渋々会場まで行った、その時は着いたら帰る予定だった」

「ほう.....」

「んでエントリーするまで付いてきてくれと言われてまぁいいかと、そしてエントリーが終わったと言って俺は「じゃあ」と帰ろうとしたんだ......駅に顔を向けてナシアを背にしてな、そしたら、ナシアが片腕を突然掴んできた......」


クラトスは色々思い出しながら話していく。


「振り返るとナシアは泣いてた、「怖い」と「一緒に試験を受けてほしい」と」

「......そういうことかい」


エイバフはここで理解したクラトスがなぜ当時試験を受けたのかその理由を。


「普段まぁまぁ気の強い、しっかり者のナシアが泣いて俺に助けを求めてきたんだ、まぁ断れない。だから受けることにしたってわけだ」

「やっぱり優しい子だね」

「あの状況なら誰でも受けたさ」


誰でも受けたかはわからない、魔導師試験は常人なら怖気づくものを頼まれただけで一緒に試験を受けたのだ。普通の人間ならできないことをクラトスはしていた。


「では3つ目最後の質問、今回どうして魔導師試験を受けようと思ったんだい?」

「ああ、それは最高な魔導師になりたいからだ」

「最高.....何をもって最高なんだい?それは試験を受けなければ成されないこと?」


何をもっての最高なのか、クラトスが子どもの頃に話していたこの言葉をまさか今になって聞くことになるとは、子どもの頃であれば笑って過ごしていたが大人になってもそれを言うならば何をもって最高なのかを知っておく必要があった。


「それは俺も考えていた、もちろん強さも大事だ、しかしそれだけではない」

「だろうね、最強ではなく、最高なんだから」

「最高な魔導師はきっと誰からも憧れられる魔導師だ、だから俺は皆から憧れられる魔導師を目指す。魔道協会は魔導師の功績が人から見て一番わかりやすいから目指す」

「......」


憧れられる魔導師.....エイバフはクラトスが語った夢を否定したくはない、しかし憧れる対象になるには、何よりクラトスが目指すレベルになるには最上位になるだろう、クラトスは強い。竜という類稀なる力は強力なアドバンテージになるだろうが世界は広く恐ろしい。その現実はクラトスも知っているはず。


「あぁ、お前の夢は夢想だよ」

「そんなこたぁ百も承知だ」


だが、そんな夢を愚直に挑もうという姿勢には思うところもあった。

 

「ははははは!!」

「わっ笑うなよ!」


魔導師は困難に挑む者、ならこんな夢想、困難に挑んでみる馬鹿がいても良いのではないか。


「よし、わかった」

「ありがとう、ばあさん」

「では、クラトス=ドラレウス!」

「はっはい!」


エイバフは大声でクラトスを呼ぶと、クラトスは驚いて立ち上がる。


「クラトス=ドラレウス、魔導師試験に行くからには二つの道しか許さない、生きて帰るか正規の魔導師になって帰るかだけだ。お前がどちらを進もうが私は許そう。そして誇りを捨てるな、魔導師として人としての誇りを捨てなければそれでいい」

「......心得た」

「......さぁてとそろそろ夕餉の時間の時間だ、シチュー食べるかい」


試験はどれくらいの期間になるかは毎年変わる。試験内容も毎回少しずつ変わっていく、そのため対策は難しい。


だからクラトスはエイバフと久々に一緒の夕餉を味わう、どうしようもないことクヨクヨと考えていても仕方がないから今を楽しむのだ。




魔導師試験に臨む達は皆、我が家の料理を噛みしめて、そして心から願うのだ。


もう一度味わうと――


生きて帰ると――


そう決意するのだ――

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