第十三夜「白き獣は、赤き華に酔いしれる」

第121話

 「姫さんよぉ~、これで焔鬼に助けを求めたのかぁ~?他力本願な所は相変わらずだなぁ~?」

 「……どうとでも言って良いよ。けど、私はまだっ、負けてないっ」

 「っ……」


 妖術が天を貫いた瞬間、酔鬼の意識はそらへと向いていたのがキッカケだろう。茜はその拘束を解き、すぐに距離を取って二本指を立てたまま十字を空中に描いた。


 「まぁた妖術って奴かぁ~?焔鬼に教えてもらった術じゃ、俺は殺れねぇぞ姫さんよ~!!」

 「最初に言ったはずだよ、酔鬼」

 「――っ!?」


 そう言った茜は酔鬼を見たが、その視線の先を追った酔鬼は違和感を覚えた。


 「(俺を見てる視線じゃない?この視線の先はっ)」

 「茜さん、ナイス囮っスよ!!」

 「後は頼むね、ハヤ……テ……――あ、あれ?」


 ハヤテにそう言った茜は目を閉じ、すぐに目を開けた時には刀が消えた。結っている髪には鈴が身に着けられたまま、茜の意識は既に表の人間である彼女に戻っている。

 キョロキョロとしている様子から察したのか、酔鬼は口角を上げてハヤテの攻撃を避けて茜の事を捕まえようとした。だがしかし、それをハヤテは制しながら茜に言った。


 「今すぐ下に降りるっスよ!!!下で仲間が控えてるっス!!」

 「わ、わかりましたっ」


 ハヤテの言う事に従った茜は、建物の中へと入って下へと向かう。そんな茜に伸ばされた酔鬼の腕をハヤテは遮り、ニヤリと笑みを浮かべながら言うのである。


 「駄目っスよ。あんたの相手は俺っスから、余所見と瞬きが厳禁っス」

 「俺の動きが見えなかった奴に用は無ぇなぁ~!」


 ――ダンッ、ダンッ!!


 眼前に向けられた銃口から発射された弾丸を回避し、ハヤテは酔鬼の間合いに入り込んだ。その行動に驚いた酔鬼は、目を見開いてハヤテの事を見据えた。


 「お前、さっきと雰囲気が違うなぁ。どうした?気でも触れたかぁ?」

 「そんなんじゃ無いっスよ。ただ、合図が合ったんで、本気を出す事にしたっス」

 「合図?」

 「鬼組幹部が一人、総大将が右腕の俺が相手っスよ。名はハヤテっス。この名前を聞いたあんたにはお代を貰うっス。お代は勿論――あんたの首だ、クソ騎士」


 吐き捨てるようにそう言ったハヤテは、酔鬼の目の前で妖力を解放した。跳ね上がった妖力はその場を覆い、やがて晴れていた空は黒い雲に覆われ始めた。

 まるで嵐の前触れのようにも思えるその光景を見た酔鬼の目の前で、ハヤテはその姿を変貌させた。だが影に覆われており、その姿がまだ確認出来ない酔鬼はハヤテのシルエットを見据える。


 「鬼組の幹部には、それぞれその妖怪の持つ力を妖力にする事が出来るっス。そして、その妖力は総大将であるアニキにも匹敵する力を持っている。黒騎士一人を相手に出来る実力を持ってるのが、鬼組幹部っス」

 「……」


 やがて黒い霧に覆われていたシルエットは白く輝きを見せ、二刀流の武神の姿がそこにはあった。それを見た酔鬼は、見据えたまま銃口を向けて言った。


 「何者だぁ?」

 「俺は風伯ハヤテ。あんたを殺す風神ふうじんだ」

 

 

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