第十一夜「黒騎士・蒼鬼」

第101話

 「……オレを認めさせてみろ、蒼鬼」


 刀を抜かず、肩に当てながら目を細める焔。そんな焔を見据える蒼鬼は、予備動作も無しに焔との間合いを詰めた。その瞬間、彼らの戦闘が開始された。


 「……っ」

 「不意打ちは性分ではない。昔そう言ってなかったか?蒼鬼」

 「今はそういう気分なだけだ」


 だが、間合いを詰めた蒼鬼の剣を焔はいとも簡単に受け止めていた。その場から動かず、刀の鍔迫り合い中に短い言葉を交わした。

 やがて蒼鬼は焔の目の前から姿を消し、焔の背後へと回り込む。瞬間移動したのかと思える速度で立ち回る蒼鬼に対し、焔はその場からまた動く事も無く振り返らずに言った。


 「……剣士が背中をがら空きにする訳無ぇだろ?」

 「――っ!?」

 「爆風陣ばくふうじん、急急如律令」


 蒼鬼の見えない懐で二本指を立て、呟くようにそう告げた。その瞬間、焔の背後に回り込んだ蒼鬼の目の前が炎に包まれた。視界が塞がれ、間合いを詰める事が炎で出来なくなった蒼鬼は距離を取って後方へ下がった。


 「どうした?蒼鬼。オレはまだ一歩も動いてねぇぞ」

 「そんな事は分かっている。――ふっ!」


 ガキン、という金属音と共に火花が散る。背後からの攻撃が塞がれる中で、蒼鬼は真正面から剣を振るった。猛攻を続けた事もあり、焔が下がりながら蒼鬼の攻撃を受け止める。

 下がりつつ攻撃を受け止めていた焔の様子が気に入らないのか、蒼鬼は焔の首を狙って横の薙ぎ払いを放った。数段速い一撃を放った事により、反射で焔は紙一重で回避して蒼鬼との距離を取った。


 「……何だよ、今のは。随分と勝ちに急いだじゃねぇか。お前らしくない」

 「そのつもりは無い。この程度で敗れるお前で無いだろう?」

 「まぁな」

 「だが納得出来ないものだな。防戦一方に徹するのが、私を認める為の条件か?焔鬼よ」


 蒼鬼が焔の事をと呼んだ瞬間、焔は眉をひそめて目を細めた。


 「お前、まだオレが黒騎士に戻るとでも思ってんのか?」

 「願わくば、だがな。正直に言えば、これが私の目的だ。――我らが同胞、焔鬼よ!私たちの元へ戻って来い!!」


 そう言いながら手を差し伸べた蒼鬼に対し、焔は細めていた目を閉じて言った。


 「――それは出来ない相談だ」

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