第99話

 剛鬼と狂鬼、それぞれの妖力が弱まった事を感じた蒼鬼。肩を竦めているが、手元の動きを緩める様子は無かった。

 金属音を響かせ、火花を散らしながら空中で焔と対峙していた。焔の胸で依然として、抱えられ続けている茜の姿があった。


 「姫を抱えながら戦い続けるのは、いつまで持つかな?」

 「さぁな。……どっちにしろ、茜を手放す気は無ぇな」

 「だろうな。知っているとも、私とお前の仲だからな!」


 ガキン、と衝突した瞬間に衝撃波がその場一帯を包み込む。その衝撃は空中で波紋を出し、周囲に居る全ての生き物に伝わっていた。だが、一番衝撃を感じていたのは茜であった。


 「(……身体が、熱い……どうしてこの人は、私を護りながら戦ってくれるの?それに姫って、もしかして私の事なの?)」


 思考回路の中で様々な事を考えているが、全く答えが浮かんで来ない茜。そんな茜の異変に気付いた焔は、電柱へと着地してから胸の中で丸くなっている茜に問い掛けた。


 「……辛いか?茜」

 「……え、えっと……(か、顔が近いです!)」


 照れて言葉が出ない茜に対して、焔は肩を竦めつつ蒼鬼に提案を出した。


 「はぁ……おい蒼鬼、お前とオレの間にある勝負に白黒付けたくないか?」

 「なんだと?」

 

 そう言った焔は、ゆっくりと学校の屋上に茜を降ろした。だが降ろした直後、焔は囁くようにして茜に耳打ちした。

 その言葉を聞いた瞬間、ドキッとした茜は頬を真っ赤に染めた。ドクンと脈打つのを押さえるように茜は胸を押さえ、前に立つ焔の背中を見て目を細める。


 『やっぱり……ほーくんは優しいよね』

 「え?(っ!?……声が頭の中で)」

 『あぁ、そのままね。私の声は、ほーくんに聞こえないから、少し寂しいけど……あなたとも話したかったから』

 「(私、と……?えっと、貴女は)」

 『私?私はあなた、それで、あなたは私。意味の分からないかもしれないけど、それがほーくんが私たちを護る為にした事だから仕方が無い。記憶の操作をされているとしても、今の私も、私が語り掛けてるあなたも、どっちも私だからさ』


 何を言われているのか分からない茜は、頭の中で響く声に耳を傾けていた。だが茜は、何故かその言葉から耳を逸らそうとはしなかった。

 そんな茜の様子が内側から分かっているのか、内側に居る茜はクスっと笑みを溢しながら昔話をし始める。

 それは彼女が知らない、忘れてしまった話。彼女が進むはずだった道であり、彼女自身が押し込めていた我慢と言葉。そして想いを全て、彼女は語り続けた。ただ一言、確実に理解して欲しい事を強調しながら……


 『――私はね、ほーくんが大好きなんだよ。そしてあなたも、ほーくんが好きになって来てるよね♪ね?由良茜わたし

 「っ……!?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る