第122話
――時は遡り、数十年前。
まだ鬼組という組織が作られる前、ハヤテが焔から「ハヤテ」と名付けられる前の事である。ある雨の日、曇り空に覆われた世界で雨に打たれていた着流しを着た少年が居た。
その立ち尽くす姿は異様であり、周囲の景色とは別次元の存在だと空気で感じる事が出来た。雨傘を差さず、ただ空を見上げて立ち尽くす少年。その少年に近付くと、足音に気付いたのだろう。
そっとこちらを向いて、目を細める。
「……」
「ここで何をしている?」
少年へそう問い掛けると、少年は目を細めたままこちらを見つめる。雨に濡れる髪から滴る水滴が、額から頬へ、そして地面へと伝って落ちていく。中途半端に伸びている黒い髪は、肩まで伸びている。
だが体格と雰囲気から、少年だという事は理解出来る。少し遠くから見れば、少女と間違える可能性だってあっただろう。だがしかし、それよりも異質だったのは存在感である。
「……何もしに来ちゃいないさ。ただここで、雨に打たれてただけだ」
「ここはお前のような人間が来るもんじゃない。さっさと立ち去れ」
「……」
そう言ったのだが、少年は首を傾げてこちらを見据える。その様子からは、理解していないという事が理解出来る。だがそれはそれで、これはこれだ。これ以上の立ち入りは、拒否したい事を少年に伝える。
「ここから先は俺の縄張りだ。怪しい奴を通す訳にはいかない」
「……なら、一つだけ問いたい」
「何だ?」
「この辺で、最も強い妖怪を探してるんだが……何か知らないか?妖怪でも人間でも、どちらでも良いんだけどな」
「っ……何故、強者を望む?」
「単純な好奇心だ。それに本当に存在するなら、オレはこの目に拝みたい気分なんでな。――それで?知ってるのか、知らないのか?」
そう少年に問い掛けられた瞬間、一気に寒気に襲われた。その寒気を感じた瞬間、少年の事を見据えた。だがしかし、少年の姿が視界から消失し、やがて懐に入られた事に気付いた。
少年はニヤリと口角を上げ、囁くような呟きで言った……――。
「……お前が、風伯か?」
「っ!?」
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