第103話

 ――ガキンッ、ガキンッ、ガキンッ!!!


 金属音が響き、火花が散り咲く。互いに互いを知り尽くしているからこそ、間合いを取る方法も、攻撃の手順も、全てが意味を成さない。

 今、彼らに必要なのは己の信念のみ。それに言葉は不要であり、刀を交えれば自ずと見えてくる物である。何故なら信念を持つ者には、その武器にまで心が宿るのだから……。


 「――はあぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 「ぐっ……!!」


 鍔迫り合いで押しているのは鬼組総大将である焔だが、黒騎士現統括の蒼鬼もその者に引けを取らず攻めの姿勢を繰り返している。だがしかし、焔の実力はその上を行く。


 「ゴフっ……!!?」

 「――っ!!」


 刀で攻撃してくるであろうと読み過ぎた蒼鬼は、刀を囮にした焔の行動に反応が遅れた。腹部へと八拳を喰らい、そのまま真下へ落ちる蒼鬼に焔は追い討ちを繰り出す。


 「……炎帝岩鬼えんていがんき、急急如律令」

 

 そう告げた焔の声に応えるようにして、四つの炎の球体が蒼鬼へと迫る。空中で身をひるがえして体勢を立て直した蒼鬼は、四つの炎球えんきゅうを迎え撃つ構えを取った。


 「――鬼火、暗獄鬼っ」


 蒼鬼は影に覆われ、メラメラと蠢く影の鎧を身に纏った。そんな蒼鬼の行動を見た焔は、目を見開いて口角を上げていた。


 「(オレの教えた暗獄鬼をっ?)」

 「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっ!!!!!!」

 「四つ全てを受け止める気か?」


 焔の疑問は正解である。蒼鬼は妖力を防御に回し、四つ全ての炎球受け止めようという判断のようだ。それを理解した焔は、目を細めて町を見下ろした。


 「(その気になれば回避し、町に被害を与えてオレを揺さ振る事が出来る物を。蒼鬼よ……お前はいつも詰めが甘い奴だ。本当に)」


 焔はそう思いながら、立てていた二本指を横に払った。その瞬間、蒼鬼に直撃しようとしていた四つの炎球が消失する。それを見た蒼鬼は、空中で見下ろす焔を見上げて言った。

 

 「…………どういうつもりだ!!焔鬼」

 

 その問いに対して焔は、空中から蒼鬼の正面に下りて答えた。

 

 「……それはこっちの台詞だ。お前こそ、どういうつもりだ?」

 「これは私とお前の決闘。それ故、他の者には被害を与える訳にはいかない」

 

 その言葉を告げる蒼鬼に促され、焔は下りた場所の周囲に視線を向ける。するとそこには、逃げ遅れていた町民が居た。しかも子供が数人、お互いに縋るように壁の向こう側から焔たちを伺っていた。

 肩を竦めた焔は、再び蒼鬼に視線を戻して目を細めて言った。


 「……蒼鬼、場所を変えるぞ」

 「うむ。……さて、何処にする?」

 「少し待ってろ」


 腕を組む蒼鬼に対して、焔は鬼の姿のまま子供たちの前へ向かう。恐怖心を感じているのか、焔に対しても恐がっている様子には焔自身も気付いている。だが焔は目線を同じくする為にしゃがみ、二本指を立てて口を開いた。


 「……炎帝雀守えんていじゃくしゅ、急急如律令」

 『……!?』

 「これはお前たちを護ってくれるおまじないだ。しばらくこの中に居なさい。大人が来たら、これに触ってと言うんだ。良いな?」

 『…………うん』

 

 そう頷いた子供へと手を伸ばし、焔は目を細めて指先でその涙を拭った。


 「お前は強い子だ。男の子が泣いて良いのは、嬉しい時だ」

 『……うん』

 「良い子だ。……――待たせたな、行くぞ」


 そう言い残した焔は、蒼鬼と共にその場から瞬きの内に姿を消した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る