第十五夜「焔鬼」

第141話

 「――焔鬼よ、良いのか?あのような別れ方で」

 「構わない。すぐに戻れば良い」

 「だが起きた時、叱られるのではないか?」

 「既に小言は受け取っているし、あいつは過保護過ぎる。悪い癖だ」

 「だが……いや、これは私が言う事ではないな」


 鬼門を開く準備しながら、オレと蒼鬼がそんな言葉を交わす。蒼鬼の掛けた招集によって集まったのは蒼鬼を含めて三人。

 蒼鬼、剛鬼、狂鬼……以上の三名である。黒騎士時代から話す機会もあったが、こうして改めて話すのは久し振りだろう。そしてそれは、全員感じているようだ。


 「まさか、我々がこうしてまた集まる事が出来るとはな」

 「面子が足りねぇだろ。何言ってるんだよ、剛鬼」

 「蒼鬼から道中で聞いたが、同胞の死を嘲笑う行為をした妄鬼は大罪だ。だが酔鬼はどうしたというのだ?」

 「それがオレも蒼鬼も知らねぇよ。知ってるとすれば、あの人だけだ」


 狂鬼はそう言いながら、目を細めて前を見据える焔鬼の背中を見つめる。だがすぐに視線を逸らし、やがて先程よりも鋭い眼光を焔鬼へと向けた。


 「――いや、前言撤回だ。あの人も知らねぇみてぇだ」

 「勝手にオレの事を視るな、狂鬼。オレの妖力に中てられたいのか?」

 「そうなったら自業自得だし、責任は自分自身で取る。オレはただ、確かめたかっただけだ。確かにあの時、酔鬼の妖力が消えた。でも……どうして消えたのかさえ分からないのが気味悪くて」

 

 狂鬼の言葉を聞いた焔鬼は、小首を傾げて刀を肩に添える。全員が酔鬼の姿を見ていないのも無理は無い。何故なら既に人間界で、鬼組幹部の一人である刹那が酔鬼の妖力を押さえてしまっているのだ。

 刹那の操る氷には妖力を遮断する力もあり、その氷漬けにされている酔鬼は沈黙。完全に身動きが出来ない状況となっている事を知らないのである。


 「……それよりもお前ら、オレに味方して良いのか?」


 人間界から鬼門を抜ける直前、焔鬼は蒼鬼たちにそう問い掛けた。その言葉に対し蒼鬼たちは顔を見合わせ、鬼門を出る前に焔鬼の前で膝を折った。

 最初に言葉を発したのは、一番の巨体である剛鬼だった。


 「我らは過去、一度の契約を交わしております。それは命を託し、その御身を御守りし、己が主人を支えるという契約で御座います。故に、我らは貴方様に従うのです」

 「――そしてオレたちは、貴方様の盾となり、刃となる存在だ。貴方の手足となり、貴方のしもべとして御傍に」

 「――我々は黒騎士の前に、仕えたい存在を黒騎士統括として選んでいる身。その意味を、その存在を、今一度御自身で御理解戴きたい」


 膝を折った蒼鬼たちが、かつての焔鬼……目の前の焔鬼に告げた。その言葉を聞いた焔鬼は、微かに迷いながらも口角を上げて言ったのであった。


 「あぁ、分かった。……お前らの忠誠に感謝する」

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