勇者パーティに極悪四天王が紛れている

kiki

1話 極悪女魔族、力を失う

「キャハハ! 死ね死ね!」

 家を燃やし、人々が逃げ惑う中、調子のいい大きな声が聞こえる。魔王軍の四天王ミラは、一つの村に攻め入った。頭の左右から突き出た角、体にフィットした漆黒の鎧、そして背中まで伸びる真っ赤な髪をしている。村長らしきじいさんが彼女に詰め寄ってきた。

「ど、どういうことじゃ! これは!」

「ああん?」

「食料を渡したら、わしらの村には攻撃しないという約束じゃったはず!」

「うるせえよっ。燃えな、クソじじいっ!」

 ミラは手のひらを向けると、ボッと発火。村長は猛火に飲まれた。

「ぐああああっ!」

 叫び声に眉を寄せて不快感をあらわにした。火だるまになったじいさんを蹴飛ばし、動けなくする。

「ちっ。イマイチな声出しやがって。ん?」

「ひっくっ。ひっくっ」

 泣き叫ぶ幼女がいた。花柄のワンピースを着ている。

 ちょうどいいのがいた。どんな声で鳴いてくれるのか楽しみだ。

「ヒャハッ!」

 ミラは地面を蹴り、幼女に向かって襲いかかった。しかし、その前に魔法が発動したのか、地面が青白く明滅を繰り返す。

 しまった。これは罠か!?

 魔力を吸われ、急速に力を失っていく。軽かった体が鉛のように重くなった。

「くっ!」

 その間、村の男どもが武器を持ってこちらに向かってきた。

「ふざ…けるなあっ!」

 ミラは自力で罠を吹き飛ばした。だが、魔力を急激に失ったためか、意識がもうろうとしていた。飛ぶことはできないようだ。その間、村人の男たちがチャンスだと複数人、近づいてきた。彼らの手には武器がある。

「クソ…。この我が人間どもに…」

 彼女は残りの力を振り絞り、その場から逃げ出した。森への茂みへと飛び込み、やつらが追ってこないように走り続ける。漆黒の魔法壁である鎧が効力を失い、体からとれていく。ポロポロとまるでカサブタのように一枚一枚が地面に落ちていった。火のよう真っ赤な髪は色を失っていき、魔族の象徴である角は小さくなっていく。

 魔力が…くそ…。

「くっ! …うわっ!」

 足をとられ、彼女は斜面を転がっていった。滝が見えたかと思うと、そのまま真っ逆さまに落ちていく。

 こんなところで…。魔王様…お許しください…。


「ふう。今日もいい天気だぜ」

 ローレンは古くなった木のドアを引き、表に出た。彼は森の中にある一戸建てに住んでいた。近くに村があるが、そこへは野菜を売りに行く程度だ。彼は魚釣りが得意で、というのも彼の目には普通の人に見えないものが見えていた。

「おっはよお」

「よお。アルル」

 小さい彼女は宙に浮いていた。体長十五センチほどのそれは、背中に羽が生えていて、妖精と呼ばれている。

「今日も一日、頑張ろう!」

 畑仕事をしたあと、木を斧で割って薪を作った。そのあと、魚釣りをしようと川に向かう。

「ローレン。あれ!」

 川の近くで人が横向きに倒れていた。アルルと一緒に近寄ると、それは女性だった。衣服はなにもつけてなく、全裸だ。

「うわっ」

 若い女性の裸を見るのは何年ぶりだろうか。胸が大きく、スタイル抜群。白色の長い髪は珍しい。褐色の肌は日焼けしているのだろう。

「生きてるのか?」

「どうやらそのようね。息してるから」

「運ぼう。その前に…」

 ローレンは羽毛が入ったダウンジャケットを彼女の体にかぶせた。背中に預けて運ぶことはできなさそうなので、アルルと協力して彼女を運んだ。そして近くの家に運び、床に寝かす。囲炉裏の薪に火をつけ、体を暖めることに努めた。

「ここらじゃ見ない人だね。誰だろう、この子」

「村人か?」

 滝から流れてきたのがこの女性なら、そう思うことが自然だった。過去、山菜採りで遭難したじいさんがここを訪ねてきたことがある。そういった類のものだろうと思った。

「ん…」

 会話で目が覚めたのか、女性はピクリと体を動かした。そして、ゆっくりと目を開けて、上体を起こす。彼の顔が見えたのか、ビクッと肩を揺らした。そして、目をクワっと大きく見開く。

「だ、誰だ貴様!」

 貴様って。まあ、目が覚めて男が目の前にいたらびっくりするか。

「俺、ローレンっていうんだ。君は?」

「我のことか? 人間ごときに名乗る名など、ない!」

 一人称が我とか、そんな奴初めてだな。キャラ付けのために言っているのだろうか?

「人間ごときに?」

 お前も人間だろうが。違うのか?

「キャハハ…。我のことを助けたこと後悔するのだな!」

 そいつは胸を隠すこともなく立ち上がって、勝ち誇ったかのように笑みを浮かべる。悪魔のような笑みは似合っていた。そして、彼女は右手のひらを出し、ローレンの顔に向ける。

「消し炭にしてくれるわっ! はっ!」

 シーン。

 しかし、なにも起きなかった。なにか周りで変な現象でも起こったのかと左右、後ろを見渡すがなにも変化はない。アルルのポカンとした表情が見れただけだ。

「あ、あれ? おかしいな。こんなはずでは…」

「何やってんだお前…」

「ま、待て。あれ? くそ…もう一回だ!」

「はあ…」

 そして再び手を向ける。ただし、今度は表情に余裕はない。

「でやあっ!」

 叫ぶ彼女。しかし、またしてもなにも起きない。悪役を演じる子供が遊んでいるようにしか見えなかった。

「きええっ!」

「うるさいっ」

 ローレンは彼女の頭を叩いた。

「あいたっ! に、人間ごときが私の頭を! 万死に値するぞ!」

「はいはい…。とにかく座れ、お前」

「指図は受けん!」

「なら出ていくか?」

「…」

 外は寒いことを思い出し、彼女は無言で座った。ぶるぶると震えだし、近くにあったジャケットをたぐり寄せる。

「で、お前の名前は?」

 彼女はなにか考えるように天井を見上げたあと、口を開いた。

「わ、私はミ…ルナというものだ」

「ミルナ?」

「ルナだ!」

「さっきから人間ごときとか言ってたが、人間じゃないのか?」

「に、人間だ! まごうことなき人間だ!」

 わけがわからないので、とりあえずそのことは置いておく。

「お前は川の傍で倒れていたんだ。滝に落ちて流れてきたんじゃないか?」

「ち、違う」

「じゃあなんであんなところにいたんだよ」

「それはあれだ…ん~…」

「もしかして遭難したとか?」

「そうだっ。その、そうなんってやつだ」

 意味わかってないだろ、こいつ。

「まあいいや。俺はちょっと外に出てくるから」

「我はなにをすればいいんだ?」

「別になにもしなくいい。じっとしてろ。あ、服は適当にタンスにあるものを着てていいぞ」

「我はこれがいい」

 手元にあるジャケットを振って、示した。

「それは俺のだ。タンスに入ってるものにしてくれ」

「生意気な…」

 彼女はムッとして不満顔を見せた。着替えの最中を観察する趣味はないので、ローレンはジャケットを着て、アルルと一緒に家を出た。そして、薪割りをしたあと、魚釣りのポイントに行き、魚を釣った。

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